テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
家にあった古いオカルト雑誌に、『魔法の存在』という記事が載っていた。小さい頃に一度読んだきり、開いてすらいなかったのだけど、ある出来事をきっかけに再度読むことになる。
「ただいま」
僕は母さんと二人暮らしで、今日もいつも通り学校から帰ってきた。
「あれ、母さん?」
いつも出迎えてくれるはずの母さんがいない。
リビングへ行くと物が散乱していて、まるで強盗が入ったかのような有様だった。
「何だよ、これ」
しばらく固まっていると、机に何か刻まれてあるのを見つけた。
その文字は明らかに日本語ではない。というか、見たこともない言語だ。
「一体何が……」
スマホの翻訳機能を使っても、文字化けして役に立たない。でも、この文字にはきっと意味があるはずだ。
僕は言語学者だった父さんの書斎に駆け込み、片っ端から本を漁った。古代文字からデジタル言語まで、どれを見てもあの文字とは違うものだった。
「くそ、だめだ。ん? これは……」
それは昔読んだオカルト雑誌だった。そして気になる記事を見つける。
「魔法の、存在?」
内容はほぼ都市伝説に近いものだったけど、魔法使いの用語一覧を見た時、僕ははっとした。
「これ、あの文字と同じだ」
僕は早速、机の文字と照らし合わせる。
『命は満月の夜とともに消える』
『救いたければ石の示す場所へ来い』
辺りを探すと、小さな石のついたネックレスが落ちていた。
「命って、もしかして母さんの……」
母さんが今危険な状況にあるということはわかった。だけど、どうすればいいんだろう。
雑誌の記事には続きがあった。
「魔法の師範?」
こんなのは嘘に決まっている。この世界に魔法なんてあるわけない。きっとこの文字も、頭のおかしい愉快犯が書いたに違いない。
でも、他に方法も見つからず、住所を頼りに『魔法の師範』を訪ねてみることにした。
田舎町の山奥、行き着いたのは木造のぼろ小屋だった。
「あのー、誰かいませんかー?」
扉を叩いて呼びかけても返事がない。やっぱりデマだったんだと諦めて帰ろうとした時、ゆっくりと扉が開き、中から強風が吹いてきた。
僕の少し伸びた硬い黒髪が激しく乱れる。メガネが飛ばされないように、途中で外してポケットに突っ込んだ。
しばらく強風に耐えて目を開けると、そこには三十代ぐらいの、清潔感のない長髪の男が立っていた。
「お前、俺に何の用だ?」
「あ、えっと、『魔法の師範』さん、ですか?」
男はその言葉に驚いた表情をした後、僕の首元のネックレスを見て目を見開いた。
「その名前どこで。あと、それはどこで手に入れたんだ」
「えっと、オカルト雑誌に書いてあって、これは家に落ちてて、あ、それより、母さんが誰かに誘拐されたんです!」
次の満月は一ヶ月後、一刻の猶予もない。
「落ち着け、何があったのか、最初から話せ」
僕は、母さんが誰かに誘拐されたこと、部屋が荒らされていて魔法使いの文字が残されていたこと、石の示す場所に母さんがいることなど、家に帰ってからのことを細かく説明した。
「文字を書けるということは獣ではないな。いやでも、魔法使いは今は俺一人なはず」
僕の話を聞いて、男はぶつぶつと何か言っている。
「石の示す場所って書いてあったんですけど、この石、何も反応なくて」
家からここまで、ずっと石を様子を観察していたけど、ただの石にしか見えない。
「そりゃそうだ、お前には魔力がないからな。記憶石は魔力に反応して、記憶した場所の方向を示す。魔力がない者にはただの石同然だ」
魔力? それは人間が得られるものなのか。
「じゃあ、どうしたら……」
「お前、名前は?」
「今村叶多いまむらかなたです」
僕の名前『叶多』は、母さんがつけてくれた特別なものだ。
「叶多、お前は母さんを救いたいんだよな?」
「当たり前です! 母さんは、父さんがいなくなった後も一人で僕を育ててくれたんです」
男はにやりと笑う。
「じゃあ、決まりだな」
これから一体、どうなるのだろう。
「これ、持ってみろ」
渡されたのは手のひらサイズの黒光りの石。持ってみると、それは徐々に赤く光だした。
「え、な、何ですかこれ!」
「それは属性石だ。どの属性に適しているかがわかる。お前の場合は『炎』だな」
いきなりのことすぎて、理解が追いつかない。
#主人公最強
杯雪乃
958
#ci
さにょ〜ん
145
#カラスバ
小鳥遊
4,804
「じゃあ、これ持っとけ」
今度は新品のマッチを渡された。どういうことだろう。
「一部屋貸してやる、そこで集中して考えてみろ。考えることは自由だ」
「え、ちょっと……」
何も説明がない。母さんが危険だっていうのに、あの人は何なんだ。
僕はこの日から部屋に篭り、色んな考えを巡らせた。
部屋を出るのは食事の時だけだ。
「こんなことして、何の意味が……」
僕はもう、母さんのことしか考えられなくなった。
母さん、無事だよね?
僕が絶対に助けに行くから。
もう少し、もう少しだけ待ってて。
絶対、絶対、絶対……。
助けに行くんだ……!
心に何かが灯った。
「うわあ!」
その瞬間、マッチに火がついた。
「おお、やったか」
「こ、これ! どういうことですか!」
僕の声を聞きつけたあの人が部屋に入ってきた。
どうしてこんなことが起きたのか、僕はすぐに説明を求めた。
「魔力が発生したんだ。考えは、想いは、魔法を錬成させるからな」
僕はまだ完全には理解できなかった。
「ほら、その石を見てみろ」
男は僕の首元のネックレスを指差した。
「あれ、光が」
石は真っ直ぐ光を放っていた。
「その先に叶多の母親がいるはずだ」
「あ、ありがとうございます……! えっと、僕はこれからどうすれば……」
僕は希望が見えたことで、男に信頼を抱き始めていた。
「じゃあ、次はこれだな」
渡されたのは顔ぐらいの大きさのランプだった。
「やることは一緒だ。じゃ、頑張れよ」
「あ、あの、あなたの名前は……」
「師範でいい」
また同じように、師範は僕をほったらかし、直接何かを教えてくれることはなかった。
「師範! 火がつきました!」
「はい、次」
火をつけるたびまた別のものを渡される。それは徐々に大きくなっていった。
そして、ある日突然言われた。
「これに火がついたら母親のとこに行け」
師範は魔法について何も話してくれなかった。
最後に渡されたのは湿ったマッチ。それに火が付いたのは、満月の夜の前日だった。
「師範、火がつきました……」
「お前は優しいから、きっと母親は助かる。頑張れよ」
詳しいことは何も話してくれなかった師範。でも僕は、確実に強くなった気がする。
僕は一人で石の示す場所へと向かった。
その場所は、僕が父さんとよく行った洞窟だった。
「どうしてここに……」
洞窟の最深部に二つの人影が見えた。
「ああ、母さん!」
一人は母さんで、もう一人は……。
「父さん……?」
あり得ない、父さんはもうこの世には……。
「叶多、来てくれたのか。待っていたよ」
「本当に父さんなの?」
「もちろんだ、さあ、おいで」
母さんは父さんの隣でぼーっと立っている。
「母さんは、大丈夫なの?」
「ああ。だから、ほら、早くおいで」
おかしい。母さんの様子も、父さんの口ぶりも。
「父さん、一体何を……」
「いいから早く来るんだ!」
いきなり怒鳴るなんて、父さんらしくない。
「やっと魔法が完成したんだ。これで家族一緒にいられる、永遠にな」
「そういうことだったのか、一般人がここまでやるとは」
後ろからの声に振り向くと、そこには師範がいた。
「お前は誰だ!」
「魔法で永遠の命を得ることは禁忌だ。魔法使い規定に基づいて対処させてもらう」
「師範……」
「母親を助けたいんだろ、こっちは任せて早く行ってやれ」
僕は大きく頷き、母さんの元へ駆けつける。
「母さん、母さん?」
揺さぶっても反応がない。目がうつろで、感情というものが欠如しているようだ。
「もう、手遅れなの……?」
僕の心の灯火が、小さくなっていくのを感じる。
僕がしっかりしていれば、僕が強ければ。
僕が、全部悪い。
だから母さんはこんなことに。
母さんがいなくなったら、僕はもう。
僕の生きている意味なんて……。
「余計なことを考えるな!」
師範の叫び声が僕の耳を貫いた。
「叶多、母親を炎で包むんだ」
おかしくなった父さんを魔法で抑えながら、僕に語りかける。
「でも、それじゃ母さんが……!」
「大丈夫。叶多、お前は優しい。きっと人を燃やすために魔法を使うようなやつじゃない」
師範の言っていることはずっとわからないけど、やるしかない。
「母さん、ごめん」
僕はそっと、母さんを炎で包んだ。
「あれ、燃えない……?」
その炎は人肌のような温かさで、数十秒後に自然と消えていった。
「かな、た?」
「母さん! 良かった……!」
僕は泣きながら母さんに抱きついた。
「どうしたの? 何があったの?」
「生きてて、良かった」
母さんは何も覚えていないようだった。辺りを見回すと、父さんと師範の姿はなかった。
あれから一週間、僕と母さんは平穏な日々を送っている。
父さんは依然見つからず、師範のぼろ小屋はもぬけの殻だった。ただ、小屋の扉に僕宛ての一通の手紙が貼り付けられていた。
「叶多、無事に母親を助けられて良かったな。最後に、父親の記録を残しておく。一応、大事な家族だろうからな。見たくなければ捨ててくれ」
封筒の中にメモが何枚か入っていた。それは、父さんの日記の一部だった。
私は魔法の存在を知った時から、その研究に没頭した。
そして、ついに永遠の命を手に入れられる魔法を習得した。
これで研究を続けられる、家族とも一緒に。
だが妻は、受け入れてくれなかった。
仕方ないが、強行手段だ。
叶多は頭がいいから、うまくここに誘導しよう。
「父さん……」
メモを全て読み終わった後、師範の手紙には続きがあることに気がついた。
「人の心がある限り、魔法は生き続ける。そのことを忘れるなよ。また会う日まで、元気でな」
師範は結局、大事なことは何も言ってくれなかったな。
あれから魔法は使っていない。使う気もない。ただもう一度、師範に会えたなら……。
「よう、叶多。久しぶりだな」
魔法使いを目指してみようと思う。