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むかしむかし
街から少し離れた丘に、一体の像が立っていました
金色に輝く猫の銅像
街の人たちは 幸福の猫 と呼んでいました。
小高い丘の上から町を見下ろし
宝石の目で人々を見守る、
それはそれは美しい像でした。
ある日、その横に
一羽のつばめが止まります
南へ渡る途中で休むだけのはずでした
でも夜になると見えてしまったのです。
寒さに震える子ども
灯りのない家
薬を買えず流行病に苦しんでいる人
お腹を空かせてうずくまっている人
「ねぇ、あの人を助けたい」
そう言われるたび猫は笑って答えました
「ほな、俺の宝石持ってけ。
これ売ったらあの子あったかくなるやろ」
つばめは飾りを一つ、
クチバシで器用に取り飛び立ちます。
「あっちにも」
猫はまた笑って答えました。
「ええで」
また一つ……
もう一つ…………
「まだ困ってる人おるんやろ?
ダイヤモンドもサファイアもあるで」
つばめは迷いました。
「でも、それだと君の目が…」
「…ええよ。渡したら街の人は幸せになる。
それで笑ってくれるなんて最高やない?」
「……そうだね」
目を一つ……
つばめは毎日飛び、困っている人へ届けました。
「まだ、助けたい人たちがたくさんおるんやろ?」
「うん、教会にいる小さい人間がね
毎日お腹を空かせてる…」
最後は金の体のかけらを一枚、また一枚…
街は少しずつ穏やかに
やさしくなっていきました。
その代わり
幸福の像は輝きを失っていきました。
やがて冬
仲間のつばめたちは南へ飛びます
けれど緑のつばめは動きません。
「行かへんの?」
「行かない……
だって…君を、一匹ぽっち、に
…したくない……」
トクン……
「……見えなくて気付かへんかった。
君は、もう、、」
「そう、でも…ないよ……」
……トク、ン…………
寒くなり虫ももういない
つばめはしばらく何も食べていませんでした。
雪が降る夜
小さな体は猫のお腹にもたれて静かに眠りました。
朝、広場にいたのは
色を失った像と動かないつばめだけでした。
街の人は言いました
「古い像だから直してあげよう」
広場にやって来たのはやさしい顔をした若い男の人と女の人でした。
汚れを拭き、欠けたところを磨き、
長いあいだ雨風にさらされていた猫の像を丁寧にきれいにしてくれたのです。
「ずっとここで街を見ててくれたんだね」
「ありがとう」
その言葉は誰にも聞こえないはずなのに、
像の胸の奥にかすかに届きました
けれど……
磨けば磨くほど像の傷みは深いとわかりました
ひびは広がりこのまま外に置けば崩れてしまうほど
「この子…このまま壊れてしまうより、
きちんと役目を終わらせてあげようよ」
女の人が静かに言いました
そして猫の像は花を添えられ
感謝の言葉に見送られながら炉へ運ばれました
炎が体を包み金属はゆっくり溶けていきます
その中にただ一つだけ溶けないものがありました。
それは、 心臓
銅でできた小さな心臓だけが
火の中でも形を失わず残っていたのです
「……残ったんだ」
作業をしていた男の人がそっとそれを拾い上げました
猫の心臓と一緒に抱えられた
動かない小さな影、
緑のつばめでした。
寒さに負け力尽きてしまったのでしょう
女の人は胸を痛めました
「この子も……ひとりだったんだね」
二人は銅の心臓とつばめを一緒に布で包み
庭のやわらかい土を掘り花の下に埋めました
「二人一緒なら…寂しくないよね」
土をかぶせ手を合わせます
その日、風はとても静かでした。
やがて春が来ました。
女の人が庭で小さな声を聞きます
かすれた鳴き声
震える羽音
そこにいたのは
弱った黄色い子猫と
ぐったりした緑の小鳥
「見て!あそこ…!」
「大変だ!助けなきゃ!」
「もう、大丈夫だよ」
両手でそっと抱き上げると
二つの命はまるで最初から知っていたみたいに
ぴったり寄り添いました。
その姿を見た二人はふっと笑います
「仲良しなんだね」
家へ連れて帰り
あたたかい布とごはんとやさしい場所を用意しました。
暖かい窓辺
春の柔らかな光
やさしい風に揺れる花
黄色い猫は丸くなり
緑の鳥はそのしっぽに寄り添います
理由なんてありません
それでも
なぜか離れたくない
なぜか守りたい
なぜか、そばにいると安心する。
それはきっと
土の中で並んで眠った日から、
もう一度同じ”命”として出会う約束をしていたから。
幸福の猫は、もう像ではありません。
トクン…
トクン…
心地好い温もりと穏やかな鼓動が聞こえます
大好きな相手のすぐ隣で。
そして春の日差しの中
二つの小さな命は
静かに
幸せに
眠りました。
コメント
10件
若い男女ってもしかしてnaya?!
幸せな王子っていう お話であってますか?
※長文、自己解釈 『幸福のねこ』で探したけど見当たらず。nさんオリジナルの童話と解釈して感想を…。 猫の銅像さんは、不幸な人々や困ってるツバメさんのために捧身した。読者から見れば崇高で至純な自己犠牲だけど、ツバメさんは何を思って猫の像から宝石や金を取っていったんだろう。