お久しぶりです
ゆ です
そろそろ春ですね
っということで桜のやつです
桜ちょっと早いかもしんないけど
⚠
・赤桃ですメインは
・ずっと赤くん視点
・青黒要素もまあまああります
・長いうえにちょっとよくわかんない可能性がありま す。私も正直あんまりわかってないです
・キャラブレ、口調ブレえぐいです
・かなり主張の強いモブの視点が最後入ります
・モブ自体は直接は全然関係しません(するけど)
以上のことがだいじょぶだよって方はお進みください!
どうぞ〜
↓
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side.L
『ねぇねぇりうらくん知ってる?』
『近所に神社あるでしょ?そこの桜ってね、すごく綺麗な人をさらっちゃうんだって』
『昔、あそこで実際にピンク色の髪の人がね、いなくなっちゃったんだって』
話の内容にそぐわないやけに高くて楽しそうな声
どこかで聞いたような気がするんだけど
『だからあんなに綺麗なんだって〜!』
…あ、そうだ
近所の女の子
確か一つ上の学年だった
顔はいまいち思い出せないけど
顔はわからないはずなのに、にこにことしているのがわかる。
女の子は続ける
『怖いよね〜!攫われないようにするにはね、えっと、ん〜何だっけ…………あっそうそう、攫われないようにするにはね───』
「おしゃけ、おしゃけどこ〜?」
「まろもう飲みきったやん」
「ふぇぇぇおしゃけどこ〜」
「まろ飲み過ぎ」
「もっと飲む〜飲みたいよ〜」
「はいはい、もうないから寝とき」
「ふぇぇぇ」
お酒がないと騒ぐまろと宥めるあにき
画面越しだと面白いのにリアルで見ると図体の無駄にでかい成人男性がぐずっている光景はなかなかに厳しい
「ほらまろ、おいで」
「んぅ〜」
あにきが自分の膝をポンポンと叩いてまろを呼ぶ
あにきって結構まろに甘いよね
さっきまで周りの人がこちらを振り返るほどうるさくしていたのにあにきに頭を撫でられたおかげでもうすでに眠りに落ちているようだ
本当に赤ちゃんみたい
ぐずるだけぐずってあやされて寝るって
成人のすることじゃないでしょ
お酒って怖い
「もう、まろ飲み過ぎ!」
「そう言うないこは食べ過ぎやな」
「うるさい!桜を見ながら食べる寿司は美味しいでしょ!!」
「桜ほぼ見てないやんw」
と、今度は保護者組で騒ぎ始めた
確かにないくんは6人で集まるのに何故か8人前の寿司をとってきていたし、まろが食べないというからその分も食べて4人前の寿司を食べていた
少しお高いところの良い寿司らしく、量は確かに控えめではあるが、4人前は流石に多いだろう
食べ過ぎだ
あの人はよく配信でこの休み期間に何kg太った〜とか北海道で何kg太った〜とか言っているが、果たしてその後何kg落とせているのだろう
このままでは少しずつないちゃんが太って行ってしまう
恋人の体積が増えるのは構わないけれど、もう今はいれりすに会うことも多いのだからスタイル維持には気を使ってほしい
ちなみに寿司に食らいつくないちゃんは桜に対してはノールックだった
「あれれ〜ないちゃん桜見てなかったの〜?こんなに綺麗なのに~」
「ないちゃんがお花見誘って来たのにな。桜も泣いとるで〜」
「んもう!!うるさい!ちゃんと見てるし!!」
いむしょーにいじられて少し頬を膨らませている
かわいい
と見とれていると、
「待っていむくん見て」
急にしょうちゃんがほとけっちの袖を引いてトイレの壁を指差す
特に何もないけど
「何しょうちゃん…………」
急に静かになり、一点を見つめるいむしょー
何かあるのかとりうらも視線を向ける
「「ぎゃはははははは」」
「え!?何!?怖い怖い」
急に大声を出すいむしょーに驚く
ビビリなあにきは肩を跳ねさせ周囲をキョロキョロと見回していた
これはまたぴよにき配信はホラゲだな遊んじゃお
「え何いむしょーどうしたの?」
「いや、っだってwしょっっちゃんッが描いたwいふくんにっww」
「そっくりよなwww」
「あの、髪がっw」
「ここに絵寄付しましたっけって思ったもんw」
どうやら壁に貼ってあるこの神社のキャラクターが描いてあるお花見の注意事項をまとめたポスターを見ているようだった
だがそれの何がそんなに面白いのかは謎だ
「まぁ言われて見れば見えなくもない…か?」
「まぁ言われて見れ…ば?」
「髪青いだけやん」
確かに言われて見れば見えなくもないが、一致しているのは髪が青いところだけだ
しょうちゃんの描いたまろの絵は知らないが、似てると言われるあの絵が可哀想そうだ
「いや違うんよwあの、目が、目の書き方が僕なんよw」
「そうwあと足w」
「足めっちゃそっくりw」
この二人はよく二人だけの世界に入るし、メンバーもリスナーも置いていってしまうのは日常茶飯時だが何がそんなに面白いのか全く分からず困惑する
傍から見るとただのやばい奴だ
「え、いむしょーもしかして酔ってる?」
「完全に酔ってるな」
「アルコール飲んでないのに酔えるってある意味才能だね」
爆笑するいむしょーを少し遠くから眺める
今日はお酒を飲んでいないはずなのにやけにテンションが高い
できればあまり近づきたくない
というか知らない人のふりをしたい
「もうちょい近くで見てくるwww?」
「うんw」
千鳥足でお互いしがみつくように手を繋いでよたよたしながら壁に向かって走っていくいむしょー
笑いすぎてまっすぐ歩けていないせいで完全に泥酔した人だ
まろといい、ないくんといい、いむしょーといい、全然桜を見ていない
絵に描いたような花より団子だ
と、いむしょーから視線を外してあにきが買い物袋を漁り始める
ガサガサとプラスチックのトレーが取り出される
「そういや桜餅買ってきたんやけど食べるか?」
「え!食べたい!」
「りうら桜餅食べれるの?意外」
「食べられるよー!しょっぱくて美味しい」
「あー桜の葉がな」
「桜の葉っぱ食べられんのに他の葉っぱは食べられないの不思議」
「何かいけるんだよね」
取り出された桜餅は6個入りのパックが2つ
ないくんがシールを爪で破りながら開ける
蓋が外され、まずは一つ摘む
少し小さく見えるが、桜餅は大体こんな大きさだった気もする
「ん〜美味しい!あにき天才!」
「ただのスーパーのやつやけどな」
「何かやっとお花見らしい感じになった気がする」
「りうらもずっとポテト食っとったしな」
「美味しかったよ?」
「良かったなw」
1つ目のパックの桜餅を食べ終わって2つ目のパックの残りが4つになったところでないくんがふと思い出したように口にする
「そういえばいむしょーいなくない?」
言われて見れば確かに
スマホを開いて時間を確認したが、いむしょーが二人で走っていった時間が分からなかったのでこの行動に特に意味はなかった
りうらの体感時計が正しいとするならば10分くらいたったような気がする
「また迷子になってるんやろうな」
「探しに行って来る?」
「連絡して待っとったらええんやない?」
「じゃあ俺連絡するね。ん〜と、今、どこ、いる……」
ないくんがラインを送った直後、りうらのすぐそばでしょうちゃんのスマホの通知音がした
音のした方に視線を下ろすと、しょうちゃんの紫色のケースを付けたスマホの画面が光っていた
「ないくんからライン来てるよ」
「ほとけっちのもここにあるし」
「あいつらスマホ持ってってなかったんか……」
「も〜やっぱり俺迎えに行って来るよ」
「そうしてくれるか?俺はまろがのってるし……」
「俺だけで大丈夫だよ。見つけてきたらもうお開きってことで帰ろうか?」
「そうするか。まろのせいで足も痺れてきたし」
文句を言うような口調なのにまろを見る眼差しは優しさに、愛おしさに満ちていた
あにきが笑いながらまろの髪を撫でる
そういう行動の一つ一つがあにきとまろの関係を感じさせてなんとなく羨ましくなる
りうらも、ないくんとこんなふうになれたらな
って、思うことはずっと思ってるんだけど
なかなか勇気が出ないんだよね
そんなに臆病じゃないと自分のこと思ってたんだけど
「──じゃありうらと俺で片付けとくからいむしょー頼むな」
「うんよろしくね」
立ち上がっていむしょーがキャッキャしていたポスターの方に歩いていくないくんを見送ってあにきとゴミを纏める
いむしょーってよく迷子になるよなぁ
なのに全然時間に余裕持って行動しないし
今日に関しては普段常にスマホにべったりなのにスマホ持ち歩いてないし
燃えるゴミをまずはマックの袋に入れ、プラスチックはコンビニのビニール袋に入れる
そんな作業を繰り返し、あとは下に引いているシートを畳めば帰れるところまで来たところで、
「りうちゃーんただいまぁ」
「悠くん〜ただいま!」
「あっほとけっち!しょうちゃんおかえり」
「おかえりお前らスマホ忘れてくなよ」
「え!?忘れてた?ごめん!」
にこにこと楽しそうに大きく手を振って帰って来たいむしょー
ただ本来あるはずの影が一つ足りなくて首をひねる
「あれ?ないくんは?」
「ないちゃん?あってないけど……」
「ここおらんの?」
「二人のこと迎えに行ったんだけど……」
「入れ違っちゃったのかも」
「とりあえず連絡してみるね」
暫くすれば帰って来るかなとも思ったが探している人が見つからなければ探し続ける気がするのでもう帰って来てもいいことを伝えるためにスマホをつける
ないくんならリーダーの責任感で人一倍探しそうだしね
ラインを送るために開いたスマホの時計が示す時刻はさっきないくんがしょうちゃんにラインを送った時刻から15分ほどたっていた
『もういむしょー帰ってきたから戻って来ていいよ〜!』
既読がつくことはなく、かわりにあにきのそばで通知音がした
何この既視感
「ないこもスマホ置いて行っとるやん……」
「今度はないちゃんが迷子か…」
「しょうちゃん迷子の自覚あったんだね」
「あ?舐めとんのか?」
「ガラ悪w」
「まぁとりあえずないこ迎えにいかなあかんな」
「僕たち行って来よっか?」
「いむしょーはまた迷子なるしなぁ」
「えー!?酷くない!?」
正直そこは否定できない
いむしょーって方向音痴っていうかなんかあてになんないんだよね
ほとけっちは酷いとか言うけど実際今迷子になってたとこだし
あんまり信用ならない……
「ん〜ほんとは俺が行きたいけどまろがなぁ……まろぉ?起きろ〜」
まろのほっぺをペチペチとあにきが叩いて起こそうとしているがお酒のお陰で深い睡眠に落ちているまろは少し身じろぎした程度で目を開けることもなかった
お手上げというふうにあにきがこちらに目を向ける
「悪いりうら、ないこ見つけてきてくれるか?」
「いいよ!任せて」
「ありがとな」
というかそんな消去法で条件並べなくてもりうらが行くつもりだったし
好きな人のことは誰を差し置いても自分が迎えに行きたいよね
早速芝生の上に置いた靴に足を入れる
なんとなく地面の上に放置してた靴履くのって勇気いるよね
芋虫とか入ってそう
靴紐を結び終え、立ち上がったところで背中に声をかけられた
「りうら、スマホ忘れてくなよ」
「!?わ、忘れないよ!」
「いやりうちゃん、それは忘れてた反応やろw」
「キャー天然!カワイイッ!!」
「忘れてなかったから!」
しょうちゃんに図星をさされてなんとなく焦った
というか、しょうちゃんだって忘れてたからね!人のこと言えないから!
あにきに言われた通りにしっかりスマホを手にしてないくんが行った方へ足を向ける
なんとなくスマホを開いて確認した時間は4時14分だった
「ないく〜ん?」
ゆっくりとしたペースで舗装された道をしっかりと木と木の間も確認しながら歩く
ないくんの髪桜とおんなじような色だから見逃さないようにしないとね
しかも今日お花見だからって淡いピンクの服着てきてたんだよね
完全に擬態されちゃう
ぼーっとしてたら見逃しちゃうかも
ときどき声をかけながら進む
暫く歩き、お花見のできる神社の前の公園みたいなスペースから神社の本殿に向かう空間になっていく
歩いている道もアスファルトに舗装された道から石畳の道へ変わった
歩く足音も変わった
桜の木もお花見スペースよりも多く生えているような気がする
遠くからだったら、例えばないくんが木の影に隠れていたとしたら見つけられないだろう
さっきよりも慎重に周りを確認しながら歩く
それにしてもここってほんとにいっぱい桜生えてるよね
地面ほぼ見えてないんだけど
階段を20段ほど登って50メートルほど歩いたところで神社の本殿についてしまった
「ないく〜ん?いるー?」
声をかけるも返事はなかった
昼前にお花見を始める前にメンバー全員で参拝をしたときはそれなりに人がいたのに時計の針が4時を回った今はないくん愚か人っ子一人いない
これ以上奥に道はないし、どこかですれ違ったのに見逃してしまったのだろうか
でも道沿いに歩いてったし、こまめに声もかけながら歩いて行ったのだからその可能性は低いだろう
かなり注意深く確認して歩いたしね
そもそもりうらがないくんを見逃すようなことするわけないし
じゃあもうお花見スペースに引き返した?
こんなに大量の桜が生えているんだし紛れてすれ違ったことに気づかなかった可能性もまあなくはない
それはないだろう
もしそうだとしたら、もうとっくにあにきからラインが来ているはずだ
でも念のため、とあにきにラインを送ってみる
『ないくんもう帰って来てる?』
『今神社の前まで来たんだけど』
すぐには既読がつかず、このあたりで少しないくんを探して歩き回ることにした
人のいない神社はなんとなく怖い感じがする
お昼にはおみくじやお守りを売っている建物の前に来たところで、スマホが震える
通知バーに表示された名前は想像した通り、あにきだった
『まだ帰って来てへんな』
やっぱり
送られてきた内容も想像していた通りだった
もう少し探してみるね、と打ったところで続きのメッセージが送られてくる
『もう少しそっちで探してみてくれるか?』
『今まろ起きたからいむしょーとこっちのお花見スペースの方探してみてるんよ』
このまま送ろうかと少し考えて、今打っていたメッセージを消し、新しいメッセージを打ち込む
『わかったもう少し探してみるね』
『そっち探すのよろしくね』
今度はすぐに既読がつき、おう、という短い返信が返ってくる
一度ポケットにしまったスマホをもう一度取り出し、時計を確認する
4時38分だった
この先にもう道はないし、きっとあにきたちが探しているスペースにいるのだろう
でもできればりうらが見つけたかった
このぐらいどうだっていいといえばどうだっていいことだけど、迷子になったないくんを見つけるのはりうらでありたい
ここにはいないと分かっていつつもあにきにもう少し探してみると言ったことともしかしたらこっちにいるのかもしれないという期待でもう少し探すことにした
でも探すって言ったってどこを……
何気なく横に向けた視線の先、神社の裏手側に伸びる細い一本の道を見つけた
ほぼ衝動的に、引きつけられるように、その道へ歩みを進める
ないくんがいるというか予感があった
駆け足で、早歩きで、ないくんを探す
こっちにいるのかもというか予感とは裏腹になかなかないくんは見つからない
どこに自分がいるのかわからないところまで走った
気づけば舗装された道はもうなく、ただたくさんの桜の木が生えた森のような場所に来ていた
流石に走り疲れて、少しスピードを落として歩きながらキョロキョロとあたりを見回す
一面の桜は、今来た道さえ見失わせる
正確には道なんてもうとっくになくなっていたんだけど
そもそもこの神社はこんなに広かっただろうか
もうこんなに奥まで来ているのならば本来ここは住宅街のはずだ
『ねぇねぇりうらくん知ってる?』
急に思い出した、あの高い声
『近所に神社あるでしょ?そこの桜ってね、すごく綺麗な人をさらっちゃうんだって』
当時は全然信じていなかった、その子のする、神隠しの話
『昔、あそこで実際にピンク色の髪の人がね、いなくなっちゃったんだって』
今だってそんなことを信じたことはないのに
今この瞬間だけは何故か、信じてしまう
昔ピンク色の髪の人がそこでいなくなっただけ。
ないくんが同じように攫われたとは限らない。
そもそも攫われていないかもしれない、けど。
すごく綺麗な人を攫う桜
この桜だらけの空間にいると嫌でもそう思えてしまう
ないくんもピンク色の髪で、すごく綺麗な人だから
『怖いよね〜!攫われないようにするにはね、えっと、ん〜何だっけ………』
お願い、早く思い出させて
『あっそうそう、攫われないようにするにはね──』
──思い出せない
確かあのとき、ほんとにその子のする話が興味なくて、半分くらい流してた記憶がある
そんな記憶はあるのに、肝心のさらわれない方法、とやらは思い出せない
何も思い出せないことに焦ってどっちに行けばいいのか分からないにも関わらず何もしないのが怖くてまた走り始める
ひたすら走る
なのにどこまで走っても景色は変わらず、疲労だけが溜まっていく
どのくらい走っただろうか
体感では20分以上走っていたように感じる
視界が開けてきた
一面ピンクなのは変わらないが、周りの桜よりも遥かに大きな桜の木
その周りを避けるように桜が生えていない
否、その大きな桜の木が周りの木を吸収してその場が開けているようだ
周りの桜の十倍、いや二十倍は大きいように見える
思わず立ち止まり、どのくらいの高さなのだろうと上を見上げる
木の枝と花びらが一面に広がり、空が見えなかった
そういえば、この時期は桜が散る時期のはずなのに満開だ
ないくんが神隠しにあったのではと考えたあたりから何かおかしい
こんなに広い神社
こんな時期なのに満開の桜
こんなに大きな、常軌を逸した大きな桜
これはいよいよ神隠し説が濃厚になってくるぞ
なんて現実逃避に陥って思わず他人事のような語り口になってしまった
大きな桜に走って近寄る
なぜかもう疲れは気にならなかった
木まで走って目の前まで来ようというところでずっと探していたピンク色の髪の、
「ないくっ」
今まで全力で走ってきたせいで喉が枯れてしまっていた
ライブしてる時のほうが喉に負担かかってそうなのに
カサカサの俺の声はないくんに届く前に空気に紛れて消えてしまった
ずっと探していたピンク色の瞳は大きな桜を見つめていて、まるでスローモーションのように白くて長い手を桜に伸ばす
桜よりも濃いピンクであるはずなのに桜と混ざってすごく儚くて、この桜の群れに溶けてしまいそう
いかないで
そこではっとしてないくんを止めないといけないという気がした
桜に触ったらないくんが攫われてしまいそう
あまり喉の準備をする時間はないけれど、唾を飲み込んで僅かながらも喉を潤す
気休めにもならないけど
喉とお腹にしっかり力を入れて、叫ぶ
「ないくん!!」
大きくその目を開いて、伸ばしかけていた手をおろした
こちらを捉えたピンク色にひどく安心した
「りうらっ……」
今度はしっかりこちらに体ごと向けて、俺の、りうらの名前を呼んでくれた
そんな姿をみて思わずまた走り出す
決して長い距離ではなかった
すぐにそばまでいける
「ないくん!みつけた……!」
走った勢いで、疲労の溜まる足がもつれてしまった勢いで、抱きしめた
腕の中に感じるぬくもりを感じて、消えていないことを、消えてしまわないことを確かめる
攫わせない、桜になんて
「えっちょ…りうらっ」
「ないくん、良かった」
「えっなにどういうこと?」
動揺してわたわたとする体を抱きしめる
りうらがもう少し背が高ければないくんを包み込めるのに
この桜に見られないようにできるのに
「なんかよくわかんないけど、りうら、ちょっと離して…」
「やだ」
「え〜……」
こちらの体を押し返そうとするのを強引に抑え込む
例えメンバーであっても急に抱きしめられるのは嫌だろうが許してほしい
心配したんだ
それに、
「ないくん、」
少し体を離して、しっかり目を見て、 ないくんも、ちゃんと、りうらの目、見ててね
「好きだよ」
「っぇ、」
ねぇ顔赤いのは期待してもいいの?
それとも生理現象?
「えっ、ちょ待って、どういう、…」
「そのまんまだよ」
「そのまんまって、どういう意味…?」
ないくん、期待してる?
りうら、自惚れちゃうよ?
「そのまんま、恋愛的に、ないくんが好きだよ」
顔と同じように、真っ赤に染まった指先を掴んで、絡める
「付き合ってほしいって意味」
りんごみたいに真っ赤になって、口をぱくぱくさせているないちゃん
なんてりうらに返してくれるの?
教えてほしい
「っ……いいの?俺で」
「なんでそんなこと言うの、りうらないくんに向けて告白したのに」
「…信じられなくて、……うれしいっ」
今度はりうらがないくんにガバっと抱きつかれた
少しよろけちゃったけどしっかり抱きとめる
「ありがと、俺も好きだよ」
軽く絡めていただけの手をしっかり深く繋ぎなおす
桜さん、見えてる?
ないくんのことはりうらが一生大切に、幸せにするから安心していいよ
「ないくん、帰ろ」
「うん」
ないくんとスマホで地図を見てびっくりしたんだけど、ここ、神社から4キロぐらい離れてたんだよね
りうらよくこの距離休みなしで全力疾走できたよね〜
あとなぜか不思議びっくりつながりで、なぜかあにきにラインできなかったんだよね
今から帰るって言いたかったのに
ラインでもDMでも無理だったからもう諦めちゃったんだけどちょっとかなり長い時間待って貰わないといけないから申し訳ないよね
あ、ちなみに今はないくんとおててを繋いで仲良くのんびり帰ってます
もちろん恋人繋ぎね
すごく意味わかんない感じの時間だったけど、ないくんと付き合えたし、なんかもういいかなって感じだよ
え?付き合えてるよね?夢とかじゃないよね?
「なんかすごい不思議な場所だったよね〜」
「えっあうん」
この事実が信じられなくてちょっと反応遅れちゃった
「何だったんだろうあの桜」
「りうら、なんか聞いたことあるんだけど、」
あの近所の女の子から聞いた神隠しの話を簡単にないくんに話した
まあ簡単にっていうか簡単にしか話せないくらいのことしか聞いてないってことなんだけど
「へ〜不思議だねじゃあそれだったのかもね」
「うん、りうら今までそういうの信じてなかったんだけど」
「…でもちょっと照れちゃう」
「なんで?」
「俺、綺麗ってことでしょ?なんか恥ずかしいよ」
「ないくんは綺麗だよ」
ぽんって赤くなるのが本当にかわいい
ってか俺よく告白できたよね
今日の昼まで絶対無理だって思ってたのに
まあ色々結果オーライってことだよ
そこから仲良くいろんな話をしながら一時間くらい歩いて、やっと神社まで帰って来た
ここまでくればあにきにも連絡できて、神社の前で待ち合わせることにした
「おーりうら、ありがとな」
「ないちゃんスマホ忘れてごめんなさーい!!」
「ったくこれだからあほとけは」
「ねぇちょっと!いふくんは寝てただけでしょ!」
「あ?うるせーな!」
「ないちゃん、りうちゃんおかえり〜」
「しょにだ!ただいま」
「待たせてごめんね一時間以上待たせちゃって」
「ん?そんなに待ってへんよ?」
「え?でもだって確か……」
スマホを取り出して時刻を確認する
5時3分
一時間どころか30分も経っていない
りうらとないくんは顔を見合わせる
「えでも4キロ……」
「4キロ?」
「ん〜なんかよくわかんないけど無事帰って来られてよかったな〜」
「まぁそうだね」
しょうちゃんの雑なまとめでそれでいっかって気持ちになってきたわ
「あっ!てかりうちゃんとないちゃん手繋いでる!」
「おっほんまや!やっとか?」
「え?やっとって?」
「俺らお前らの進展がなさすぎてやきもきしてたんよ」
「傍から見ればただの両想いなのにね〜!!」
「お祝いにお酒飲みに行こ〜!!」
「まろさっきも飲んどったやん」
「え〜!いいじゃん!」
待って待って
すごい展開が、え?
「みんなりうらがないくんのこと好きなの知ってたの?」
「そりゃな〜」
「りうちゃんもないちゃんもわかりやすいからね〜」
「…まじか」
ないくんはどう思ってんだろって顔見たら、すごい
「真っ赤」
「言わないでよ!はずかし〜…」
ほっぺと耳たぶがすごい真っ赤で可愛くて、握る手に力を入れた
ちなみに二人が頼りにしてきた地図からはもうあの桜の場所はただの住宅地に変わっていたとか。
side.近所の女の子
「ねぇねぇりうらくん知ってる?」
近所の男の子のりうらくん
とっても塩対応なの。というか興味がないのかな
私に対してだけじゃないよ!!どんな話してもそうだから
誰に対してもそうだしね!
だからね、りうらくんが興味を持ってくれるような話がしたくて今日選んだのは神隠しの話
ちょうどそろそろ桜も咲くしね
この季節にぴったりの話題を選んだつもりなんだけど、今日の手応えもいまいち
「────攫われないようにするにはね、その人をとっても大事に思う人に迎えに来てもらうんだよ!ロマンチック〜!!」
最初の神隠しの話をし始めたときはうんとかすんとか相槌があったのにもうしてくれないんだから!
でもいいもん話続けるから!
「でもね、この話って怖いけどほんとはすごく悲しい話があって、」
話始めたのはおばあちゃんとお花見に行くときに毎年聞かせられる話
ある兵隊さんとピンク色の髪の女の子の恋の話
ある村にね、優しい青年と、ピンク色の髪のすごく綺麗な女の子がいたの
その二人は恋に落ちて、これから二人で仲良く暮らして行きたいと思ってた
でも戦争の時代で、兵力が足りないうちの国では徴兵制が取られてた
優しい青年もこれから兵隊さんになる一人
ある日ついに呼ばれちゃうの
二人はひどく悲しんだわ
だってずっとそばにいたいと思ってたのに戦地に行って命がけで戦わないといけないんだから
戦地に出発する前の日の夜、二人は大きくて綺麗な桜の木の前で誓うの
『必ずまたここで会おう』
ってね
フラグみたいだよね
そのフラグを回収するように結局彼はすごい致命傷を負っちゃうのね
でも約束を果たそうと命からがら桜の木の前に帰ってくるの
なんだけど、致命傷を負ってるからその桜の木の前で力尽きちゃうの
彼が帰って来たって聞いた彼女が走って彼の元へ走って行くの
彼は死にかけの、体温と人の声しか聞こえない状態で彼女と再開するの
『あいしてるよ』
二人は伝えあったらしいわ
彼は薄れゆく意識の中で、最後に彼女の生涯の幸せと、その幸せを作り、支えてくれる人が彼女の前に現れることを最後に願ったんですって
その後、一人残された彼女はあの桜の前に攫われるの
その時、彼女を愛していたある男の方が迎えに来てその方と結ばれたらしいわ
しかも生涯仲良く、お互い大事にしあって
感動的だよね〜!
私この話大好き
だからね、思うの
この桜ってピンク色の髪の人を攫ってるんじゃなくてその彼女を大事にしてくれる人と結びつけようとしたんじゃないかなって
大好きな人なのに他の人と幸せになってほしいなんて
優しいを通り越してただの馬鹿だよね
本当に大好きなんだろうな〜
憧れちゃう!!
私もそんな恋したいな〜!!
えっちょっとりうらくん全然聞いてないじゃない!
もう!
明日何の話したらいいわけ〜!!
いつかりうらくんが必死になってるとこ見てみたいな
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