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「────────!」
龍、と叫んだ筈の声は音にならず、唯々規則正しい電子音が聞こえるだけだった。目を開けた先には芥川が眠っている。体を起こそうとすると、彼方此方が痛い。如何やら長いこと寝ていたらしい。
────先刻のは、夢だったのか……。
「────、ぁ」
声を出そうとしても掠れて音にならない。
一面真っ白で清潔感がある様子からして、病院だろうか。と、云うか、俺達は死んだ筈では?
そう思っていると、隣から声がした。
「やっと起きたかい、随分と長い昼寝だったねェ」
此奴は確か、探偵社の────
「与謝野女医」
「嗚呼、太宰。今起きたところだよ」
「す、まねェ゛な、世…、話に、なった」
「全く……偶々与謝野女医と私が通り掛かったから善かったものの、そうじゃなかったら今頃死んでたよ君達」
「お礼なんて善いんだよ。此れが妾の仕事だ」
「アンタ等も無理して喋るんじゃない。長い間喉を使ってなかったんだ。喉を痛めるよ」
探偵社の医者は俺達の健康状態を確認し、何も異常がないことを確認してから部屋を出ていった。
「じゃあ私もそろそろ行くから。あ、ちなみに、此処はポートマフィアの傘下の病院だからね。流石に堅気の病院には運べないし」
「ぁ゛ーーー、面倒、掛けたな」
「別に。私は与謝野女医に従っただけ」
「へーいへい、…まァ、そう云うことに、しておいて、やるよ」
煩いな、と云いたそうに顔を歪めて出ていった太宰を見送り、白いベッドに体を沈める。ふんわりと消毒液の匂いがする。
そういえば俺達はどのくらい眠っていたのだろうか。日付を確認すると、彼の日から3週間程経っていた。
成る程。そりゃあ喉も痛めるわけだ。
「────ちゅ、やさ、」
芥川が目を開けていた。隣に並べられたベッドから掠れた声が聞こえる。此の世で一等心地好い声。震える腕が伸ばされる。離さないように、余り力の入らない手でぎゅっと握る。
「何だ、龍?」
いつの間にか体を起こしていた芥川の瞳が俺を見つめていた。
「否、只……。少し名前を呼びたかったのです、余りにも現実味がないもので…」
「…龍。ッ、りゅう、」
「俺も、……俺もだ、龍、…生きてる、…………善かった…」
芥川を思い切り抱き締めて、心臓の鼓動を感じる。生きていることを実感する。其の間、芥川は何も云わずに俺の背中を撫でてくれていた。
視界がぼやける。……温かい。善かった。彼の日、最後に感じた芥川の体温は冷たかったから。
頬に伝う涙を乱暴に拭った。何時までも泣いてちゃ、格好がつかないだろ?
芥川からゆっくり体を離して再度向き合う。風に揺られたカーテンがまるで、ベールのようで。花嫁みたいだな、なんて柄でもないことを思ってしまった。
「龍。世界で1番、愛してる」
彼の日にも云った言葉。其れを聞いた芥川は、一瞬驚いたように目を見開いた後、顔を綻ばせた。
「僕も、中也さんをお慕いしております」
────そう云って微笑んだ芥川の顔は矢張、思わず見惚れてしまう程綺麗だった。
コメント
8件
最終回ありがとうございました‼️
完結おめでとうございます!! 読みやすく、ストーリーや表現など とても素敵で惹かれる作品でした ありがとうございます、! 次回は試験後に、ですかね? 何時までもお待ちしておりますね!