『…』
久しぶりに、昔の夢を見た。
自分がまだ、「最原終一」だった頃の。
『はぁー、本当につまんないよね!なんで朝からこんなに憂鬱にならないとなんだよ!』
なんて喋る。
今の「オレ」は、誰がどう見ても確実に王馬小吉だ。
身長は誤魔化せないにしても、僕よりも低かった声、横にぴょこぴょこ飛んでいる紫がかった黒髪、カラコンでの紫色の瞳、彼の制服の僕サイズ、ヒールのある靴、
…そして、トレードマークのチェック柄のスカーフ。
鏡を見る度に、泣き出したくなる。
春川さんには、一体どうしてしまったのかさえ聞かれた。
事情を話すと、少し泣きそうな顔で、
『…王馬、今日こそは許さねぇぞ!』なんて、百田くんの声で言った。
……『オレ』として扱ってくれている。なんて心が軽くなった。
だかしかし、そんなのも昔の話。鏡の前で手を叩いたら、もう「僕」は「オレ」だ。
『…はー……春川ちゃん、起こしに来ないなー。』
自分を、騙し切れ。
…流石に遅い。寝坊だろうかと、オレはスカーフを首に巻き、春川ちゃんの部屋に行った。
すると、
「…王馬、何の用?というか、あんた…」
『春川ちゃん、おはよう!…なんでオレの事起こしてくれなかったの?』
「…王馬、背、伸びた?」
珍しく目を丸くして聞いてくる春川ちゃん。
『ちょっと!質問に答えてよー!背なんて伸びてないよ!!』
「…そう……。…というか、なんで私があんたを起こさなきゃいけないの?さっさと出てって。 」
…急に不機嫌そうに追い出されてしまった。
何か、昨日やらかしてしまっただろうか。
『…そういえば、昨日起こさないでいいって言ったかも…』
まぁ嘘だけどね!
ーーー食堂ーーー
『はぁ…』
思わずため息が出る。
この学園に居るのはオレたち3人の筈なのに。
もっと仲良くやろうよ。もっとさぁ。
「おはよう!王馬くん!」
懐かしい声がして、反射的に顔を上げる。そこには…
『赤松ちゃん…? 』
思いがけない人が居た。
『…おはよう!赤松ちゃん!オレ、今日はお腹が頭痛だから、帰るね!』
思考がまだ働かないうちに、逃げなければ。
『僕』が出てきてしまう前に、逃げなければ。
「というか、王馬くん、身長大きくなってるよね!?
また入間さんにでも何かされたの!? 」
『…あー、そうなんだよね!身長を伸ばさせる薬をー 』
「はぁ!?俺様そんなん作ってねーぞツルショタ!!」
……入間ちゃん…!!
「え…そうなの? 」
「赤松さん、こっち飲み物凄いっすよ!」
「入間さん、僕にも匂いが分かりますよ!!」
…とりあえず、どんちゃん騒ぐみんなに、オレは苦笑いをしながら食堂を出た。
ダッダッダッダッ……
『…』
……なんで、赤松さんが生きてるんだ!?
しかも、今日の春川さんの反応もおかしかった。まさか、まさか…!!
走って、図書室にでも篭ろうとしたら、
「…え、王馬くん?」
とても驚きました!とでも言うような声が後ろから聞こえた。
…「僕」が今、後ろに居るのだろうか。
『…にしし…』
「…え、え…? 」
『オレ』は振り返って、「彼」に言った。
『オレは王馬小吉だよ。超高校級の総統なんだー。』
はじめまして、関わるな。の意を込めて。
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