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ジリリリリ


「ん、おはよぉ鏡花ちゃん……」


「敦、おはよう」


時刻は午前六時、同居人の鏡花はもう既に起きていて、現在朝食を作っているところだ。ちなみに、今日の朝食は、ごはん、ワカメの味噌汁、焼き魚、だし巻き玉子らしい。

いい匂いだなぁ、敦はまだ完全に覚めていない頭でそう考えていると、


「食事の準備をして」


「はーい」


ちょっと吃驚した。



……


準備が終わり、


「「いただきます」」


丁寧に手を合わせ、合掌する二人。

間もなく、箸をとり早速食べる敦。


「味、どう……?」


「んん、すっごく美味しいよ!!卵がふわふわしてるし、お味噌汁も丁度いい塩加減!!」


「そう、よかった」


嬉しそうに微笑む。

直後、


「っんんん!!!鏡花ちゃん、水!!」


「そんなに慌てて食べなくても…………はい、水」


「ふぅ、ありがと!あ、ご飯おかわりしてもいい?」


「とうぞ」


「やったー!」



………………



「はぁ~!美味しかった!!」


「敦、食器頂戴」


「いやいや、お皿は僕が洗うよ!」


「……ありがと」


敦が食器を洗っている間に、鏡花は武器の手入れをする、これが毎日の日課だ。



「鏡花ちゃーん、僕のネクタイ知らない?」


「それなら此処に……」


そんなやり取りを交わしながらも着々と準備が進み出社時間直前、


「敦、忘れ物はない?」


「うん!鏡花ちゃんこそ」


「大丈夫」


「よし、じゃあ行こっか!」


いざ、探偵社へ。


探偵社に着き、


「おはようございまーす!!」


「……おはようございます」


一人は元気に、もう一人は静かに。

挨拶をすませると、敦の元に資料を手にした国木田がやってきた。


「すまない敦、早速だかこの依頼について見回りを……」


資料によると、どうやら付近に住んでいる女性の猫の行方が分からなくなってしまったらしい。


「猫ですか……はい!了解です!」


そういえば僕ネコ科だな。写真を見ると、大層可愛らしい仔猫がすやすやと寝ていて、その姿に少しキュンとする。これが属に言う一目惚れかな?そう心のなかで冗談を呟いていた。



しばらくすると、


スパァン!

勢いよくドアが開き、


「おはよう!諸君!!」


びしょ濡れな太宰が出社。きっと途中に入水でもしたのだろう。


「うわぁ!?太宰さん、おはようございます!」


「太宰貴様ぁ……何分遅刻したのだと思っているんだ……おかげで俺の理想が……!!!」


「まぁまぁ国木田くぅん、そんなに怒っていると禿げてしまうよ?」


「なんだとぉ!!!!」


国木田は太宰のこととなると怒りの沸点が低くなる。


「じ、じゃあ僕は依頼に……」


火の粉を自分も浴びぬよう、敦はそっと探偵社を出て猫探しへと向かった。


外に出て早二時間


「んー、見つからないなぁ」


敦が探している猫の特徴というのは、毛の殆どが黒で、所々白も交じっているという。

どこか既視感を感じなくもないが、本能的に触れたくないと思い、自然と連想して出てきた彼奴の顔を頭から追い出す。

そうしていると、薄暗い路地裏に来ていた。どうやら猫というのは狭くて暗い場所が好きらしい。もしかしたらここにいるかも!そんな期待に懸けて、もう少しいることにした。決して暗くて狭い場所が落ち着く、というわけではない、依頼の猫を保護するため、だ。


「みーちゃん来ないかなぁ……」


みーちゃんとは探し猫の名前だ。

ふわふわしてるんだろうな、早く抱っこしてみたいな、最早依頼とは関係なくそう思う敦。


ニャー


猫の鳴き声だ。慌てて立ち上がり辺りを探すと、そこにはいる筈のない男が立っていた。しかも、猫を抱えて。


「……芥川……みーちゃんを返せ」


「ふんっ、みーちゃんか。随分と面白い名前だな」


どうやら鳴き声は芥川の腕からだったらしい。芥川にしては珍しく、抱えてるみーちゃんには傷一つもない。動物を大事にする心、とっくの昔に消滅しているのだと思っていた。

すると、芥川が突拍子もないことを言い出した。


「このみーちゃんとやらを返してほしければ、やつがれの願いを叶えよ」


敦は考える。まさか……僕を殺すと?それとももっと酷いことを……

と、何と失礼なことだと思うだろう。だかそれが芥川という男なのだ。


「僕は、何をすればいいんだ……?」


「何、願いといっても、やつがれの嫁になればいい」


「……は?」


「だから、やつがれの嫁になれと……」


「いやいや、嫁って……まずは恋人だろ?」


違う、そこじゃない。敦の着眼点が少しずれていることにツッコミを入れる者は誰もいない。

路地裏に二人きり、敵対する相手にプロポーズ(?)されることなど誰にも想像が着かないだろう。


「そうか、恋人からだな。よろしく頼む人虎、いや、敦。」


ゾワッ

敦の背中に寒気が走る。初対面から殺意を剥き出しにされ、足を引きちぎられた男から急に名前呼びされた恐怖、人生で初めて味わった。いや、誰が味わうというのか。


「ま、待て芥川、」


「敦。恋人になったからには言うんだが、昨日の午後八時八百屋で野菜を買っていたところ、店主にしつこく話しかけられていたようだが、一寸殺しに行ってもいいか?」


「怖い怖い怖い怖い怖い、何でそんなこと知ってるんだよ。あと殺すな」


「知っているのは愛あるが故、好いたやつのことは知りたいだろう」


あ、もうこいつはダメだ。敦は心のなかで悟った。好きになって最初にすることがストーカーって……



「あと、みーちゃん。貴様に返してやろう」


「あぁ、ありがと……………………………?」


初めて触るみーちゃんだ。ふわふわで少しいい匂いがする。目の前に敵がいることについては思考放棄し、しばらく撫でていると、懐いたようにすり寄ってきた。思わず敦は頬を緩ませる。

その姿を見られて、向かいから「天使……?」と言う声とシャッター音が聞こえて気がする、まぁ気のせいだろう。


「じゃあ僕はこれで……」


「待て、」


いきなり腕を捕まれ、何かされる……!と、身を固めたが攻撃はされない。どうしたのだと思い、顔を上げると


チュ


キスをされた。しかも口に、


「なっ……?!何するんだよ!!」


顔を真っ赤にして怒る敦。だかそれも可愛いだけで、相手を煽るに過ぎない。


「もう用はない。伝えたいことを伝えたからな。敦、次はやつがれの家に来い」


「は?!何でお前の家に行かなくちゃ、……っておい!聞いてるのか?!」


既に背を向けて歩きだす芥川、敦の反抗の言葉は聞こえていないようだ。


ニャー、みーちゃんの鳴き声が路地裏に響いた。


「ただいま戻りましたー」


探偵社に戻り、保護してきた猫、みーちゃんを国木田に渡す。


「おぉ、よくやったな敦。…………何かあったか?」


どうやら余程顔に出ていたらしい。国木田から心配そうな声で訪ねられた。


「……芥川と付き合いました」


今日一日疲れ果てた敦には、弁解という言葉の概念すら存在しない。

後日、どこからかは知らないが、その情報を手に入れた芥川に散々聞かれるのはまた別のお話。


それより今は、


「はぁ?!芥川と付き合った!?!?!」


「「「「「え」」」」」


探偵社内の騒ぎを抑える方が優先すべき順位なようだ。






おわれ

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