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スキル『敵意把握』は発動すると、近くの対象の敵意の強さによって、視覚に赤いもやのようなものが見えるようになる。
その色の濃淡で、対象が少し苛立っているのか、それとも殺意を抱いているのか、という敵意の強さが把握できる仕組みだ。
今のような状況だと、対象を周辺モンスターに設定して発動すると、探知範囲内の様々なモンスターの輪郭が壁越しでも赤く浮かび上がる。
そして、この先の洞窟最深部の一際大きな輪郭は、他のモンスターと違って、ほとんど黒に近いほど赤色が濃かった。
非常に強烈な殺意だ。
「よし、僕が先行する! 君は援護を頼む!」
そう言って、アルレアは敵の前に飛び出した。
普通の冒険者だったら、絶対に引き止めている場面だが、アルレアは王国騎士団の団長だ。
その実力を間近で見てみたくないと言えば嘘になる。
私はすぐに助けられる状態を維持しつつ、彼の後についていった。
「ウガァァァァァ!!!」
ようやく今日の獲物とのご対面だ。
二メートルほどの大柄な影。それは二本足で立つオオカミ系統の獣人だった。
目つきは鋭く、何かの血を滴らせた牙を持ち、よだれを垂らしている。
この国では、獣人はモンスターとして扱われている。理性がなく、見境なく人間を襲うからだ。
その獣人は一般的な毛色ではなく、全身の毛が紫色に染まっていた。
これは魔力汚染の証だ。洞窟のどこかに溜まっていた大量の魔力を浴びたせいで、非常に強力な力を得たのだろう。
だが、その代わりに身体が紫色に変異し、目に入ったものを手当たり次第攻撃するようになる。
それが魔力汚染の特徴だった。
この洞窟には、洞窟オオカミが生息していたので、元はその中の一匹だったのではないかと思う。
「これは……ひどいな。レベルは40。洞窟のモンスターを狩り尽くして、外に出てくるのは時間の問題だ」
アルレアは苦い顔をした。
私が紫獣人の足元に目をやると、いくつものモンスターの死体が転がっていた。
「大丈夫? 一人でやれるの?」
思わず私は訊ねる。
しかし、アルレアに恐怖した様子はなかった。
「問題ない。始めるよ――目覚めよ、守護の剣。スキル『騎士剣の奇跡』!!」
アルレアがそう叫ぶと、彼の握った剣が黄金に輝き出す。
これは王国の中では、かなり有名なスキルだ。
適正者が少ないレアスキル。しかし、歴代の騎士団長は全員が持っていたとされている。
スキル『騎士剣の奇跡』の内容は、実は分解して考えると、一時的に『筋力向上Ⅴ』、『俊敏性向上Ⅴ』、『防御向上Ⅴ』、『魔法耐性Ⅴ』、『剣技威力向上Ⅴ』を付与するものとなっている。
一つのスキルで、パラメーター向上スキル五つ分の効果を発揮する。
これは一般の騎士からしたら、反則級の強さだろう。