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「ア」
まずい、と思った時にはもう遅かった。
目の前には既に事切れて物言わぬ肉塊となったクラスメイト。
その隣に転がる血のべったりついたトンカチは、つい先程まで自分が使っていたものだ。
大きな鏡に部屋の中が映る。
中央に立ち尽くすのは、手のひらどころか、頭からつま先まで真っ赤な液体を被った自分。
ついでに足元に死体。
「………トリアエズ死体隠スカ」
ひとまず死体処理の方法を考えた。
*■□■□■*
「………ソンナ感ジデ、今倉庫ノ段ボールニ入ッテル」
そう言って、右のトランプを引く。オレのもとにやってきたのはジョーカーのカード。実に10回目の帰宅である。
「だからあいつ今日居ないんだ」
彼が見えないよう机の下でシャッフルをして、1枚引かせる。オレのもとを離れていったのはジョーカーのカード。11回目の家出。
「一応学校ニハ居ルケド」
差し出された2枚のトランプから左側を貰う。柄はジョーカー。11回目の帰宅。
「………ねえ、そろそろ止めない?」
ジョーカーが12回目の家出をして、彼ーらっだぁはゲームの終了を提案した。オレは勿論賛成する。
35回目の引き分けだった。
「んで、なんでそれを俺に話したの?」
トランプを片付けながら彼が問う。ほぼ毎日使っているカード達は、カードを仕舞う箱も含めて、驚くほどヨレヨレだ。勝負がついた回数はまだ両手の指にも満たないと言うのに。
「一緒ニヤッテ欲シイ」
「死体処理?」
「ウン。アト、警察カラ逃ゲル旅」
「逃げんの?」
「多分殺シタノバレルシ、捕マリタクナイ」
「いいよ。駆け落ちみたいで面白そう」
逃避行のお誘いは、快く受け入れられた。こういうとき、彼が好きだなあと感じる。親愛か恋愛か、もう区別はつかないが。
教室の扉が開いて、先生が入ってくる。慌ただしく席に戻るクラスメイトたちを横目に、午後の穏やかな陽だまりの中、机に突っ伏し目を閉じた。
*■□■□■*
「いつまで逃げるとかは決めてんの?」
グシャリ、バキ、ゴキン、と音が響く。
死体処理に取りかかって1時間。雑談しながらの作業はほどほどに進んでいた。
「ウーン……時効ニナルマデ?」
死体の解体というものは結構大変で、腕一本切り落とすのにも割と時間がかかる。今回は死体を全て燃やして炭にするつもりなので、胴体と四肢、頭にそれぞれ分けて、更にそれらを細切れにしていかなければならない。
「じゃあ少なくとも15年は逃げるわけだ」
汗を拭って、大きく息を吐く。ようやく両足が胴体から離れた。休憩のためにスペースのある場所に座り込むと、鏡のなかの自分と目が合った。
「15年モアルンダ。遊ビ放題ダネ」
血を全身に浴びている真っ赤な姿は、クラスメイトを殺した昨日の姿とあまり変わっていない。強いて言うなら、格好がツナギになっただけ。汚れると思い、作業着を持ってきたのは正解だった。
「15年の内に捕まりそうになったら心中ね」
にこり、らっだぁが笑う。彼も腕を切り終えたらしい。頬に付いた赤い飛沫が、酸化して黒になっていく。あとは頭だけ。
「賛成。警察ノ眼ノ前デ海ニ飛ビ込ンデミル?」
「それいいじゃん。海が近くになかったらお互いに喉掻っ切って死のうよ」
「ジャア常ニナイフ持ッテナイト」
「ちゃんと持ち物リストに入れといて」
ごとん、首が落ちた。
べつに、殺したくて殺したわけじゃなかった。確かに、彼は所謂いじめっ子で、標的になったのはオレで。嫌がらせを受けたり、暴力を振るってきたりして、殺そうかと思ったことは何度かあったけど。暴力が原因で内臓が傷ついて、命にかかわるような状態になったこともあったけど。
彼が死んだのは、彼のせいだ。
よほど機嫌が悪かったのか、いつもの悪口に少し言い返しただけで「生意気だ」「殺してやる」なんて怒鳴って、ハサミを持って襲い掛かってきた。
彼の目には明確な殺意があった。
だから、近くにあったトンカチを咄嗟に掴んで思いっきり彼を殴った。
殺らなきゃ殺られると思ったし、彼は一回殴っただけではすぐに起き上がって襲ってきた。
何度も何度もトンカチを振り下ろした。死にたくない一心で、ひたすら彼を殴ることだけに集中した。
気づけば、彼は動かなくなっていた。
顔は殴り続けたせいでグチャグチャになり、陥没して元の顔すらわからない状態になっていた。
パチパチと音を立てて、枯れ草や小枝と共にクラスメイトが灰になっていく。
作業着や血の付いた制服も一緒に燃やしたので、証拠はもう残っていない。
あとは逃げるだけ。
「逃げながらババ抜きしよ」
「決着ツカナイジャン」
「いいでしょ、15年も時間あるんだから」
*■□■□■*
「ーーーーーーーー◯◯高校で行方不明となっていた✕✕✕✕君のものと思われる骨が発見されました。警察は同時期に行方不明となった生徒2人に関係があるとして捜査を続けーーーーーーー」