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ライブが終わったばかりの楽屋は、汗と熱気、それからどこか満ち足りた静寂で包まれていた。けれどその空気に慣れきる前に、ドアが勢いよく閉まる音が鳴った。
「……なんで、また一人で決めんの?」
若井の声は低く、冷たい。けれどそこには、確実に怒りが混じっていた。
大森元貴は、タオルで首元を拭く手を止め、そっと顔を上げる。
「ごめん。でも、あのアレンジは……」
「“ごめん”じゃねえよ。お前さ、自分だけでバンド背負ってるつもりか?」
一歩、また一歩と距離を詰められ、元貴は思わず後ずさった。壁が背中に触れる。逃げ場はない。
「若井……ちがう、そうじゃなくて……っ」
「ほんと、ムカつくよ。そうやって、何でも一人で抱えて。」
その言葉の直後、首元を掴まれ、強引に顔が近づく。吐息が交じるほどの距離。
若井の目は獣のように鋭く、けれどどこか、必死でもあった。
「痛い……っ」
「痛いのは、こっちだっての。」
そのまま唇を塞がれる。拒む暇もなく、舌が押し込まれる。強く、支配的で――まるで、感情をぶつけるようなキス。
「やめ……若井……!」
「やめねえよ。お前がちゃんと、俺だけに弱いとこ見せるまでな。」
耳元で囁かれた声は低く、意地悪で、それなのに胸の奥をじわりと熱くした。
「……やだって言ってるのに……」
押し殺した声が、震えて落ちる。
それでも若井の手は、ゆっくりと元貴のシャツの裾を捲りあげていく。
冷たい指先が、汗ばんだ肌をなぞるたびに、ビクッと体が跳ねた。
「ほんとは、やじゃないくせに。」
耳元でそう囁かれた瞬間、ゾクッと背筋に電流が走る。
煽るような声音に、身体の芯がじんわりと熱を帯びていくのが自分でもわかる。
「……違う、俺……」
「じゃあ、拒めよ。」
ぐい、と手首を掴まれる。
その力強さに抗えず、元貴はただ息を呑むしかなかった。
普段の若井とはまるで違う――いや、本当はずっとこうして俺を見てたのかもしれない。
誰より近くで、誰より深く。
「全部抱えんなって、何回も言ったよな?」
「でも、怖いんだよ……バンド壊したくなくて……」
「壊さねぇよ。俺は……お前がいなきゃ、もう音すら響かねぇんだよ。」
その言葉に、元貴の瞳が揺れた。
まっすぐな視線。どこまでも真剣で、どこまでも真っ黒で、逃げ道なんてなかった。
「だから、俺に委ねろ。……お前が壊れる前に。」
そう言って、若井は唇を落とした。今度は静かに、でも深く。
まるで、何度も重ねて確かめるように。
熱い吐息が混ざり合う中、元貴はようやく力を抜いた。
張り詰めていた心が、ほんの少しずつ溶けていく。
「もう……やだ……」
うわ言のように繰り返す元貴の声は、すでに震え切っていた。
それでも若井の手は止まらない。
汗ばんだ肌を撫で、押さえつけ、執拗に責め立てる。
「ほんと、可愛いな。こういうときだけ素直になんの、ずるいよ。」
低い声が耳元をくすぐりながら、熱を帯びた舌が耳朶をなぞる。
敏感な箇所を容赦なく舐められ、元貴の身体が跳ねた。
「っ……あ、や、若井……!」
「だめ。今日は逃がさないって言っただろ?」
キスはすでに深く、荒く、唇だけでなく喉元、鎖骨、腹部へと降りていく。
そのたびに残されていく赤い痕が、まるで縄のように元貴を縛り付けていく。
「どうして……そんなに、俺を……」
「知りたい?」
若井の指先が、熱を帯びた敏感な場所に触れた瞬間、
元貴は喉の奥で切ない声を漏らした。
「……っ、そこ……や、やめ――!」
「嘘つけよ。こんなに反応してるくせに。」
嘲るような微笑を浮かべながら、若井は指でじっくりと撫でる。
まるで弄ぶように、焦らすように、元貴の限界を試すかのように。
「俺さ、ずっと我慢してた。お前が俺のものになるまで。」
「若井……!」
「今日は証明させて。お前が、俺だけのものだって。」
そのまま、強く、深く、執拗に――
音楽よりも濃密で、甘いノイズの中で、元貴は何もかも委ねていった。
身体が溶けていくような感覚の中で、彼は初めて「誰かに奪われる」幸福を知った。