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12月25日。街は赤や緑とクリスマスカラーで華やかに彩られ、人々は年に一度のその日に、心を踊らせていた。
だが、そんな”特別な日”にも気づけない程に、彼らは多忙な日々を送っており、彼らからすれば、クリスマスもごく普通の毎日だった。
「明日は朝8時に元貴の家から若井、涼ちゃんって回ってくから、よろしく」
「よろしくお願いしまーす」
マネージャーの車から降りた元貴と若井は、運転席から顔を出し、明日の予定を軽く説明するマネージャーの方に体を向けた。
「…あ、コンビニ寄るのはいいけど、変に目立つような行動すんなよ?」
「当たり前」
元貴と若井はそれぞれ自宅の前で降ろしてもらうのではなく、今日はコンビニの裏道で降ろしてもらっていた。これも、誰かに存在をバレないようにする工夫の一つだ。
「じゃ、また明日」
「うん、ありがとね」
ゆっくりとマネージャーの車が走り出し、道の先へと消えていく。
「……コンビニで何買うの?」
先に口を開いたのは若井だった。
実は、コンビニに行きたい、と提案したのは元貴の方で、若井は特に意味など知らず、ただ揺れる車内で到着を待っていたのだった。
「コーヒー飲みたかった」
「お、天才的な発想ですねぇ」
だろ?、と元貴はマフラーから小さく顔出し、若井に笑いかける。
コンビニに入ると、辺りに人はいなく、そんな現状に元貴と若井の肩の力がふっと抜ける。元貴の後を追うように、若井は元貴の後ろについてまわるのに対して、元貴は既に決めていたかのようにレジへと向かう。
「コーヒー2つ、お願いします」
「ホットとアイス、どちらになさいますか?」
「2つともホットで」
元貴と店員のスムーズな会話に、ひょこっと若井が顔を出す。
「…え?俺の分も買ってくれんの?」
「元貴の奢り?」
「違うよ?後でちゃんと出してね」
なーんだ、と若井は少しつまらなそうに再び元貴の後ろに回る。元貴はと言うと、あまりにも店内に人がいないものだからか、店内をキョロキョロと見回している様子。
2人はコーヒーを受け取り、会計を済ませると、コンビニの端にあるテーブル席へと向かう。
「若井こっち座って」
「…?別にいいけど」
元貴はあえて店の中で1番端の席を選ぶ。若井は最初こそ不思議そうにしていたものの、すぐに元貴の意図を理解する。
「………俺を壁にしようとしてる?」
「うん」
元貴はまるで「当たり前」とでも言うかのような返事をすると、そっとマスクを外し、コーヒーのカップに顔を近づける。若井はというと、自身のコーヒーなんて他所に、元貴の様子をじーっと見つめている。
「……なに?」
若井がこちらを見ていることに気づいた元貴が、チラッと若井の方に視線をやる。すると若井は、
「元貴の唇、綺麗だね」
だなんて、正直なことを口にした。元貴は若井の言葉に、内心「急だな」なんて思いながらも、優しく、
「リップクリーム塗ってるからね」
と、答えてあげる。すると若井は「あー」と謎に納得したように首を上下させる。
元貴がコーヒーを口にすると、若井も同じようにコーヒーを口にする。熱さと共に、ほろ苦いあの味が口の中に広がり、冷えた体を内側から温めてくれる。
「…あっつ」
元貴は小さく舌を出して肩を上げる。若井はというと、特に熱がることもなく、もう1口、もう一口、とコーヒーを口にしていた。
「…今日、なんか長かったね」
「めっちゃ肩こった」
それは、いつも通りの日常の一部に見えるかもしれない。だが、多忙な日々を極めている2人からすれば、それはとても久しぶりで、尊い時間のようにも感じられた。
静かに時間が過ぎていく中、元貴はとあることに気づく。
「……今日って25日だっけ?」
どこか懐かしくも感じる鈴のリンリンという音と、キラキラとしたBGM。まさに”クリスマス”を意識されたものになっていた。
「らしいよ」
若井は元貴からの問いかけに、少し間を開けて答える。元貴は若井の答えを聞き、「そっか」と店内から外の景色を見つめる。
時刻は22時。この時間帯は1番街が賑やかな時間。いつもの街頭に小さなイルミネーション風の光が重なって、特別な雰囲気を醸し出す。
「……クリスマスだ」
「今更?笑」
若井はそう言いながら、飲み終わったコーヒーのカップをゴミ箱に入れると、スっと席から立ち上がる。元貴もそれに合わせて、席から立ち上がる。
「…どうする?このまま帰る?」
元貴の問いかけに、若井は「んー」と考えてから、
「…ちょっと散歩しよ」
と提案する。元貴は一瞬だけぽかんとした表情を浮かべたものの、若井の「ちょっとぐらいなら大丈夫だって」という言葉にのせられ、ただ若井の後ろをついて行った。
「……すご、クリスマスだわ笑」
「ね……キラキラしてる…」
イルミネーションのある街の中心には行けないけれど、そこから少し離れたところから、溢れるイルミネーションの光を見つめる。
「ほんとはイルミネーションちゃんと見たかったけど……ね?笑」
「仕方ないよね笑」
二人はそんな話をしながら、ゆっくりと二人並んで歩く。人々の声はいつもよりも賑やかで、楽しそうで、幸せが滲み出ていた。元貴は、ふとそんな街中の方を見つめると、少しだけあの中心を歩く人たちを羨ましく思ってしまう。
すると、その時。近くのマンションの奥の方から人の声がし始める。ここら辺は飲食店も多いし、団体の人も沢山いるだろう。
「……ぁ」
元貴はふと、街角から出てくる複数人の人影を見つめる。
「元貴、こっち」
若井はそっと元貴の手を取り、人が少ない場所を目指して、早歩きでその場から離れる。
人気のない場所を目指せば目指すほどに、クリスマスカラーの街頭は見えなくなってしまう。だけど、それが悲しいなんて言っていられる場合ではなく、元貴はただ若井に手を引かれるがままに、足を運ばせた。
「大丈夫?結構早歩きしちゃったけど…」
若井が少し歩くペースを遅くし、元貴の方に振り返る。若井が元貴の方に振り返ると、元貴は目をぱちくりとさせ、まるで「夢でも見てるみたい」とでも言いたげな表情をしていた。
「……元貴?」
「…ぇ、あ……なに?」
元貴は完全に見惚れていた。あの美しいイルミネーションにもそうだし、自身の手を引いてまっすぐ歩く若井の姿にもだった。若井に連れていかれるがままに着いていく、それはまるで、おとぎ話の世界で言う、王子様に先導されるお姫様のような気分だった。
若井はいつもと違う元貴の様子を見て、少しだけ頬を赤らめる。
「……今日、街歩いてるだけで写真撮られそうだったね」
元貴が少しだけ嬉しそうにそんなことを言う。
「俺ら、静かなクリスマス向いてないよね」
若井もまた、元貴と同じように言う。
イルミネーションはもう見えなくなってしまったけど、今はただ、お互いの姿だけがはっきりと見える。それは当たり前のことのようで、でも今考えてみれば、とても尊いことのようだった。
「……あ、そうだ元貴」
若井が何かを思い出したように、カバンの中を探る。元貴が不思議そうにその様子を見つめていると、若井はカバンの中から小さな紙袋を取り出す。
「これ」
若井はそっと元貴にその紙袋を渡す。元貴が紙袋と若井を交互に見つめると、若井は「開けてみて!」と笑いかける。元貴は丁寧に紙袋を開け、中のものを取り出す。
「……ハンドクリーム?」
高価なものでも無い。アクセサリーでもない。でもそれは、元貴が前々からプライベートでも、メディアでも言っていた、ずっと気になっていたハンドクリームだった。
「ずっと渡そうと思ってて…」
「クリスマスっぽいことしてないからさ」
「これくらいなら、今日っぽいかなって」
元貴は若井の言葉に、少し黙ってしまう。
「……若井って、そういうの覚えてるのずるい」
最初に出てきた言葉は、「ありがとう」でもなく、「嬉しい」などでもない。でもその言葉は、どんな返し方よりも元貴らしいものだった。
「…ありがとう」
元貴は照れくさそうに、貰ったハンドクリームを見つめては小さく微笑む。若井はそんな元貴の表情がたまらなく好きだった。
「…クリスマスプレゼントだ笑」
「メリークリスマス!ってね笑」
若井の優しい笑顔に、元貴は嬉しくなったのと恥ずかしさから、ちょっとだけ肩で若井にぶつかる。
帰り道、段々と景色はさっきまでのイルミネーションとは違って、元貴の家の近くへと変わっていた。
それでもどこからか、遠くで鐘の音が聞こえてくる。そんな鐘の音を聞いて、元貴はふと若井の方を見つめる。若井はというと、その鐘の音のなる方を見つめていた。だけどすぐに元貴からの視線に気づき、元貴の方に振り返る。元貴は若井と目が合うと、恥ずかしさですぐに目を逸らしてしまう。
「今日、なんか……ちゃんと特別だったね」
元貴がポツリと呟く。
多忙な自分たちからすれば、いつも通りの日だと思っていた。でもそれは違った。周りの人からすれば、もっと特別なことが出来たかもしれない。でも、元貴と若井には、その特別なことをするよりも、こうやって二人でなんとなく街を歩くことが、何よりも特別な時間だった。
「うん、静かだけどね」
若井がどこか嬉しそうに呟く。
派手なイベントは何も起きない。でも、2人だけは“今日が特別だ”って知ってる。
お久しぶりです!!
ハロウィンのお話を書けなかったので、
今回はちゃんと
クリスマスのお話を書かせて貰いました🎄
本当な何話かに分けて
書きたかったんですけど、
普通にちょい遅刻気味だったのもあり、
1話にまとめちゃいました🙏🏻
個人的にはキラキラのザ・クリスマス!
って感じのお話よりも、
クリスマスだけどクリスマスじゃない
みたいなちょっと大人な感じに書きたくて!
今回は多忙な日々の中で
小さなクリスマスを見つけるお2人を
テーマに描いてみました🍀✨
あとあと!!
今回のお話にはポイントがあって…😼💘
多分なんですけど、今回はですね、
特に2人の関係性について触れてないんです!
(触れてたらすみません💦)
2人の関係性について
あえて明らかにしないことで、
皆様の好きな関係を想像できるかなーって😽
付き合っててもいいし、
普通に両片思い的なのでも可愛いし…!!
なんでもいけちゃうかなーと!!
是非!想像してみてください👍🏻💗💗
やっぱり長くなりましたね……笑
今年は最後の更新になりそうです😌
来年もよろしくお願いします!!
では皆さん、
メリークリスマスはちょっと遅いかもなので
良いお年を🫶🏻❤️🔥