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karua_0121
210
#大学
きの子ちゃん
761
#あおはる。
輪廻˖ ࣪⊹
510
るりあげは
45
翌日、本番の日。
開演三十分前、舞台袖は、緊張と興奮で満たされていた。
「清藤さん、衣装大丈夫?」
「はい!」
「山田さん、かつら!」
「オッケーです!」
「二人とも、声出せる?」
「出せます!」
二人の声が重なる。
これまで、入部してからずっと部内一だったコンビとして。
舞台袖で、円陣を組む時間。
そっと、あやかは陽花里の隣に立った。
「これまで頑張ってきた成果を出し切ろう!!!」
「「「「「「「おーーーーー!!!!!!!」」」」」」」
そのあと、そっと陽花里が拳を差し出した。
「…頑張ろうね」
あやかも拳を合わせる。
「最高の舞台にしよう」
「うん!」
パン、と小さな音が響く。
幕が上がり、物語が始まる。
町の人々、ベル、父親。
野獣。
そして――ガストン。
陽花里が舞台中央に立つ。
「町一番の男は、この俺だ!」
観客から笑いが起こる。
堂々とした声に、完璧な立ち姿。
その姿を舞台袖から見ながら、あやかは思った。
やっぱりこの人が好きだ。
いや、この人だからこそ好きになったんだ。
そして物語は進んでいく。
野獣とベルの二人の距離が近づく。
そして、運命の決闘シーン。
陽花里が剣を構える。
あやかも構える。
目が合った。
一瞬、役ではなくただの陽花里とあやかとして。
視線が重なった。
陽花里が、ほんの少しだけ笑った。
ガストンとしてではなく、陽花里として。
あやかも、野獣ではなくあやかとしてほんの少し笑う。
「彼を……野獣を倒すんだ!」
講堂いっぱいに声が響く。
「好きにしろ……迎え撃つ!」
二人の声がぶつかる。
今までで、一番大きく。一番強く。
そして、あやかにとって一番寂しい声だった。
――この舞台が終われば、二人は同じ場所に立たなくなる。
だから、せめて今だけは。
今だけは誰よりも近くで、あなたの最後の舞台を演じたい。
終演後、割れんばかりの拍手が講堂を包んだ。
カーテンコールで出演者全員が舞台に並ぶ。
陽花里が隣にいる。
あやかは笑った。
ちゃんと笑えた。
陽花里も笑っている。
ガストンと野獣として、二人で手を繋ぎ、観客に向かって頭を下げる。
拍手が鳴り止まない。
その瞬間、あやかは思った。
――終わらないで。お願いだから。この時間だけは。終わらないで。
幕が閉まる3秒前、あやかは結局泣いてしまった。
それにつられて、幕が閉まる瞬間、陽花里も泣いてしまった。
終演後、部員たちは泣いたり、笑ったりしながら片付けをしていた。
衣装や台本、舞台装置などが少しずつ元の場所へ戻されていく。
陽花里のガストンの衣装も、あやかの野獣のかつらも倉庫にしまわれた。
「……終わっちゃったね」
「うん」
「結局泣いてたね」
「陽花里だってそうじゃん」
陽花里が笑う。
「あやか」
「なに?」
「私、やっぱり……」
「演劇部、辞める」
あやかは黙って頷いた。
「そっか」
「うん」
「……今まで、ありがとう」
「こちらこそ」
二人は笑う。
その瞬間、あやかの胸の奥で、何かがぷつんと切れた。
言わないと。
今言わなかったら、きっと一生言えない。
「陽花里」
「ん?」
「私……」
あやかは拳を握る。
「私、陽花里のこと――」
その瞬間。
「清藤ー!」
遠くから声がした。
陽花里が振り返る。
「あ、呼ばれてる。ごめん、ちょっと行ってくる!」
「……うん」
陽花里が走っていく。
あやかは、その背中を見つめる。
そして、言えなかった言葉を、もう一度胸の奥へしまった。
――好き。
たった二文字。
それなのに、どうしてこんなに遠いんだろう。
次の部活の、帰り道。帰りの電車で。いつもの席に、陽花里はいなかった。
(陽花里、いままでありがとう。ほんとうに大好きだった)
コメント
1件
ああ、ついに終わっちゃったんだな……。演劇部の青春、舞台の上でしか重ならなかった二人の時間が、幕が下りる瞬間にぷつんと切れた感じがすごく伝わってきた。特に「終わらないで」って心の中で思うあやかの気持ち、そして結局泣いちゃうところが、すごくリアルで胸がぎゅっとなった。 それに、最後の「好き」が言えなかったのも、なんかわかるなあ。タイミングって、逃したら二度と戻ってこないものだものね。でも、それでも陽花里が演劇部を辞めるって伝えたあとに、あやかがちゃんと「ありがとう」って言えたのが、すごくいいなと思った。 高校生の、ほんのちょっとの距離が、永遠みたいに感じられる瞬間。それを丁寧に描いてくれてありがとう。読み終わったあと、じんわりと温かいような、ちょっと切ないような、そんな余韻が残ってます。素敵な作品でした。