テラーノベル
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もちごめ
❄️
続き 五
第2話
任務は、思っていたよりも厄介だった。
「は?聞いてた話と違くない?」
建物の中に足を踏み入れた瞬間、思わず声が出る。
本来は二級相当。
そう説明されていたはずなのに——漂っている気配は、それより明らかに重い。
「まぁ、よくあるよね」
隣で、やたらと軽い声。
「よくあってほしくないんだけど」
「でもあるじゃん」
そう言いながら、五条はあっさりと前に出る。
その背中は、やっぱり余裕そうで。
「ちょっと待って」
反射的に腕を掴む。
ぴたりと止まる動き。
「……なに?」
振り返った顔は、少しだけ意外そう。
「一人で行かないで」
口に出してから、少しだけ後悔する。
言い方が、あまりにもそれっぽい。
でも、彼は笑わなかった。
「心配してくれてる?」
「任務だから」
即答。
変に勘違いされたくない。
すると、彼はふっと目を細めた。
「へぇ」
そのまま、掴んでいた手首を軽く握り返される。
「じゃあ、一緒に行く?」
距離が近い。
さっきよりも、逃げにくい距離。
「……当たり前でしょ」
言い返すと、彼は少しだけ楽しそうに笑った。
「いいね、その顔」
「今それ言う?」
「言う」
本当に空気読まない。
でも、その軽さのおかげで少しだけ緊張がほどける。
建物の奥に進むにつれて、気配はさらに濃くなる。
肌にまとわりつくような、嫌な感じ。
「後ろ、気をつけて」
「そっちこそ」
短いやり取り。
さっきまでの軽さは消えて、空気が変わる。
その瞬間——
奥から、一気に呪霊が現れた。
「っ!」
反応が一瞬遅れる。
数が多い。しかも、動きが速い。
「下がって」
低い声。
次の瞬間、視界が一瞬で白に塗りつぶされる。
五条の術式。
圧倒的すぎる力で、目の前の呪霊が一掃される。
「……相変わらず、規格外」
思わず呟く。
「褒めてる?」
「半分くらい」
「残り半分は?」
「引いてる」
そう言うと、彼は笑った。
「ひど」
でも、その余裕は長く続かなかった。
「まだいるね」
彼の声が、少しだけ低くなる。
奥の気配。
さっきよりも、明らかに強い。
「これ、一級近いかも」
「だね」
軽く言うけど、視線は鋭い。
「無理しないで」
思わず出た言葉。
すると、彼は一瞬だけこっちを見る。
「それ、僕に言う?」
「言う」
間髪入れずに返す。
彼が強いのは知ってる。
でも、それとこれとは別だ。
「……ふーん」
ほんの少しだけ、表情が緩む。
「じゃあ、ちゃんと見てて」
そう言って、前に出る。
その背中を、今度は止めなかった。
止められないと、わかっているから。
奥から現れた呪霊は、やっぱり格が違った。
空気が歪むみたいな圧。
「——っ」
思わず足が止まる。
その瞬間、横から腕を引かれる。
「だから後ろ気をつけてって言ったでしょ」
気づいた時には、彼のすぐ後ろに引き寄せられていた。
距離が、近いなんてレベルじゃない。
ほぼ、抱き寄せられてるみたいな位置。
「危ないから、ここいな」
「……子ども扱いしないで」
「してない」
即答。
「してるでしょ」
「してないって」
言いながら、離す気はない。
むしろ、さっきよりしっかり支えられている。
「邪魔になる」
「ならない」
一歩も譲らない声。
「むしろ——」
一瞬だけ、間が空く。
「近い方が守りやすい」
その言い方が、妙に真っ直ぐで。
何も言えなくなる。
そのまま、彼は前を向く。
戦いは一瞬だった。
圧倒的すぎて、見ているしかできない。
気づけば、呪霊は消えていた。
「はい、終了」
軽い声。
さっきまでの緊張が嘘みたいに消える。
「……ほんと、何それ」
「何って?」
「強すぎ」
正直な感想。
すると、彼は少しだけ肩をすくめた。
「まぁね」
否定しない。
むしろ当然みたいな顔。
そのまま、ふとこっちを見る。
「で?」
「何」
「さっきの」
「……何のこと」
わかってるくせに、聞いてくる。
「無理しないで、ってやつ」
少しだけ、声が低い。
「別に」
誤魔化そうとするけど、
「嘘つくの下手だよね」
即座に見抜かれる。
「……任務だからって言ったでしょ」
「うん、聞いた」
一歩、近づく。
「でもそれだけじゃないでしょ」
距離が詰まる。
逃げようとした瞬間、また腕を掴まれる。
「逃げるなって」
「逃げてない」
「はいはい」
さっきと同じやり取り。
でも、空気は少し違う。
「ねぇ」
今度は、さっきより静かな声。
「心配してくれるの、嬉しいよ」
一瞬、言葉が止まる。
「……っ」
予想外すぎて、何も返せない。
「だからさ」
少しだけ屈んで、目線を合わせてくる。
「もっとしていいよ」
軽く言うくせに、目は逸らさない。
「……調子乗らないで」
やっとそれだけ言うと、彼はくすっと笑った。
「乗るよ」
即答。
「だって君、ちゃんと僕のこと見てるし」
図星。
悔しいくらい、図星。
「ほら、また赤い」
指先で頬に触れられる。
今度は、さっきよりも優しく。
「任務中なのに」
「終わったじゃん」
「そういう問題じゃない」
「じゃあどういう問題?」
詰められる距離。
逃げられない。
「……知らない」
小さくそう言うと、彼は満足そうに笑った。
「いいよ、知らなくて」
また、あの言い方。
「その代わり」
少しだけ声が落ちる。
「僕がちゃんと教えるから」
指先が、ほんの少しだけ頬をなぞる。
「——期待してて」
そのまま、何事もなかったみたいに手を離す。
置いていかれたみたいに、少しだけ息が詰まる。
「ほら、帰るよ」
振り返らずに言う背中。
結局また、その隣に並ぶしかない。
——距離は、確実に近づいてる。
認めたくないけど、
もう、最初みたいには戻れない。
next 7♡
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