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うーたんンゴね
怪獣よりタチの悪い厄災について
「……おい市川。俺たち、もしかして今日死ぬんじゃないか?」
「先輩、舌噛むんで喋らないでください。僕も今、遺書に何書くか考えてたところです」
快晴の防衛隊・第3部隊グラウンド。
本来なら合同訓練で良い汗を流しているはずの俺たち第3部隊と第1部隊の隊員たちは、現在、グラウンドの端に設置された防爆ガラスの後ろで、ガタガタと震えながら身を寄せ合っていた。
視線の先、グラウンドの中央。
そこでは現在、**「怪獣よりもタチの悪い二つの厄災」**が激突している。
ガァァァンッッ!!!
空気を叩き割るような轟音と共に、凄まじい衝撃波が巻き起こり、グラウンドの土がクレーターのように抉れ飛んだ。
「チッ……! ちょこまか逃げ回るなよノミダニ! ボクの視界から消えんじゃねぇ!!」
「猪突猛進の単細胞と一緒にせんといてくれます? アンタのその大振りな攻撃、欠伸が出るほど隙だらけですわ」
土煙の中から現れたのは、第1部隊隊長・鳴海弦と、我が第3部隊副隊長・保科宗四郎。
事の発端は10分前。
「部隊間の交流を深めるため、まずはトップ同士の軽いデモンストレーション(※武器なしの徒手空拳)を」という名目だったはずなのだ。
だが、向かい合って一礼した瞬間。
鳴海隊長が「手加減してやるから泣くなよ、おかっぱ」と嘲笑い、
保科副隊長が「その言葉、そっくりそのままお返ししますわ。ゲーマー上がり」と笑顔で青筋を立てたのを皮切りに——
開幕0秒で、殺し合いが始まった。
「死ねェッ!!」
鳴海隊長の回し蹴りが空を切る。
ただの蹴りのはずなのに、空気が圧縮されて「ボンッ!」と爆発音が鳴った。当たれば人体など容易くミンチになる威力だ。
「遅いわ」
だが、保科副隊長はそれを紙一重でスッと躱し、そのまま低い姿勢から鳴海の懐へ潜り込む。
手刀が、鳴海の急所である喉仏へ目掛けて、蛇のように突き出された。
「……ッ!」
鳴海が舌打ちと共に首を逸らし、間一髪で手刀を避ける。
そのまま保科の腕を掴んでへし折ろうとするが、保科はぬらりと関節を抜くように回転し、逆に鳴海の死角へと回り込んだ。
「アンタ、ほんまに力任せやな。少しは頭使ったらどうです?」
「テメェこそ、コソコソ小賢しいんだよ! 正面からボクの力でねじ伏せられてぇのか!!」
バキィッ! ドゴォッ! ガンッ!!
…….素手同士の組み手のはずなのに、打撃音が完全に鉄パイプ同士がぶつかり合うそれだ。
二人の周囲だけ、重力がバグっているように土砂が宙を舞い続けている。
俺の隣で、第1部隊の隊員が青ざめた顔で呟いた。
「な、鳴海隊長のあんなマジな顔……本獣クラスを相手にする時しか見たことないぞ……」
キコルも冷や汗を拭いながら唸る。
「保科副隊長もよ。いつも薄笑い浮かべてるのに、今は完全に……『殺し屋』の目をしてるわ」
そう。二人は今、スーツすら着ていないのに、解放戦力を極限まで高めた時と同じ——いや、それ以上のドス黒い殺気を放っていた。
「……そろそろ終わりにしましょか、鳴海隊長」
保科副隊長の糸目が、スッ……と開かれる。
「これ以上は、僕も『うっかり』殺してしまいそうですわ」
「ハッ! 言ってろ!!」
鳴海隊長の前髪の奥。十字の瞳孔が、ギラリと猛禽類のように光った。
「ボクの拳で、その生意気なツラをグラウンドにめり込ませてやるよ!!」
両者が、決定的な一撃を放つため、極限まで姿勢を低くする。
空気がビリビリと震え、見ている俺たちの肌が粟立った。
(ヤバい! 次の一撃で、どっちか死ぬ!!)
俺が悲鳴を上げようとした、まさにその瞬間だった。
ズキュゥゥゥゥンッッ!!!
二人のちょうど中間、ミリ単位で正確など真ん中の地面に。
凄まじい威力の狙撃弾(※訓練用のペイント弾)が撃ち込まれ、ピンク色の塗料がド派手に弾け飛んだ。
「「ッ!?」」
両者とも、その弾丸の軌道を察知してピタリと動きを止める。
放たれた塗料を頭から被り、ピンク色に染まった二人が、同時に射線の先——基地の屋上を睨みつけた。
そこには、巨大な専用狙撃銃を構えた、我らが第3部隊隊長・亜白ミナの姿があった。
『……デモンストレーションはそこまでだ。両名とも、グラウンドを更地にする気か』
拡声器越しに響く、絶対零度の冷たい声。
その声に、張り詰めていた二人の殺気が、風船が割れたようにフッと消え去った。
「……チッ。邪魔が入ったな」
鳴海隊長はピンク色の塗料を顔から拭いながら、不機嫌極まりない顔で保科から距離を取った。
「邪魔なんて人聞きの悪い。亜白隊長の慈悲でしょう? そのままやったらアンタ、僕にボコボコにされてましたからね」
保科副隊長も、スーツについた塗料を払いながら、元にいた位置まで戻る。
「あぁ!? テメェこそ、あのままボクの拳食らってたら今頃三途の川でタピオカ啜ってたぞ!!」
「ハッ、三途の川の渡し守も、アンタみたいなガキの面倒は見きれへんって追い返すんとちゃいます?」
「テメッ……!!」
「なんですか?」
顔を突き合わせ、再び今度は小学生レベルの口喧嘩を始める二人(全身ピンク色)。
その光景を見て、俺たち外野は、一斉に安堵の特大ため息を吐き出してその場にへたり込んだ。
「……寿命、10年は縮んだわ……」
俺の呟きに、市川もキコルも無言で深く頷いたのだった。
おーわーり!
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