テラーノベル
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あの人は、私にとって唯一無二の存在だった。
朝は冷たい霧の中を歩いているようで、 教室では透明になった自分だけが取り残されていた。
放課後の廊下は長く、誰の声も届かない洞窟のようだった。
机に落ちる光はやけに眩しく、目を伏せれば周囲の気配は遠のいて、世界は静止してしまう。
背中に感じる気配、机に残される落書き、ゴミ箱に隠された私の靴。
小さな刃が一つずつ突き刺さるみたいに、心は静かに傷だらけになっていった。
助けを求める声も、もう喉の奥で凍りついていた。
そんな空白の世界に、突然、光が差し込んだ。
「大丈夫?」
かすかな囁きにすぎなかったのに、胸の奥に雷鳴のように響いた。
顔を上げると、そこにいた人は逃げずに真っ直ぐ見つめていて、その眼差しだけで世界が少し動いた気がした。
「あなたを救ってみせる」
差し伸べられた手に私は、触れることが出来なかった。
あの人と一緒に過ごした日はとても楽しかったし、幸せに感じた。
それでも私の心は満たされなかったのだ。
そんな日をボンヤリ感じながら過ごした
八月のあの日。
耳をつんざく金属音とともに、世界は一瞬で暗転した。
焼けつく陽射し、熱気をはらんだ空気、風を切る衝撃音──そして静寂。
手を伸ばしても、そこにあったのは真っ白な空虚だけだった。切り裂くブレーキ音。
風を切る音、そして静寂。手を伸ばしても掴めたのは、真っ白な空虚だけだった。
泣くこともできなかった。心の奥にぽっかりと穴が空き、夏の風が吹き抜けていくだけ。
その人の姿はもう、二度と──と理解した瞬間、膝が震えて立てなくなった。
死に際の光景は、あまりにも儚く、それ以上に美しかった。
まるで静かに灯を落とすように、穏やかで、完璧に美しかった。
最期の瞬間まで、その人は光だった。
あの人の名前は、 蛍。
あの人の姿は私の胸の奥深くに焼き付いて、決して消えるることはない。