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綺麗な君を汚さぬよう。〖水青〗

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綺麗な君を汚さぬよう。〖水青〗

1 - 綺麗な君を汚さぬよう

♥

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2024年04月10日

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当ストーリーはBL(Boys Love)です

青水青

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⚠️当ストーリーには未成年の喫煙シーンがございます。決してそのような行為を推奨する作品では無いことをご理解ください




室内いっぱいの煙の匂い。止まらない愚痴、誘い文句。 そんな大人の夜を閉じ込めたような店で、俺は今日も働く。

俺、いふは、元フリーターだ。大した夢もなく、敷かれたレールを歩き続けた結果、なにも目標のない大人になってしまった。

就きたい仕事も特になく、バイトを転々として飯を食いつなぐ日々。 そんな時、この店の店長が正社員の誘いを持ちかけてきたから即乗って、今はここに落ち着いている。


「お疲れ様でしたー」


ぱたん、と関係者以外使用禁止の扉が閉まる。すると途端に静かになった、暗い道。

「…寂しいなぁ」

気がつくと、ぽつりと吐き捨てた言葉。何歳になっても、何年経っても、1人は寂しい。寧ろ、時が経つにつれて寂しくなっている気がする。

独りは、慣れない。

家に帰ると、ベッドに身を沈めて、スマホを見る間もなく眠りについた。毎日毎日愚痴やらなんやらが耳に入るこの仕事。マイナスな人間の思考を聞き続けていると、頭が疲れてしまう。


深夜1時。月明かりだけが差し込む部屋に、今日もひとりぼっちだった。



「ふわぁ…ねむ…」

今日は午前が担当なので、朝早く起きて電車を待っていた。

「あ…あの!」

適当にスマホを見て時間を潰していると、少し下の方から声がした。

目線を下げると、リュックを背負った青年がこちらの顔を覗き込んでいる。

「はい?」

「あの、僕今日上京してきてこれからマンション行かなきゃなんですけど、◯◯駅ってどうやって行くか分かりますか?!」

もじもじしつつも少し焦って問いかけてくる。どうやら時間ギリギリのようだ。

「あー、それなら次反対側にくる電車乗って4駅くらいやな」

「うわー!ありがとうございます!!事前に調べたんですけど分からなくなっちゃって…助かりました!!」

そんな話をしているうちに、俺の待つ電車が来た。

「…じゃ、もう迷子にならんようにな」

控えめに手を振り、電車に乗り込む。

あぁ、俺にもああやって上京してきたころがあったなぁと、ふと思い出す。

俺もあの頃は、夢を見つけるために目を輝かせて、この先に夢を見つけるという夢を抱いていた。

今は、夢もなにもかもない、ただのバー店員だけど。




「はぁ……」

「どうしたの、まろ。ため息なんてついちゃってさ」

「ないこ…。いや、特に何もない」

昼間はカフェとして開かれているこの店は、駅近ということもあり中々の繁盛だ。

やっとの昼休憩で店が閉まり一服していると、店長のないこが隣に腰掛けてきた。

「ふーん……。なんもないならいいけど、まだ昼だから店タバコ臭くしないでね」

「へいへい」

窓を開けて吸うなアピールをするないこを見て、仕方なく裏口から外に出る。


「あ」

「…は?」

裏口の扉を開けると、既視感のある少年が扉の前にいた。

「お前、朝の…。入口なら反対側やぞ」

「わわっ、ごめんなさい…!!」

朝みたいにあわあわとしながら俺から逃げてった水色頭。 あいつ、俺と反対側の電車乗ったよな…?

変なやつと思いながらも、手元のタバコが終わってしまったので仕事場に戻ることにした。


「もーまろ遅い!!もうオープンしてんだから」

「あぁごめん。客は?」

「1人いるよ」

なんとなく客の顔を察しつつも、用意された注文の品を手に取ってカウンターに向く。

「…やっぱりな」

「えへへ…」

やはり客は朝の水色頭。

「お前、俺と反対側の電車やったやん。なんでこんなとこおんねん」

「えっと…僕の行く大学の最寄り駅がこの辺で…。マンションの前に駅周辺探検しようかなぁって思ってたらここ見つけた…的な?」

「…絶対嘘やん」

そういうと、ギクッと肩を跳ねさせる水色頭。やはり嘘をついていたようだ。

「だ、大学が近いのは嘘じゃないんです!!あの……」

なんだかモジモジして本当の目的を言い出さない。

「…お、お兄さんに一目惚れしちゃって…っ!!!」


「…はぁ?」

一目惚れって……。俺、男なんですけど?

と言いたかったが、多様性の時代だ。あまり口に出さない方がいいだろう。

「ごごご、ごめんなさい!!」

俺の言いたいことを察したのか、顔を見るなり謝ってくる。

「いや、謝って欲しいとかじゃないねんけど……」

どうしたものかと頭を抱えていると、肩に重みがかかる。振り返ると、そこにはうちの店長が。

「まろ〜モテモテじゃーん」

なにか言われるかとは思ったが、ニヤニヤしながら中学生のようないじりをカマしてくるないこ。

「でもねー君。まろはやめといた方がいいよ?ヤニカスだしバーテンダーだし変な奴だし」

「変な奴ってなんやねん」

冗談交じりに俺をいじりつつ、水色頭に言い聞かせる。

まぁ、こいつは大学の時点で未成年だし、俺らと違って綺麗な子供だ。

こいつにとって俺らは教育に悪い存在だと、ないこもわかっているのだ。

「……それでも、好きだから…」

「…あらま。ガチ惚れじゃん。まろがんば」

「さっきまでこっちの味方だったのに?!」

こいつの反応から諦めてしまったのか、ないこが完全に水色頭側に回ってしまった。

「はぁ…。お前飯食い終わったんなら帰れ。そろそろバーの準備やねん!!」

「え、ちょ?!?!」

抵抗する水色頭を無視して入口へと引きずる。

「ちょっと!!せめて連絡先とか…!まろさん?なんでもいいけどちょっと待ってよぉぉぉ!!!」

「俺はお前みたいなガキと関わるつもりないねん。同じ大学の可愛い女でも捕まえてろ」

そう言って水色頭をぽいっと外に投げる。

ドアノブを押えて開かないようにすると、バンバンと扉を叩かれる。

「うるさい。警察呼ぶぞ」

あまりにもうるさいので仕方なく扉を開けて怒鳴りつける。

「あの、僕ほとけです!!!また来ます!」

「は、はぁ…?」

また入り込んでくるかと身構えたが、自己紹介だけして帰ってしまった。

「…てか、俺まろって名前ちゃうし」




それから数日間、あいつが店に乗り込んできたりもせず、平和ないつも通りな日常を送っていた。

… いつも通りの静けさなはずなのに、少し寂しかったり。

そんな気持ちは隠して、今日も仕事へ向かった。

今日はバーだけ入る予定だったので、時間は夜。うちのバーの開始時間は17時からで、俺は22時に交代で仕事が入っている。

「……マジかよ」

次の電車の予定が映し出される電子看板に舌打ちをする。電車が遅延しているようで、仕事に間に合わなそうなのだ。

外を覗いてみると、案の定帰宅ラッシュのこの時間はタクシー乗り場などが長蛇の列になっていた。

車か電車、最悪歩きでしか行けない職場だから、この状況は絶望的だ。

「歩きかよぉ……」

調べてみても電車が動くにはまだまだだ。これを待つなら歩く方が早いと判断し、45分近くの道を歩き出した。


こんな日に限ってよく信号に引っかかってしまい、着いたのは23時頃。

関係者扉に回ろうとすると、少し遠くの路地裏辺りから声が聞こえた。

何やら叫んでいるような声だったりが聞こえて、夜になると人通りがかなり減るのもあって、殺人でも起きてるのかと一瞬思う。

でも冷静にそんなことはありえないので、またナンパでもされてるのか、と思い様子を見に行くことにする。

「大人しく着いてこいよガキ!!!」

ガキ、というワードが聞こえて、未成年が厄介事に巻き込まれているのかもと判断し、声が聞こえる方に急ぐ。


「やめて下さい…!!」

「先に俺の顔を傷つけたのはおめーだろ!金払えねえなら身体で払ってもらうからな」

そっと覗いてみると、いかにもガラが悪そうな男に連れてかれそうになっている青年が居た。

…てか、あいつ。

「ほとけ…?」

小声でボソッと呟いてみる。確かこんな感じの名前を叫んでいた気がするが、正しいかは分からない。

でも、あの厄介なガキなのは確かだ。

「離してよ…っ!!」

そうしている間に、ほとけは男に掴まれた腕を振り払って走り出す。やべ、こっち来ると構えた頃にはもう遅く、ほとけとぶつかって後ろに倒れてしまった。

「いった…誰…って、まろさん!!!」

こんな状況でも俺を見て目を輝かせるこいつに少し呆れる。

「バカ、お前なにしてんねんこんなとこで!!」

「話は後でします!!とにかく逃げないと───」

「どこに逃げんだ?」

その声に、2人とも肩をビクッと跳ねさせる。まずい、追いつかれた。

改めて見上げてみると、背が高くて顔が厳つくて、悪い大人って感じだ。

「おいガキ。お前に振り払われたせいで手首も痛めちまったよ…。こりゃあ逃げられねえな?」

よく見ると、男の服には砂が少し付いている。もしかしてほとけ、こいつの腹蹴ったん…?

「…何があったかは知らんけど、子供に手を出すお前普通にやばいで」

俺は立ち上がりながら男に言う。

立ってみると、俺達の身長は案外近くて、なんなら俺の方が少し高めだから威圧感が薄れた。

「部外者が何首突っ込んでんだよ。こいつは俺に傷を付けたから、罰が食らって当然だろ」

「だったら、こいつの腕にもお前に掴まれたせいでアザ出来てるし、お互い様って事で」

俺のセリフに腹が立ったのか、男の拳が俺に向かってくる。

まずい、殴られる、と思って目を閉じるが、その衝撃は来なかった。

代わりに前の方から殴られた音がして、恐る恐る目を開けると、男は後ろに吹き飛ばされてしまっていた。

「…え」

「まろ、大丈夫か?!」

聞きなれた声がして後ろを振り返ると、長い髪を一つにまとめた男が立っていた。

「アニキ!!!」

アニキは同じ店の店員で、今の俺の友人だ。ほとけはアニキの後ろで守られていて、安全そうだった。

「なんでアニキがここに…」

「なんかうるせえなと思って外出たらお前らがおってん。とりあえず、店に逃げんで」

その言葉に頷き、大人しく店へと足早に向かう。

「ないこー!こいつら連れて来たで」

「アニキおかえり〜。まろー!!遅いなと思ったらその子助けてたのか…無事でよかった…」

「ごめんごめん」

店の片付けをしていたようで、グラスを拭きながら俺らに話しかけるないこ。

「あれ、なんで片付け?」

「まろ来ないし外物騒な音するしでキリいいから店閉めたんだよ。丁度お客さんも帰った頃だったし」

戸棚を閉め、俺達の方を向く。

「さて、色々話したいことあんじゃない?今度は追い払わないで話聞いてあげなよ」

ないこの目線がほとけに向き、これは逃げられないと悟る。

「あそこの角の席使っていいよ」




「はい、オレンジジュース」

「チョイスが子供だね、まろさん」

「お前ガキだからな」

机に飲み物を2人分置き、俺はほとけの向かいのソファーに腰掛ける。

文句を言いながらも、喉が渇いていたのかストローでどんどん吸い上げていき、あっという間に半分無くなってしまった。

「…で、お前なんであんなことになってたん?」

「そんな大したことじゃないんですけどねぇ…。たまたまぶつかっちゃった人がちょっと怖い人だったみたいな」

「あー、漫画とかでよくあるやつな」

なんとなく頭でイメージしながら、あーなった状況を理解する。

「…あの、まろさん」

「なに?」

「名前、教えてくれませんか?」

俺の顔を覗き込んで聞いてくるほとけ。

どうせここまで来たら戻れないのだ。教えてしまっていいだろう。

「…If。もう言わんからな」

「いふ…さん」

「…別に、敬語じゃなくてもええよ」

「…!!」

心底嬉しそうに笑顔を輝かせる。少しばかりその顔に可愛いと思ってしまう自分が悔しい。

「じゃあ…いふくんって呼んでもいい?」

「お好きにどうぞ」

「へへ…やった。…ね、連絡先交換しよーよ!!ほんとに!これで最後!」

「はぁ……。どうぞ」

QRコードを差し出すと、またまた嬉しそうな顔をする。スタンプでお互い挨拶をして画面を閉じる。

「ねえ、明日っていふくん暇?」

「まぁ、休日だし」

なんとなくこの後言うことを察したが、あえて口に出さずにほとけの言葉を待つ。

「一緒に出かけたいなぁ…なんてー…」

チラチラと顔色を伺ってくるほとけ。こんなん承諾する他ないじゃねえかと心の中で悪態をつく。

「はいはい、行けばいんだろ…。てか、なんでお前やそんな俺に執着するん?」

「え?いや、この前言ったじゃん…」

ほとけは頬杖をついて、顔を赤らめながら言葉を続ける。

「好きだから…だよ」

そういえば、好きでつけてきたみたいな話が会った気がしなくもない。

こんなクズのどこが好きなのかと問いたいところだが、面倒臭いので無視する。

「ふーん…。ま、俺はなんとも思ってねえけど」

「いいもん。これからいっぱいアプローチするから」

「はは、頑張れ〜」

適当にほとけの話を聞き流しながら、時計を見る。

「ほら、そろそろ帰る時間だぞ。終電無くなるからとっとと立て」

「え、ほんとじゃん!!やば!」

ほとけもスマホ画面を見て慌てて立ち上がる。


「じゃ、明日〇〇で!」

「りょーかい」

お互い帰りの挨拶を交わして、それぞれ反対の電車に乗り込んだ。



そこからは早かった。

2人で何回か出かけたり連絡を取るうちに、あっという間に俺は好きになってしまって。

そもそも、あの日の夜少しずつ気を許して、今に至っている時点で、結果は決まっていたのかもしれない。


そして現在。

今は俺の仕事終わりに、ほとけがレポートが終わらないので声だけでも聞きたいと電話をしていた。

電話越しにパソコンの音だけが聞こえる。

俺はというと、ベランダで煙草を吸っていた。

最近はほとけといることもあって吸う回数は減っているが、その分本数は増えている気がする。

いつか肺がやられるんだろうなーなんて他人事。だって、俺を大切にしてくれる人なんて、いないから。

…あ、おるやん。

未だに電話越しにパソコンの音を鳴らしてるほとけの顔が浮かぶ。

惚れたというものの、まだ告白には至っていない。いつ、どう伝えような悩むうちに、好きを自覚して1ヶ月は経っていた。

今、ここでぽろっと言えば、こいつは気づくのだろうか。

なんとなく好奇心で、まだ集中しているであろうほとけに向かって言葉を吐く。

「…好きだよ」

その瞬間、世界から音が消えた気がした。

自分の心臓の音しか聞こえなくて、澄ました感じで言ったのに凄く情けなくなった。

深呼吸をして自分を落ち着かせていると、電話越しに彼の声がする。

「…今、なんて?」

「別に、聞こえなかったらそれでええよ」

聞こえなかったか?と少し残念に思いながらも、返事をする。

するとほとけは焦ったように話し出す。

「ごめんなさい聞こえました!!!でも…それ、ほんと…?」

「嘘で告白するような男ちゃうねんけど」

「……あははっ!だよね、いふくん意外と誠実な男だもん」

「取り消してもいいんだぞ?」

「ごめんごめん!!」

2人で笑いあったあと、少しの沈黙が生まれる。何を言ったらいいかと悩んでいると、ほとけが話し出した。

「…ね、いふくん。今から会えない?」

「は?別にええけど…」

突然の提案だったが、まだ終電までは時間があるし、実際に会った方がいいだろうと思い承諾する。

「じゃあ、バーの近くに公園あったでしょ?そこにしない?」

「ん、おけ。すぐ行く」

灰皿に煙草を押し付け、その後適当に財布などを詰めた鞄を持って家を出る。

幸いマンションが駅に近い物件だったので、すぐに電車に乗ることが出来た。



「おまたせ」

「大丈夫、今来たとこっ!」

まるでデートの開始のような挨拶を交わす。

ほとけがベンチの横に誘導してくるので大人しく座る。

「…で、返事は?」

あんだけ好意を伝えられてはいたが、先程の返事は貰えていない。実は好きじゃなかったですなんて言われるんじゃないかとヒヤヒヤしながら来たのだ。とっとと返事を寄越して欲しい。

「もーせっかちぃ〜。もちろん付き合うでしょ。ずっと好きだったんだから」

「…ほんとにそれでええの?俺みたいな汚い大人じゃなくてさ。もっとおるやろ。お前にピッタリの良い奴」

そう言うと、ほとけが目を丸くしてこちらを見る。

「もう、告白してきたくせになんだそれは!僕は好きな人のことならなんでも受け入れられるよ。汚いところも、弱いところも」

「そうじゃなくて。俺と付き合ってて周りからの評価大丈夫かって話」

確かに最後に告白したのは俺だが、よくよく考えると、俺はほとけみたいな綺麗な人間といていい人間じゃない。

俺といると、こいつがどんどん汚れていってしまうんじゃないか、人が離れてしまうんじゃないかと不安だ。

「…僕、周りの目とかあんま気になんないよ。てか、好きな人といれるんだから、不幸とかなくない?」

「……まぁ、お前がいいならいいんじゃねえの?」

出会った時からそう。こいつは何を言ってもブレない。

もう諦めて、こいつを受け入れよう。

「じゃ、今日から恋人ってことで 」

「ふふっ、ようやくだぁ〜!」

ほとけが満面の笑みで伸びをする。

無意識に手が動き、ほとけの顎に手を添える。

「……へっ」

驚くほとけを無視して、そのまま唇を奪った。

さっき自分が吸っていたからか、ふんわりと煙草の香りを感じる。

触れるだけのキスを終えて、口を離す。

「…は、早くない?」

顔が真っ赤になったほとけと目が合い、思わず笑ってしまう。

「なんも早くないやろ。デートしたし…あぁ、手は繋いでないか」

「も、もう…!!」

からかわないでと怒るほとけの頭を撫でて落ち着かせる。

「じゃ、明日カフェやからもう帰るわ」

「あー、僕もレポートあと少し残ってる…」

思い出したくなかったとでも言うように頭を抱えるほとけの手を引く。

人通りが多くなるまで、手を繋いで駅まで向かった。



「また明日電話するね」

「ん。頑張れよ」

お別れの挨拶をして、それぞれ来た電車に乗る。 名残惜しいけど、まだ電話もあるのだから、それを待てばいい。

人が少なくいこの時間帯は、席がガラガラだ。

席に座って、景色を眺めながらいふくんの言葉を思い出す。

いふくんは、まるで僕を”綺麗な人間”とでもいうように、自分から僕を遠ざけていた。

実際はそんなことないのに。

あの日、彼に電車を聞いたときには一目惚れしていた。確かに電車は迷っていたし、聞く人が必要だったのだけど、自然といふくんに惹かれて声をかけた。

教えて貰って電車に乗り込んだいふくんがどうしても頭から離れず、出発寸前の彼が乗った電車に飛び乗った。

そこから後をつけて、あの時煙草片手に店から出てきた彼と会った時系列にたどり着く。

この時点で、僕はいふくんの思うような純粋な青年では無い。

それから、もう1つ。


「ただいまぁ…」


ガチャっと玄関の扉を開き、一人暮らしの静かなアパートに入る。

ソファやテレビ等の誘惑がある中、向かうのはベランダ。

鞄から1本の棒と箱を取り出し、鞄を適当な場所に置く。

棒のボタンを押して電源を入れ、箱から1本”煙草”を取り出して棒に差し、口に含む。 不味くも美味しくもない煙の味が口に広がっていくのを感じながら息を吐く。

ふわっと白い煙が宙を舞う。煙が消えていくのをぼーっと眺めていると、スマホの通知がなった。

宛先は父からで、『ねえ、俺の電子タバコ知らない?』というLINEだった。

僕はすぐに知らないと返し、スマホを閉じる。

「あーあ、3本もあるならバレないと思ったんだけどなぁ〜」

やっちゃったな、というトーンで独り言をいい、また手元の煙草を吸う。

そう。もう1つというのは、僕が煙草を吸っていること。

高校卒業後、上京したい一心で合格した大学の近くに引っ越すために家を出た。

家を出る前、父がいない時にこっそり煙草2箱と電子タバコの棒を1本くすねていった。父は箱でストックするタイプで電子派。棒も使い分けて沢山持っていたからすぐにはバレなかった。

当時は吸っていなかったけど、好奇心というか憧れというか。そんなものだけでバレたら大事なものに、1つ手を染めてしまった。

いふくんは元から煙草を吸うタイプだったし、あの煙草臭いバーでは例えその前に吸っていても気づかない。遊びに行く前にも煙草を吸っているであろういふくんは、僕が纏う煙の香りには気づかなかった。

そしてさっきも。公園でいふくんが来る前に吸っていた僕は、キスされたとき正直バレないか不安で仕方がなかった。

でも、直前まで吸っていたであろういふくんは、またしても気づくことはなく。

いふくんは自分が汚い大人だというけど、実際汚れているのは僕の方だろう。ストーカーして、未成年喫煙者で、嘘つきで。

子供を守ってくれて、なんだかんだ常識がある優しいいふくんなんかと比べてはいけない。

いふくんの方こそ、きっと”綺麗な人間”なのだから。

だから、僕はそんないふくんを汚さないよう、”綺麗”の皮を被ったほとけで、これからも接していく。

中身も外も綺麗なあなたが、汚れてしまわぬように。

「いふくんは、ずっと綺麗なままでいてね」

ふっと吐いた煙が、また外の景色に消えていった。


___fin.




はい、お疲れ様でした!

甘赤です。

今何文字か教えてやろうか。

8771文字です!!!

マジでおつかれ!!!!!!


…と、雰囲気を真面目に戻しまして。

この前引退宣言をして久しぶりの投稿となりました。

この「綺麗な君を汚さぬよう」は甘赤として最後に投稿する”小説”です。

来週(4/17)に甘赤リン最後の投稿をしようと思っています。

それは小説ではなく雑談系ですので、ここでお別れの方はお別れです。

この小説は、誰からの評価も気にせず、自分が書きたいもの、というのを目標に書かせていただいたものです。

結末が分かりきっているものより、誰かが自由に想像できるものが好きなので、こんな感じになりました。

オシャレをテーマに必死に書いてたのでオシャレが伝わっていたら嬉しいです(?)

分かりにくかったりしたかもしれませんが、まぁなんとなくで読んでくださったら嬉しいです。

甘赤の小説を愛してくれた皆様。またいつかどこかでお会いできたら嬉しいです。

とかいいつつ支部に普通にいる可能性大です(おい)

実はテラーでも界隈を変えて生息していたりしていなかったり。(歌い手)

とにかく、永遠の別れでは無いので、見つけたら全然捕まえて尋問しちゃってください 。

ちなみに真面目とネタ8:2ぐらいの甘赤これが最後なので見納めしといてください(?)



それでは、またいつか。


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