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#オリジナル
#ゆいちー達の日常
桜城
416
東の森の端っこにまとめられたダークウルフの死骸。真昼間の日差しに当てられながら、和服の華奢な体の男は、腰の鞘に入っている刀を静かに抜く。はぁと呆れたようなため息を吐き、もう息絶えているそれに丁寧に手入れされた刀を乱雑に突き刺す。
「…これだから弱者は、せっかく力を与えたの言うのにこんな呆気なく殺されるとは。しかもあいつらに情報を与えたな。この役立たずが」
笑っている狐の面とは裏腹に、怒りを表す中性的な声色から吐き出される言葉はナイフのように鋭い。
何度も肉を突き刺す嫌な音が太陽に照らされる。落ち着いたのか、ふぅと息を軽く吐いた彼は怒りの色に塗れた刀を肉塊と化したそれから引き抜き、汚れを落とすために空気を切る。べちゃりと赤い液体が緑の茂みにへばりつく。
「お前らが生きていたら罰を喰らわせるつもりだったのに…いや、とにかく報告だ」
カチリと鞘に刀をしまい、彼は踵を返して森の中へと沈んでいく。
「魔王様に…」
・・・
次に瞼を開けた時、視界に入ってくるのは薄暗い部屋に置かれる大量の資料ではなく、ただ晴れやかな気持ちになる程に眩しく向こう岸が見えぬ海と潮風に吹かれていた。
リトナは胸いっぱいにその空気を吸い込み、深い深呼吸をする。
「さて…どうやってクラーケンをここまで誘き寄せるかだね!」
「水中戦では不覚を取られる可能性が少なからずあるものね」
「どうします?私クラーケンを誘き寄せる魔法なんて持ってませんよ?」
「そんなピッタリな物持ってたら怖いわよ」
魔法が得意な二人でも流石にそんな便利な魔法は持っていないらしい。勿論、リトナ自身もだ。どうするかと視線を横にやる。
廃れた潮風に削られたコンクリートの地面に、釣りで使う返しの付いた釣り針がコロリと落ちていた。
「…そうだ!」
「何か思いついたのですか?」
リュートルの疑問に応える為、リトナはその針を手にして二人に掲げて見せる。
「クラーケンを釣ればいいんだよ!」
「「…は?」」
ポカンとした表情の2人にふふんと鼻を鳴らしてみせる。勿論、その場には釣り竿も餌もなく、ただ海風が静かに吹いていくだけだ。
「なんですかそれ…」
「流石に馬鹿すぎるわよ。クラーケンなんて釣れるわけないじゃない。体長も重さも桁違い、海に引き摺れ込まれるわよ…」
ヴィーナスがはぁと呆れた溜め息を吐きながら理論上不可能であると諭してくる。クラーケンは下手したら伝説級の魔物、確かに普通の人間ではほとんど確実に釣り上げられない。
そう、“普通”ならば。ヴィーナスの考え方は普通の人間に近いが…彼なら。
「めっちゃ楽しそうじゃないですかー!」
「でっしょー!?リュートルわかってるー!」
そう。神童リュートル・フェイスナルなら確実に乗ってくるとリトナは踏んでいたのだ。
ああそうだった。こいつらはこうだったとヴィーナスは頭を抱える。
「…ああもう!いいわよやってやるわよ!」
半ばヤケである。元生徒会長の彼女は合理的に確実に勝ちを取りに行くような女である…つまりこの二人と相性最悪なのだ。
ファイアール・ヌーヴェルト…S級幹部唯一の真面目気味な考え方を持つ彼に想いを馳せながら、ヴィーナスは不可能という理屈を海に放り投げた。
・・・
「いやね?確かに釣ろうって言って止めなかった私も悪い気はするんだけど…だからって自分の武器釣竿にすることはないでしょ?」
「買いに行くの面倒だったんだもん」
「わざわざ買いに行ったのよ私?結構高かったのよ釣竿?ねぇ?どこ見てんのよ私の目を見なさいよ」
十分後。わざわざ釣り屋まで足を運び釣竿を購入したヴィーナスは、自分の武器を変形させたリトナに半ギレである。
自分のポケットマネーから消えた金貨数枚に涙しながら新品の竿を撫でる。
「こういう時は工作ですよ!ほら!」
「…ゴミ?」
「ゴミはないでしょ!?」
リュートルの手に握られている木の枝に糸を付けた釣り竿のような何かに眉を顰めながらも、ヴィーナスは頭を抱える。誰か変わってくれマジで、 私はこいつらと根本的に合わない。
「んで…餌は?」
「「パン」」
「舐めてんの?」
・・・
海面に垂らした釣り竿の糸が潮風に揺られる。雨のような、潮のような香りに鼻をくすぐられて少しムズムズとした感覚を覚える。そして…
「釣れたー!!!」
ザパーンと大きな波音を立てて現れたのは、狙っていた獲物クラーケンご本人である。大きなイカの足一本一本がクネクネと動き、自分を釣り上げた3人の人間を見物する。
釣れちゃった…と目の前の光景を目を丸くするヴィーナスと、悪ノリで乗ったら思ったより上手くいって驚いているリュートルに対してリトナはクスクス笑う。
ジャラジャラと鳴く長い鎖を手に、未だポカンとする二人の背中をドンっと強く叩く。
「ヴィーナス!何分耐えればいい?」
「…えぇ、そうね…5分耐えなさい」
ヴィーナスは背中を叩かれた瞬間ハッとしたように目を丸くし、その後に目つきを鋭くしてニヒルに笑う。彼女の手に握られたのは先ほどの釣竿なんかではなく、木目が美しい魔法の杖である。
「さぁ。戦闘開始の狼煙をあげましょう」
そんな親友の顔を見て「悪い顔をするなぁ」と、リュートルは水を模した白い石の杖を手にする。 その瞬間、3人は潮の香りに襲われるような感覚を覚える。いや、その匂いの本体が形を変えているのだ。
リュートルの特に得意な魔法は水流自在、彼の手により海が踊り、海底を露わにし戦闘フィールドを作り出す。
ここからはリトナの仕事だ。堤防から身を空中に投げ、スタリと湿り海の香りが抜けぬ海底に着地する。ボコボコとした岩にくっついたままのヒトデが驚いたようにポトリと砂の上に落ちてしまった。
ジャラリと音を立て、黒い刀身の刃が笑う。ドクドクと魔力を流し込みそれをさらに鋭く、強く、伸ばす。左右非対称のそれを見てリトナは「完璧」と呟き、カチャリと音を立てて構えた。
「たまには別の戦い方も楽しまなきゃ!」
・・・
黄昏時の事務室。紙の擦れる音や、情報をまとめる為の万年筆の一定の音が鳴っている。
一人のメイドが席を立ち、そこにいる彼らに問う。
「すまぬ。リトナ様方が何処にいるか知っておられる者は居られるか?」
古風的な話し方。ヒラリと揺れる長いクラシックスカートのメイド服。少し暗い肌を持ち長い耳を揺らして歩く、部屋を見渡すその目は深淵の如く黒い。彼女はエマリア・クラシック。ダークエルフと呼ばれる、悪魔とエルフの契約の末に生まれる珍しい種族だ。
そんな彼女に「リトナ様ならヴィーナス様、リュートル様の3人で討伐に行ったよ〜」と机に突っ伏しながら答えたのはテラン・ウィンドだった。
そう、前回ヴィーナスに「ついて行かせてください!」と張り切っていた、可愛らしい男の子である。あの日は彼女の言葉にわかったといい、従者らしく主を送り届けたが…実際はめちゃくちゃについて行きたかったのだ。
「むー…ヴィーナス様の背中を守れるのも、一番可愛いのも僕なのに…」
「いつまで拗ねてんだ。とっとと手ぇ動かせ馬鹿」
メガネをつけた黒髪の男から資料を受け取りつつ、仕事をする手を止めないレント・クラーレがテランを口で叱る。
彼はジュピター・アガメムノンの部下であり、主に似合わぬ程真面目な男である。今も拗ねている年下の同僚の背中を叩きながら、ペンを持たせている。
「左様ですか、お伝え頂き感謝する」
「別にいいですよ。どうしたんですか?リトナ様達に何かありました?」
レントが先輩にそう問えば、エルフは少しばかり口を悩ませ、恥ずかしそうに口を開く。
「只今討伐に向かわれているクラーケンについて話がしたかったのだ。強化されているという話も耳にしたが、リトナ様方なら問題なかろう」
「そうですよ。逆にクラーケンが可哀想なぐらい」
はぁとため息を吐いた軍人は、困ったように頬杖をしながら彼女達の顔を思い出す。
無邪気で、子供心があり、真面目な3名。その実力は本物だ。レントはたまに、彼女らを化け物だと思うことがある。比べる気にもならない圧倒的な暴力。その力を持ちながら、味方であることに感謝することしかできない。
「準伝説級の魔物を一人で問題なく討伐できるA級一人と、それをノーダメで相手できるS級が二人。クラーケンも相手が悪かったな」
そう、拗ねたようにレントは呟いた。
コメント
3件
やっぱりこの3人組の絶妙なバランスがたまらないね〜!ヴィーナスのツッコミが冴えわたってて「舐めてんの?」の一行で爆笑しちゃったよ😂 クラーケンを釣るっていう阿呆な計画にノリノリのリトナとリュートル、そして半ばヤケで付き合うヴィーナスの構図がもう最高すぎる!! でも最後はちゃんと連携して戦闘開始するところ、めっちゃかっこよかった〜!やっぱり実力は本物なんだよね。エピローグの事務所パートも含めて、テンポよくて楽しい話だったよ!続きが気になる〜!