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真っ白な部屋の中に1つのテーブルを挟んでゼコウとアルパは初めて対話を始める。
「それでは改めて、私の名前はアルパだ。本日はお越しいただき感謝する」
「ゼコウです。こちらこそ、急な訪問で申し訳なかったです」
「それでは、ゼコウは我らの何を知りたい」
「貴方達の事、目的、そして大災害の時の真意です。まずは貴方達は一体何者なのですか?」
「わかった。我らはこの地球より遥か遠い銀河系にあるヨロパと言う星からやって来た。君たちから見れば宇宙人と称されるか」
「ヨロパ……。そこはどんな星なのですか?」
アルパは故郷を思い出すようにゆっくり話し始める。
「うむ、ヨロパはこの地球よりも科学技術が発展した星だ。ほとんどの仕事は全て機械が行っているため地球のように多種多様な職業もなく、住民は日々その恩恵を受けて自由に暮らしている。全てが無償で手に入るため貨幣制度と言うものも廃れている。まぁあったとしても物々交換ぐらいだな」
「それはかなり自由な暮らしですね。我々にとっては楽園のようにも感じますが、アルパもそんな暮らしをしていたのですか?」
「いや、私はヨロパでも数少ない仕事である研究職に就いていた。イゴエやジダイも同じ研究所の同期でな、一緒に日々宇宙の観測や研究などを行っていた」
「宇宙の観測や研究?例えばどんな研究を?」
「難しい内容だが、簡単に話すと宇宙の始まりを研究していた。この宇宙、いや世界はいつどのように始まったのか?そしてそれ以前は何が存在していたのか?我らはそれを解明するために働いていた」
「え、それだけ技術が発展しても宇宙の始まりは解明されていないんですね!地球ではこの宇宙はビックバンと言う大爆発で始まり、それ以前は無の状態だったと言う仮説が一般的ですが……」
「あぁ……我が星でもそう言った仮説などはあるんだが明確な答えは未だ出せていないな。もしかしたら、創造主と呼ばれるようなものが実験のために作った世界かもしれない。だからこの世界にはそれ以前が無いなんて考えもある。では、その創造主は何処に存在しているのか?その創造主の世界はどうやって始まったのか?それ以前は?そもそもこの世界はなんなのか?そもそも存在とは何なのか?どれだけ科学技術が進歩しても我々はその答えが見つからない」
「私たちの仮説の1つにも同じようなものがあります。この世界は創造主のシミュレーションの中だという仮説です」
「ほう、これだけ科学技術などの進歩も星も違うのに同じような考えがあるとはな……。結局我々は外側を知ることは出来なのかもしれないな」
「そんな凄い研究をしていたのにアルパたちはなぜ地球に来たんですか?」
アルパは一度沈黙した後に改めて語りだす。
「それは……。理由として2つある。1つは私たちの仕事の先輩である――先輩が突如いなくなったからだ」
「いなくなった?」
「正確には1人地球に向けて出発しただな。当時は先輩が何処に行ったのかすら隠されていた。そこで何とか調べて分かったのは地球に向かったという事だけだった。彼女は上層部と繋がりが深く機密情報を扱っていた。そんな彼女がいきなり姿を消して、その理由も隠される。我らはその事実に違和感を感じた」
「それでその人を追って地球に来たと言う訳ですね」
「そういう事になるな。そしてもう1つはドッキリを撮るためだ」
「え?ドッキリ?人をびっくりさせたりするあのドッキリ?」
「そう、ドッキリだ」
「ドッキリ……」
――俺らはドッキリを本気で止めようと戦ってたのか……。いや、俺たちの行動は間違っていない、人に危害を加えているんだから……。しかし、なぜそんな事を……。
ゼコウは彼から出た思わぬ発言に戸惑った。そんな反応を見てアルパは確認をとる。
「続けるぞ?」
「あ、続けて貰って大丈夫です……」
「うむ。我々の星ではみんなが何不自由なく暮らしている。そんな生活をゼコウは楽園のように思うと言っていたな」
「あぁ、そんな生活は我々にとっては楽園のようであり、誰もが求める未来だと思うが……」
「我々の祖先もそう思っていたのだろう。しかし実はそうではないのだ。何不自由なく何もすることも無く、ただ日々を重ねていくだけの生活。そんな生活で子供は誕生から少しの間だけ皆それぞれ個性や感情を表すが、すぐに感情を失っていく。究極の自由は人を機械のような生き物に変えてしまうのだ」
「なんですって……。それだけの楽園のような生活は人類を機械のようにするのか……にわかには信じ難いですが……」
「信じられないだろうが事実だ。遥か昔にこの仕組みを作った時、誰もがそれを喜んで受け入れたという。それが今では喜びと言うものすら理解できなくなっている。皮肉な話だ」
「そんな……。でも貴方達はそうじゃないと思うのですが……」
「あぁ私達は彼らとは違う。あの星で理性や感情を持ち続けていられるのは、私たちのように研究職などに就くことの出来る一部の特権階級だけだ」
「そんな社会おかしいんじゃないですか?生きる事の幸せすら感じる事の出来ない人生なんて……。その特権階級の人たちは変えようと思わないのですか?」
「あぁ。なぜならこれがわが星の全ての人類が望んだ事だからな。全ての争い、全ての格差、全ての問題を解決するにはこれしかなかった。それにもう後戻りは出来ない。人類は機械に依存している。それが無ければ生命活動を続けられない程にな」
そう話すアルパは少し悲しい顔をしていた。
「それじゃあ、その人たちは生きてるとは言えないじゃないか……」
「あぁ、そう思うかもしれない。だが彼らは生きているんだ。我々はそんな彼らに感情を、人としての人間性を思い出してもらうために、色んな星を巡ってドッキリ動画を撮影して持ち帰りみんなに見てもらう。彼らに感情を少しでも取り戻して欲しいから……。たとえそれが無駄だったとしてもな……それが我々のもう1つの目的だ。その活動の中で我らの先輩が地球に向かったとわかった以上、我らもそこに向かい先輩の情報を集めつつドッキリの撮影をして持ち帰る。そのために我々は地球にいる。」
「そのために国のトップと密約を結んで国民に危害を加えていたんですか……」
「あぁそれがせめてもの礼儀だと思っていた。そしてその国に技術提供をしているから対等な対価とも思っていた。だがそれは間違いだった。我らは地球人を未発達の低俗な人種だと思って、彼らを道具のように扱ってしまった。それが過ちだと今回の災害で気付いた」
「……」
「地球人の科学技術は我らよりも発達していない。そんな我らよりも低俗だと思っていた人種が、絶望的な状況で自身も傷ついた状態でも誰かを助けようと行動していた。それを見て気付いた。我らも決して誰かを傷つけたくてドッキリを撮っていたわけではない。それは故郷の人々に感情を取り戻して欲しいと思う気持ちからの行動だった。この我らの気持ちと地球人の気持ち。互いに誰かを助けようと思う心に違いはないのだと我らは気付いたのだ。だからこそ同じ心を持つ同胞を我らが助けることに迷いはなかった」
アルパの真意を聞いた上で、ゼコウは少し沈黙する。そして自分の気持ちを整理するかのように話し始める。
「……そうですか。あの時の貴方達の本心が分かりました。貴方達の協力が無ければ被害はさらに拡大していました。だから救助に協力してもらい本当に感謝しています。しかし、これまでの貴方達の行った行動で悲しんだ人たちがいます。その事実は変わらない。貴方達はこれからどうするんですか」
「あぁ、我らの過ちは消すことは出来ない。被害者の方々には申し訳ないことをした。だからこそ地球の人々、そして故郷の人々を笑顔に出来るような活動をしたいのだ。それで被害者の方々に許される訳ではないこともわかっているがな……」
「被害者と一生向き合う覚悟はあるんですか?」
アルパはゆっくりとその言葉の重みを感じつつ伝える。
「あぁ、ある。彼らから、自身の罪から我らは目をそらさない」
その言葉を聴き、ゼコウは答える。
「……俺たちはお前たちが行った行動を許さないです。それがどんな理由だったとしても誰かを傷つける理由にはならない」
「……あぁ」
「でも、俺たちは誰かを笑顔にしようと行動をする者の邪魔はしない」
「……え?」
「言葉ではなく行動で示してください。それを俺たちは見守っています」
「いいのか……俺たちはお前たちの仇なんだぞ?」
「この日本にはこんな言葉がああります。罪を憎んで人を憎まず。だから俺たちはお前たちの罪を許さないです。でも、被害者と向き合う覚悟を持って誰かに笑顔を作ろうと未来に向かおうとするなら貴方達は俺たちの仲間ですよ」
「ゼコウ……」
「それに、貴方達を仇と思うのは被害者だし、許すのも被害者です。貴方達のこれからの行動に拒絶する人もいれば、どうでもいいと思う人もいる。一生許さない人もいる。正解なんてないんです。だから終わりのない未来に向かって自分なりの贖罪を探し行動し続けるしかないんだ。それでもお前たちは誓えるんですか。被害者から、罪から、贖罪から逃げないと……」
「あぁ……。俺たちは逃げない……」
アルパはゆっくり、たった一言だけ答えた。
アルパ、ジダイ、イゴエのこれからの贖罪の行動は正しくないのかもしれない。それでも彼らは被害者と向き合って正解を探し行動を続ける。
これにて第14話、おしまい。