ローフッドを出港した智の導き手号は強力な魔法の加護によって嵐に会う事も海の魔物と遭遇することも無く、ラリアル大陸西部の港に到着した。
ラリアル大陸とはいうものの大陸というには小さく、巨大な島と呼ぶ方が正確なようである。
その港もローフッドに比べれば非常に質素で小さなものであった。
これはラリアルの主な住人であるドワーフが交易に消極的だからだろう。
「港の住人もノービットがほとんどだな。他の人種の姿が見えない」
ハスバールが言った。
そしてそのノービットの様子がおかしかった。
好奇心旺盛かつ商売熱心であるはずの彼らが来訪者達に興味を持つ様子も、客として歓迎し商品を売りつけようとしたり宿屋に招こうともしない。
「……妙だな。慌ただしく不安気だ。何かあったなこれは」
一行が長い船旅の疲れを忘れて警戒の構えを取った。
「このラリアルを脱出しようかとか相談してるよ。リザードマンの襲来を警戒しているみたい」
パールが言った。ノービットという種族は非常に五感が優れている。
その聴力を生かして住民達の話を拾ったのだろう。
「ほう。だがここのリザードマン共は自分たちの領域に引きこもって大人しくしているんじゃなかったのか?」
「そのはずですが……」
フリードの言葉にエリアは困惑の表情を浮かべながら答えた。
「とにかく、ここにいるはずの魔術ギルドの術師に会って事情を聴きましょう」
一行は急ぎ足で移動し、エリアの指示に従って小さな建物に入った。
「ここが魔術師ギルドに派遣された魔術師達の拠点のようです」
エリアが全く迷わずこの建物にこれたのは、建物自体が発する魔力を探知したのか、それとも中に住んでいる魔術師と交信したからなのか。特にエリアは説明しなかった。
「導師エリア様、そして竜殺し達よ。よく来られた。粗末な所だが、歓迎しましょう」
魔術師ギルドの術師として正装であるローブを纏ったエルフ三人が出迎えた。
「歓迎など無用です。それよりこのラリアルで何かあったのでしょう。事情を説明しなさい」
派遣された術師三名より高位である導師としての威を見せながらエリアは命じた。
「はい。以前に報告した通り、ここ数年は内陸部に住むリザードマン達は大人しく、ドワーフ達とも争いを起こすこともありませんでした。しかし、つい先日エトルリアで出現しているという天使がここラリアルでも目撃されたのです」
「天使がここにも出現したのか!ということは……」
一行に衝撃が走った。そしてエリアに代わってフリードが術師に問うた。
「はい。ラリアルの内陸部、リザードマンの領域に存在していたドラゴンに攻撃をしかけたようなのです。天使は全て撃退されたようなのですが、それによってドラゴンの動きが活発になりました。そしてそれに連動して大人しくしていたはずのリザードマンが非常に獰猛かつ攻撃的になり、ドワーフ達の領域に攻め込むようになったのです」
「そういうことですか……」
エリアは報告を聞き、考えに沈みこんだ。想定外の事態を聞き、これからどう動くか思案しているのだろう。
「これを黙って見ているって手はないよな」
フリードが好戦的な気性を露わにして言った。
「ドワーフに加勢するつもりか?」
ラルゴは疑わし気に応じた。
「ここのドワーフの気性がどういうものか知らんが、エトルリアでわしを追い出した連中と変わらんだろう。よそ者に介入されることは望まんはずだ」
「奴らがどう思おうが知ったこっちゃない」
フリードが鼻で笑いながら言った。
「俺たちは俺たちで勝手に戦えばいい。だろう?」
「言うと思ったよ」
ハスバールが肩をすくめた。
「まあ、確かに。竜と天使が出現している以上、私達が無関係を決め込むことは許されませんが……」
エリアが言った。やはり彼女も戦う覚悟を定めたようである。
「まずは敵の戦力を知らねば話になりません。竜がどれ程いるか、どの種類なのか、分かりますか?」
「天使との戦いで数頭は死んだようです。目撃したドワーフの話を聞いたノービットによれば、現在では五頭程確認されているようです。ですが種類までは分かりません。ドワーフやノービットには竜に対する知識があまり無いようなので……」
「そうですか……」
あまりの情報の乏しさにエリアは失望の表情を浮かべた。
「これ以上ここにいてもしょうがないな」
早くもフリードが席を立とうとしていた。
「今すぐ竜共の所へ行こうぜ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ」
パールが慌てた。兄に聞いていた以上のフリードの即断即決、恐怖やためらいと言った感情が欠落しているとしか思えない態度に面食らった様子であった。
「いきなりパール達だけで竜数頭に殴りこむなんて無茶ですって。ドワーフ達に話を聞いてもう少し事情を探らないと!それで共闘できるかも知れないじゃないですか!」
「無駄だと思うぞ。ドワーフの頭の固さを甘く見過ぎだ」
ラルゴが手厳しく言った。ドワーフの共同体から締め出され、竜殺しの英雄となってもなお己を許そうとしない同族の頑迷さを思い知らされている彼の言葉は重かった。
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