テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#青春ラブコメ
ラスターダノン
486
おねぎ
235
翌朝、僕は登校中の通学路で、盛大なため息を吐き出していた。(ハァ……睡眠時間3時間。今日も今日とて目がバキバキだ……)
目指すは二年B組の教室。
カバンの中には、昨日の放課後に大活躍(?)した【混沌のダイス・ギャンブル・パニック】が静かに鎮座している。
学校の門をくぐると、すれ違う男子生徒たちが一斉に僕を避け、遠巻きに哀れみの視線を向けてくるのが分かった。
「おい見ろよ……天野の奴、今日も目の下にクマ作ってるぞ……」
「毎放課後、九條ヶ原さんに密室で搾り取られてるんだろ……? もう命の灯火が消えかけてるじゃねえか……」
(違うわ! 昨日はただ100円玉投げ合ってデコピンされてただけだわ!!)
心の中でツッコミを入れつつ、教室の引き戸を開ける。
そこには、朝の光を浴びながら優雅に読書をしている九條ヶ原美咲の姿があった。
隙のない制服の着こなし、透き通るような白い肌。相変わらず、どこからどう見ても深窓の令嬢そのものだ。
僕が自分の席に着くと、美咲は文庫本をそっと閉じ、すっと僕の方へ振り返った。
その瞬間、彼女の瞳がパッと輝くのを僕は見逃さなかった。
「おはようございます、天野さま。本日の朝の空気は、実にすがすがしいですわね」
上品で凛とした声。だが、その口元はどこか誇らしげに、むずむずと開きたがっているように見えた。
「おはよう、九條ヶ原さん。なんか……朝から機嫌良くないか?」
僕が尋ねると、美咲は待ってましたとばかりに背筋を伸ばし、扇子を開くような優雅な仕草で胸を張った。
「ふふ、お察しがよろしいですのね。実は昨夜……オンラインの対戦部屋にて、前人未到の**【100連勝】**を達成いたしましたの!」
「ひえっ……100連勝……!?」
思わず引いた。
噂の『100人斬り』の真実が『通算100勝』だったはずなのに、昨日の今日で『100連勝』まで達成してきたというのか。どんだけガチでオンライン対戦やり込んでんだこのお嬢様。
「ええ! どんな猛者の強襲も、私の『完璧な盤面』の前には手も足も出ず、皆さん次々と敗者席へ送られていきましたわ。これで私の理論の完璧さが証明されましたの!」
勝ち誇る美咲の顔は、朝の教室で光り輝いていた。
……なんだろう。
恋とか、そういう甘酸っぱい感情とは全然違う。
胸がときめくとか、彼女を女として意識してドキドキするみたいな感覚は、今の僕には1ミリもない。
ただ——。
(こいつ……めちゃくちゃ可愛い『カード仲間』だな……)
男同士で放課後に部室に集まって、くだらないクソデッキを自慢し合ったり、「俺のデッキの方が強いし!」って張り合ったりする、あの**【最高の友人】**に対する愛おしさと熱量が、胸の奥から湧き上がってくるのだ。
高嶺の花として誰からも遠ざけられ、噂に怯えられていた彼女が、僕の前でだけはただの「負けず嫌いなガチゲーマー」としてドヤ顔を決めている。
それが、なんだか無性に嬉しかった。
「へえ、100連勝か。すごいじゃん九條ヶ原さん」
僕がニッと口角を上げて笑うと、美咲は一瞬ポカンと目を丸くし、それから少し照れくさそうに視線を泳がせた。
「……っ、まあ、私にかかれば当然の結果ですわ。ですが……」
美咲は声を少し落とし、上目遣いに僕を見つめてきた。
「オンラインの100勝など、作業に過ぎません。私がいま一番試したいのは……天野さまのあの『理不尽なダイス』に対して、私の100連勝の理論が通用するかどうか……ですの」
(……出たよ、対戦欲の化身)
「言っておくけど、今日の僕のダイスは昨日より出目が荒れる予定だからな? 100連勝の理論ごとサイコロで吹っ飛ばしてやるよ」
「まあ! 言ってくださいますわね! 本日の放課後……覚悟なさってくださいまし!」
ふふん、と鼻を鳴らして席し直す美咲。
僕たちはまだ、手を繋いだことも、デートをしたこともない。
甘い雰囲気なんて欠片もないし、お互いにあるのは「今日の放課後、カードでどっちが勝つか」という純粋な闘争心と友情だけだ。
でも、それでいい。
僕たちはこの密室で、最強の「ライバル」であり「友達」になったんだから。
(待ってろよ九條ヶ原。今日の放課後は、ジャンケンとコイントスで100連勝のお嬢様をギャフンと言わせてやる……!)
教科書を開きながら、僕は胸ポケットのサイコロをそっと指で転がし、放課後が来るのをニヤニヤしながら待ち焦がれるのだった。
コメント
1件
いやあ、この回めっちゃ良かったですね!「恋愛じゃなくてカード仲間としての友情」って関係性、すごく新鮮で胸が温かくなりました。美咲さんの100連勝報告に照れながらもドヤる感じと、それに対する主人公の「可愛いカード仲間だな」って感情がすごく伝わってきて、思わずニヤニヤしちゃいました。放課後の対決、楽しみすぎます!