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窓の外から差し込む午後の光が、少しだけ眩しく感じられた。
伊波ライは喉の奥にこみ上げる微かな熱と、頭を締め付ける鈍痛を誤魔化すように、ふらつく足取りでリビングへと向かった。
そこには、彼が所属するユニット『Dytica』のメンバーたちが集まっていた。小柳ロウ、叢雲カゲツ、そして星導ショウ。3人はモニターや資料と向き合い、何やら熱心に打ち合わせをしている。
「……お疲れ様。今、少しだけいいかな?」
ライが声をかけると、星導が画面から目を離さずに短く言った。
「ごめん、ライ。今ちょっと立て込んでて。後で話しましょう、」
「ああ、俺も今どうしても片付けなきゃいけないタスクがあってさ」と、小柳が続く。
「そっか、ごめん。忙しい時に」
ライは苦笑いを浮かべてリビングを後にした。胸の奥に小さな棘が刺さったような感覚がある。少し話せば気が紛れるかと思ったが、どうやらタイミングが悪かったらしい。
***
それから数日間、ライの体調は緩やかに、しかし確実に悪化していった。
熱は下がらず、身体は鉛のように重い。それでも、3人の忙しそうな背中を見ると「調子が悪い」とは口が裂けても言えなかった。彼らの足を引っ張りたくない。ただでさえ、自分は彼らと同じ場所に立つために必死なんだから。
ライは自室のベッドに倒れ込み、重い瞼を閉じた。
うとうとと浅い眠りに落ちた瞬間、意識は不気味な悪夢の海へと引きずり込まれる。
夢の中の彼らは、ひどく冷たかった。
「お前、もう邪魔なんだよ」
「俺たちの足を引っ張るな」
「……そんなことなら、最初からいなければよかったのに」
3人の冷徹な瞳。見捨てられる恐怖。ライは夢の中で必死に弁解しようとするが、声が出ない。冷たい言葉が鋭い刃となって、容赦なくライの心を削り取っていく。
「やめて……そんなこと言わないでくれ……!」
荒い息を吐きながら、ライは暗闇の中で震えた。その時、視界が揺らぎ、現実に引き戻される感覚がした。
誰かが、自分を呼んでいる。
「ライ! 起きろ、ライ!」
肩を掴む温かな感触。ライがゆっくりと目を開けると、そこには心配そうに眉を寄せた小柳の顔があった。
寝室は薄暗く、時計の針は深夜を回っている。
「……ロウ?」
「うなされてたぞ。……相当、熱いな」
ロウはライの額に手を当て、深刻そうな表情で呟いた。その手の温かさに、張り詰めていた糸がふっと切れた。
先ほどまでの冷たい言葉の記憶と、現実のロウの優しさが混ざり合い、ライの目から堪えきれなかった涙が溢れ出した。
「っ……あ、ごめん……」
「謝るなよ」
ロウはライの身体を優しく起こし、自分の胸元に引き寄せた。
拒絶されることを恐れていたライだったが、今はただ、その大きな腕の中に身を委ねるしかなかった。
「ずっと……隠してたんだろ。俺たちのこと、迷惑かけたくないって」
「……だって、みんな忙しそうだったから。俺だけ、何もできなくて……」
ライが消え入りそうな声で零すと、ロウは少しだけ強く彼を抱きしめた。
「俺たちが忙しかったのは事実だ。でも、お前がしんどい時に気付いてやれなかったのは、俺たちの落ち度だよ」
21,837
晴
225
299
ロウの胸の鼓動が、心地よいリズムで耳に響く。夢の中の冷酷な幻影は、ロウの温もりの前では無力だった。
ライはロウの羽織の袖をぎゅっと掴み、その胸に顔を埋めた。誰かに甘えるなんて、いつぶりだろうか。涙は止まらなかったけれど、それは悲しみではなく、ようやく張り詰めていた心が解けた安堵からだった。
「……少しだけ、こうしてていい?」
「ああ。気が済むまで、ここにいろ」
夜の静寂の中、ロウの体温だけが世界で一番確かなものとして、ライを優しく包み込んでいた。悪夢の余韻は消え、ただ、隣に誰かがいてくれるという事実が、ライの荒れた心に静かな平穏をもたらしていった。