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次の日の朝。
教室のドアが開く。
「おはよ〜」
すちがいつもの調子で入ってくる。
その瞬間。
「すっちー!おはよ!」
みことが真っ先に声をかけた。
すちは少し驚く。
「お、おはよ」
いつもならこさめが先に声を
かけることが多い。
でも今日は、みことがすぐに来た。
「昨日さ、野球部どうだった?」
「普通だったけど」
「え〜絶対嘘じゃん。
絶対しんどかったでしょ」
そう言って、みことはすちの机に肘をつく。
距離、かなり近い。
こさめは少し離れた席で、
その様子を見ていた。
(……あれ)
(すっちーのとこ、もうみことくんいる)
鞄を置きながら、少しだけ様子を見る。
話が終わったら行こうかな、って思って。
でも。
「そういえばさ、今日昼一緒に食べよ」
みことが言う。
「え?あー……」
「いいじゃんいいじゃん」
すちの腕を軽く引っ張る。
「俺さ、昨日一人で食べてたんだよね」
「……あ、そうなの?」
「うん。だから今日一緒に食べよ」
すちは少し困った顔をするけど、
「……まぁ、いいけど」
って答える。
こさめは、その会話を聞いてしまう。
胸の奥が、ちくっとする。
(……そっか)
勇気を出して歩こうとした足が、
少し止まる。
その時。
みことの目が、こさめと一瞬合った。
ほんの一瞬。
みことはすぐ視線を逸らす。
(……ごめん)
心の中で小さく思う。
分かってる。
こさめが、すちと話したいの。
昨日、帰り道で一緒にいたことも知ってる。
それでも。
(……ちょっとくらい)
(俺だって、いいよね)
そう思ってしまう。
「すっちー、あとさ」
みことはまた話を続ける。
こさめが近づく隙を、作らないように。
笑いながら話してるけど、
胸の奥には少し罪悪感がある。
でも。
やめられない。
こさめは、その様子を見ながら、
(……なんでだろ)
胸の奥が、少し苦しくなる。
昨日までは、普通だったのに。
今日は――
すちが、少し遠く感じた。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
昼休み前。
教室の中は賑やかだった。
「それでさ〜!」
みことが笑いながらすちに話しかけている。
すちは相槌を打ちながら聞いている。
こさめは、自分の席でその様子を見ていた。
(……今日、全然話せてない)
朝からずっと。
声をかけようとしても、
みことがずっと隣にいる。
悪気があるわけじゃないのは分かる。
でも。
(……なんか)
胸の奥が、少し痛い。
こさめは立ち上がった。
「……ちょっとトイレ行ってくるね」
らん達にそう言って、教室を出る。
廊下は静かだった。
(はぁ……)
小さく息を吐く。
(なんでこんな気持ちになるんだろ)
曲がり角を曲がった、その瞬間。
ドンッ
「っ!」
誰かにぶつかった。
こさめはよろけて、
危うく転びそうになる。
「ご、ごめんなさい!」
慌てて顔を上げる。
そこにいたのは――
背の高い男。
制服は着ているけど、
シャツのボタンは開いていて、
ネクタイも緩い。
髪も少し長めで、
どう見ても真面目な先輩じゃない。
ヤンキーっぽい雰囲気。
「……」
先輩は無言でこさめを見下ろす。
視線が、少し鋭い。
こさめの背中に冷たい汗が流れる。
「す、すみません……」
もう一度頭を下げる。
すると、
「……おい」
低い声。
こさめの肩がびくっと揺れる。
「前見て歩けよ」
少しだけ睨むような目。
「ぶつかってきたのそっちだろ」
「す、すみません……!」
慌てて謝る。
先輩は面倒くさそうに舌打ちする。
「はぁ……」
そして、じっとこさめを見る。
「一年?」
「は、はい……」
「ふーん」
視線が、じっと顔に向く。
少しだけ距離を詰められる。
こさめは思わず一歩下がる。
「……」
先輩はそれを見て、少し笑った。
「ビビりすぎだろ」
「……」
「俺そんな怖い?」
こさめは答えられない。
怖い。
でもそれを言ったら怒られそうで。
「……別に取って食ったりしねぇよ」
そう言って、壁に寄りかかる。
そして、ふと聞く。
「なんでそんな顔してんの」
「え?」
「さっきから」
こさめは一瞬固まる。
「なんか落ち込んでんだろ」
図星だった。
こさめは慌てて笑顔を作る。
「そ、そんなことないです!」
「……」
先輩は少し目を細める。
「嘘下手だな」
そう言った瞬間。
廊下の奥から声がした。
「……こさめちゃん?」
すちの声だった。
こさめが振り向く。
すちが廊下の向こうから歩いてくる。
「やっぱトイレ行ってたんだ」
そして、ヤンキー先輩の存在に気づく。
一瞬だけ空気が変わる。
すちは、こさめの前にほんの少し立つ。
「……すみません」
先輩に向かって言う。
「こいつ、なんかしました?」
ヤンキー先輩はすちを見て、
「……」
少しだけニヤッと笑う。
「別に」
そして肩をすくめる。
「ただぶつかってきただけ」
すちはこさめを見る。
「大丈夫?」
こさめは小さく頷く。
「……うん」
それを見て、先輩は面白そうに言う。
「へぇ」
「彼氏?」
こさめの顔が一気に赤くなる。
「ち、違います!」
すちは少しだけ眉をひそめる。
先輩は笑って、
「まぁいいや」
壁から離れる。
「次は気をつけろよ、一年」
そう言って去っていった。
廊下に静けさが戻る。
こさめは少し息を吐く。
「……びっくりした」
すちは少しこさめの顔を見る。
「……大丈夫?」
「うん、ありがと」
そして、少しだけ笑う。
「また助けてもらっちゃったね、」
その言葉に、
すちは少し照れたように視線を逸らした。
こさめはそれに気づいて、
少しだけ嬉しそうに目を細める。
その時。
廊下の少し離れた角。
――みことが、立っていた。
「……」
さっきから、見ていた。
すちがこさめの前に立った瞬間も。
「大丈夫?」って声をかけた瞬間も。
こさめが安心した顔をしたのも。
全部。
胸の奥が、ぎゅっと締まる。
(……また)
無意識に、手が強く握られる。
(……俺も、ああいう風に)
でも足が動かない。
ただ、見てるだけ。
二人が並んで歩き出すのを、
その場で見送ることしかできなかった。
「……っ」
小さく歯を食いしばる。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐