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絢人…「」 翡翠…『』
『……絢人さん? 入りますよ』
千石翡翠は合鍵を使って鷹司絢人のマンションに入り、静かに寝室のドアを開けた。
いつもなら完璧なオーダースーツを着こなし、隙のない笑みを浮かべているハイスペックな大人が、今日はベッドの中で大きな体を丸めている。
「……翡翠、くん……? なんで……」
『なんでじゃありません! カフェのスタッフから『オーナーが体調不良で休み』って聞いて飛んできたんです。もう、無理するから……』
翡翠は呆れつつも心配そうに眉を下げ、ベッドの脇に腰掛けた。
絢人の額に手を当てると、ハッとするほど熱い。知的なメガネを外した絢人の顔は少し赤く、熱のせいかうっすらと瞳が潤んでいた。
『熱、何度あるんですか? 体温計どこですか?』
「……38度5分。大丈夫だよ、大したことない。君に心配かけるつもりじゃ……」
『大したこと大アリですよ! ほら、喋らない。俺が来たからには大人しく寝ててください』
世話焼きでお人好しな翡翠の本領発揮だった。
翡翠はテキパキと台所に立ち、冷蔵庫にあった材料で消化の良い特製のおかゆを作り、スポーツドリンクと冷却シートを用意して戻ってきた。
『はい、おかゆできました。食べられそうですか?』
「うん……ありがとう」
ゆっくり体を起こした絢人に、翡翠はスプーンですくったおかゆを「ふーふー」と冷まして差し出す。
『ほら、あーんしてください』
「……子ども扱いだな」
『病人扱いなんですー。いいから食べてください!』
少し恥ずかしそうにしながらも、絢人はおとなしく翡翠からおかゆ口に運んだ。
いつもは圧倒的な〝大人と子ども〟〝攻めと受け〟の構図が、完全に逆転している。自分を甲斐甲斐しく世話してくれる翡翠の姿に、絢人の胸の奥がじんわりと熱くなった。
「……ごちそうさま。すごく美味しいよ」
『よかった。じゃあ薬飲んで、冷えピタ貼って寝ましょう』
翡翠が冷却シートを絢人の額に貼ろうと手を伸ばした、その時だった。
ガシッ、と熱い手首をつかまれる。
『うわっ……! 絢人さん!?』
「……帰るの?」
掠れた低い声。冷えピタを持ったまま固まる翡翠を、絢人はうるんだ瞳でじっと見つめていた。
いつもなら計算ずくで余裕を見せる男が、熱のせいで理性のガードが外れ、剥き出しの「甘え」と「執着」を覗かせている。
『か、帰らないですよ! 絢人さんが寝つくまで、ちゃんと部屋にいますって』
「……ここにいて」
ぐいっと腕を引かれ、翡翠の体がベッドの上に倒れ込む。
逃げる隙もなく、絢人の長くて熱い腕が翡翠の腰をガッチリと抱きかかえ、そのまま布団の中に引きずり込まれてしまった。
『んなッ!?ちょっ……絢人さん!? 風邪うつりますって! 男ふたりでこの体勢は狭い――』
「うつればいい。……そうすれば、明日も君が俺の世話をしなきゃいけなくなる」
背中から伝わる、熱い体温と強い脈動。耳元で囁かれた言葉の重さに、翡翠の顔が一気に沸騰する。
(な、なんだこの人……っ! 熱のせいか分かんねぇけど、甘え方が反則すぎる……!)
普段はスマートに追い詰めてくる大人が、熱に浮かされて子どもみたいにしがみついてくる。その強烈なギャップと色気に、翡翠の心臓は破裂しそうだった。
『……ほんと、ずるい大人ですね』
「君が優しすぎるのが悪いんだよ、翡翠」
翡翠はため息をつきつつも、振り払うことはしなかった。
覚悟を決めると、自分を抱きしめる絢人の背中に回した手で、トントンと優しくリズムを刻んであげる。
『……早く治してくださいね。治ったら、このお返しにどこか連れてってもらいますから』
「……約束する」
翡翠の温もりに包まれ、絢人は安心したように長い睫毛を伏せた。
大人を完全に骨抜きにした17歳の世話焼き男子高校生と、熱に乗じて好きな子を離そうとしない激重な大人の、甘くて温かい看病の夜だった。
コメント
1件
ああああ読んだあああ!!!😭💕 第4話、まじで尊すぎて胸が痛い……! 「うつればいい」って大人の熱に浮かされたどストレート執着、反則級じゃない??普段のスマートなギャップが効きすぎてて、こっちまでドキドキが止まらんかったよ……🫣💥 翡翠くんのテキパキお世話も、トントン背中トントンも、全部がエモくて温かい。「治ったら連れてって」って約束取り付けるとこ、彼のずるさと可愛さが同時にくる〜!もう次の話が待ちきれないよ、ゆーちゃん神回ありがとう🙏✨
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