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「……なぁ、お前は、何がしたかったんだ。」
独り言とも質問とも取れる言葉に、僕は少しの動揺を見せた。
大きなゲーム会場を優しく照らす小さな灯りは、まるで外の世界の夕陽のようで、この環境に対して皮肉だった。目に悪いビビットな色の壁や床、階段と装飾物。心地よいそよ風が吹くことは許されず、今が何時で、ここが何処で、外では何が起こっているのかさえ分からない。それに加えて安易に人殺しが起こるのだから、この場所は一言で言えば地獄だ。だが、その環境にいても尚、ゲームを続けたいと感じる者がいるというのは、やはり人間の恐ろしさで、醜さと言っていいだろう。少なくとも、胸にバツの印を付けている者達はそう考えていた。
「…僕が、何をしたかったか?」
「そう。お前はここまでして、何を手に入れたかったんだ?」
「…上にある賞金以外に、君は何があるって言うんだよ」
「それはまず大前提だろ?金除いて考えろ。」
「……」
僕は少し苛立ちを感じていた。あまりにも馬鹿馬鹿しい質問だったからだ。答えたって意味が無い。答えたところで何も報酬はない。正に、時間の無駄ってやつだ。
……けれど、ここで何も考えずにただぼーっとして時間を使うのも時間の無駄だ。仕方ないので、横にいる愚かな男のために、少し考えてやることにした。
何を手に入れたかったか。その問いには答えも何も存在しない。あるとすれば彼の機嫌を良くさせる返答。…癪に障るのでそんなことはしてやらないが。
少し考えたのだが、自分の思いに全て従うとすれば、やはり金。金しか無かった。金だけで買えないものもあると人は言うが、そんなことはない、と心の底で密かに思っていた。金があればなんでもできるというのは少し違う気もするが、それに近いような感じはした。これを口に出すと嫌われてしまうので周りに言ったことは無い。だが、横にいる男だけは例外だ。こいつに嫌われた所で心底どうでもいいと思うし、きっとまた、彼も同じことを思っているだろう。皮肉にも、こんな人間に出会ったのは初めてかもしれない。ここまで興味が無い人間とは。現に今、「早く言えよ」「何悩んでんだ」「はっきりしろ」と不満の声が発せられている。が、耳には一言たりとも流れてこないし、流れてきたところで脳にまで響かない。
心底どうでもいい。まったく興味がない。早く返事をしなければ、またどうでもいいことを言われてしまう。早く返事をしなければ。
「なぁおい、早く話せよ。待ちくたびれちまうだろうが」
「何を手に入れたいんだ?お前は。心の底から何を求めてる?」
「君。」
「…ああ?」
「君だよ。手に入れたいのは。」
「…は?」
あれ、今、何を言ったっけ。 まぁいいや。どうでもいい。心底どうでもいいから。