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お福に連れられ紗理奈は、一階の巨大なダイニングテーブルに座っていた
なんでもお兄さんの北斗邸を増築するのと一緒に、母屋もここ数年で綺麗に改装に改装を重ね、素晴らしい母屋になっていた
1階はどんどん増えていく従業員や観光客用に、土足で出入り出来る板間になっており、ちょっとした地ビールや牧場で出来たものを売れる小さな販売所があった
そしてその奥には堂々とした食堂と応接室がある
おそらくここで従業員達がくつろいでいるのだろう、15人は座れそうな磨き上げられた、ダイニングテーブルに座り
紗理奈はお福の作ってくれた、ほうれん草入りのミックスジュースを飲んでいた
どうやらお福は紗理奈は貧血も患っていると見抜き、あれやこれや楽しそうにメニューを考えている
不思議と母親や姉達の言う事は、何でも反発したくなるのに、お福に対しては素直に何でも受け入れられた
彼女は懐深く説得力のある人だった、紗理奈は仔猫のようにお福から出されるものは、何でも口に入れた、気分はすっかり良くなっていた
ペラペラ・・・
「お若い方はね、サプリなどで手っ取り早く栄養を取ろうとするでしょ?それもいいですけどやはり急激に身体を、変えようとすると胃が荒れたり、それだけ反作用も大きいものなんですよ!特に妊娠中はね、ゆっくりと食べ物で栄養を、吸収できるようにね、アリスお嬢様は4人お子様をお産みになられましたけど、み~んなこの福のお食事でね、それはそれは健康にお育ちですよ、そうそう!ジンさんのお父さん所のイノシシ肉は貧血予防にとても良くて― 」
その時天井が二メートルほどある玄関ホールから、カランカランッと鈴が鳴り、直哉がズカズカキッチンへ入って来た
「紗理奈!起きたか!」
「ナオ!」
ゆったりとした白いシャツを胸元ではだけ、カーキ色の乗馬ズボンを履いている彼は、まるで一昔前の海外の貴族みたいだった、思わず紗理奈は彼に見惚れた
太腿が膨らんだ乗馬ズボンに、膝下はふくらはぎにぴったりした真っ黒なブーツ、踵の部分には小さな拍車が付いていた
こんなに見事に乗馬ズボンを履きこなす人は、他にいないだろう
メッシュの筋が入った、茶色の髪を風で乱し、走って来たのか頬を赤く染めた直哉は、一国の王者のように魅力的だった
「君をベッドから引きずり出しに行こうと、思っていたんだぞ!おねぼうさん!、良い天気だし俺の農場を案内したくてね、よく眠れたか? 」
一目もはばからず、直哉は彼女を抱きしめ「ん~まっ」と、おでこにキスをした
途端に紗理奈の顔がトマトの様に真っ赤になった
「お・・・おはよう・・・」
「まぁ!坊ちゃま!手を洗ってくださいな、奥様と朝食を召し上がってね!」
ドカッと紗理奈の横に座り、身を乗り出して紗理奈をジロジロ見る
「・・・今朝は顔色が良いな・・・メシは?食ったか?」
「ええ!お福さんにあれこれ進められて、お腹いっぱい」
直哉と紗理奈の前に次から次へと出て来る料理は、ワッフルに卵料理、フルーツも沢山、皿に盛られて出て来た
食器類も高価なものばかりで、紗理奈にはとてもではないが直哉のように、ぞんざいに扱うことは出来なかった
直哉は大皿からそれは見事な、シャインマスカットの房を手に取って言った
「お福さん!これ持ってっていい?紗理奈と牧場で食いたいんだ! 」
キッチンの方からバスケットに、包むから少し待てとお福から指示が飛んだ
「君はもっと食え!ずいぶん痩せた!昨日抱いて驚いた」
直哉が顔をしかめて言う、途端に頬が熱くなる
「あの・・・昨日私・・車で眠ってしまって、その後の事は何も覚えてなくて・・・」
「俺が君を運んだことは?」
「ぼんやりとだけ」
「服を脱がせたのは?下着も全部」
「知らないわ・・・ 」
「キスしたのは?」
紗理奈の鼓動は乱れた
「知らない・・・」
ニヤッ「あんなに情熱的にキスを返してくれたのに?」
紗理奈が真っ赤になって小声で言った
「あの・・・私達・・・その・・したの? 」
「俺の頭の中でだけね・・・」
直哉は途端に何を考えているかわからない表情になり、ドカッと紗理奈の椅子に片足をかけ、しっかりと手を握りしめた
温かくて頼もしい手だった、握られているのがとても心地よい、誰かに触れられるのは久しぶりだ
紗理奈は爪先から頭のてっぺんまで熱くなったが、それでも手を離すことが出来なかった
直哉はキョロキョロと辺りを見渡し、ダイニングルームに二人っきりだと確認してから、そして紗理奈の手を引っ張り体を引き寄せ、頭を傾けた
「ナ・・・ナオ・・・・?」
紗理奈の頭は真っ白になった、キッチンにはお福さんもいるし、誰が入って来るかわからないのに
心臓がドクンドクンと鳴っている、彼のウィスキー色の瞳をぼんやりと見上げた
軽く抱きしめられ、優しく背中をなでられた、彼の体は当然のように温かくて逞しかった
紗理奈は膝が震えた
ぼうっとしたまま声を出すこともできず、頬に手を当てられた、彼の顔が近づいてきて、そっとキスをされた
直哉は気さくな魅力があり、それに抵うのは難しい
紗理奈は目を閉じ当然と言うように口を開いた、鼓動が高鳴り、少し触れられただけで体が熱くなる、自分がこんな反応をするのは彼だけだ
彼だけ・・・・
暫くして唇は離れ、お互い見つめ合った、直哉がハッとしたように言った
「あ~・・・え~っと・・・何を言おうとしたんだっけ?そうだ!今から俺の娘を紹介しようと思うんだけどどうかな?」
キャーッ「会いたい!」
二人はお福の持たせてくれた、ピクニックランチを手に、半月に刈られたツゲの木が両サイドに、綺麗に植えられた歩道を手を繋いで歩いた、キョロキョロと辺りを見回しながら、紗理奈が言う
「この母屋は最初からこんなに美しい所だったの?まるで赤毛のアンの世界だわ」
「いや・・・10年ほど前は荒れに荒れてたさ、でも兄貴の嫁さんのアリスが来てから、兄貴も牧場を日本一にするってアリスと二人で、力を入れだしたんだ、んで・・・色々あって兄貴が議員になってから、あの二人は今度はこの島を日本一にするって力を入れてる」
う~んと伸びをして直哉が続ける
「うちの家族も成宮議長を支持してるわ!あのスタジアムの議長のスピーチ!お若いのに素敵だった、この島を検索すると、真っ先にあのスピーチ動画が出て来るのよ、私、何度も見たわ、あっ!私大変なことを思いついちゃった!ここで暮らすのなら議長にもいつかお会いするわよね?」
嬉しそうな紗理奈に、彼は太陽のように笑った
「毎朝ステテコ姿で畑仕事をする所を嫌でも見るようになるよ!いっとくけど、俺の方がハンサムだぞ!」
「まぁ!ナオったら!お兄さんに失礼よ!」
直哉は笑いながら紗理奈の肩に腕を回した
直哉が案内した巨大な厩舎はさしずめ、馬のための豪華ホテルといった所だ
大勢の従業員が胸のポケットに成宮牧場の紋章の、刺繍をした青いつなぎの作業服を着て、かいがいしく馬の世話をしている
見るものすべてが目新しく紗理奈は言葉もなく、キョロキョロとその光景を見つめていた、目があと4つほど欲しい
「この農場の第一の仕事はアラブ馬の飼育だ、その話はしなかったっけ?」
紗理奈のびっくりした顔に気が付いて、直哉が言った
「あなたは私に少・し・馬を育てていると、いったのよ?これが?少し?」
この美しい馬を育てるには途方もない、お金がかかることは見ただけで分かった
この広大な馬小屋に放牧してる馬を合わせると、いったい何頭の馬がいるのか、考えてみる気もなれない
二人が馬小屋をぐるりと回って出ると、従業員が一頭の馬を引いてきた
思わず紗理奈が息を飲む、その真っ黒な馬は言葉には、言い表せれないぐらい美しかった
毛はサテンの様に輝き、尻尾はピンとあがってから垂れている
黒い蹄は磨き上げられ、細長い顔には気品があり、小さな耳がピンと立っている、そして左耳には直哉と同じシルバーのピアスがつけられていた
よくブラシのかかった、豊かな鬣は艶やかで、長い睫に隠れた瞳はとても賢そうな光があった
直哉はこの真っ黒な馬に歩み寄るとやさしく、顎を撫でて言った
「紹介するよ紗理奈、ディアボロスだよ「ディア」って呼んでる」
「こんな美しい子をディアボロス悪魔なんて、酷いわ!素晴らしい馬ね!馬の事はよく知らないけどまさに文句のつけようがないわ!」
「いやいやそうやって人を魅了する所が悪魔なんだよ!コイツを乗りこなせるのは俺だけでね、頭のいいコイツは一度足が折れたフリをして、俺達を心配させて脱走を試みた事があるんだ、ずる賢さとヤルことは悪魔以上さ」
直哉はそう言いながらも褒めてもらって嬉しいのか、大声を上げて笑ったが
ディアはどうやらそれに慣れているのか、ピクリともしないで無関心だ
でもなんとなく無関心を装っているディアに、紗理奈はチラチラ観察されているようにも思えた