テラーノベル
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夕方のダンススタジオ。
鏡の前で、一人の青年が何度も同じ振りを繰り返していた。
吉田仁人。
小さい頃から続けてきたダンスは、いつの間にか彼の日常になっていた。
音楽が流れれば自然と身体が動く。
振りを覚えるのも、人より早い。
周りからは、
「仁人ってダンス上手いよね」
そう言われることも多かった。
だけど。
仁人自身は、そんな言葉を素直に喜べずにいた。
「……俺の強みって、なんなんだろ」
鏡に映る自分を見る。
ダンスはできる。
でも、それだけ。
歌が上手いわけでもない。
人を惹きつける何かがあるわけでもない。
もう一度音楽を流そうとした、そのとき。
スマホが震えた。
画面を見る。
知らない番号からではない。
一通のメール。
件名を見た瞬間、仁人の動きが止まった。
――――――――――
『男性アイドルオーディション開催のお知らせ』
――――――――――
「……アイドル?」
仁人はしばらく、その画面を見つめていた。
「うわっ!」
公園から聞こえた声。
勇斗が地面に座り込んでいた。
「……やっぱ無理か」
昔、マットの上ならできた。
バク転。
小さい頃は何度もやっていた。
だからある日、
「マットじゃなくてもできるんじゃないか」
そう思ってしまった。
でも、現実は違った。
それ以来、勇斗の中には恐怖が残った。
身体を動かすこと自体は嫌いじゃない。
むしろ好き。
だけど、あの日からバク転だけは怖かった。
そんな勇斗のスマホにも、一通の通知が届く。
「……ん?」
何気なく開く。
『男性アイドルオーディション』
「俺が……?」
思わず笑ってしまう。
ダンスなんてやったことがない。
歌だって自信がない。
それなのに。
なぜか、その通知を閉じることができなかった。
体育館。
マットの上を軽々と飛び越える。
身体を回して、着地。
体操を習っていた太智にとって、身体を動かすことは得意なことだった。
「すごいじゃん!」
そう言われると、嬉しい。
だけど。
歌になると、少しだけ気持ちが沈む。
音程が取れないわけじゃない。
ただ、自分の声が好きじゃなかった。
「……この声、嫌だな」
誰もいないところで、小さく呟く。
そのときスマホが鳴った。
画面には、
『男性アイドルオーディション』
という文字。
太智は少し迷ってから、その通知を開いた。
「アイドル……」
歌うこと。
踊ること。
人前に立つこと。
自分の声を、たくさんの人に聞かせること。
少し怖い。
でも――
「……やってみようかな」
「なあなあ、これめっちゃおもろない!?」
明るい声が響く。
曽野舜太。
関西らしいテンポで話す彼は、いつも周りを笑わせていた。
……けれど。
新しい場所では、その明るさがなかなか馴染まないこともあった。
「なんか……俺だけ違うんかな」
みんなが笑っているのに、自分だけ少し離れているような感覚。
それでも舜太は笑う。
「まあ、いっか!」
そんな彼のスマホに通知が届く。
開いてみる。
『男性アイドルオーディション』
「……アイドル?」
しばらく画面を見て。
「俺が出たら、どうなるんやろ」
少しだけ笑った。
「……どうしよう」
部屋で一人、柔太郎は悩んでいた。
友達に聞かれれば、
「どっちでもいいよ」
「みんなに合わせる」
それがいつもの答え。
自分から何かを決めるのは苦手だった。
そんな柔太郎のスマホが鳴る。
「ん?」
通知を見る。
『男性アイドルオーディション』
「……オーディション?」
募集要項を読む。
歌。
ダンス。
自己PR。
「……自己PR……」
一番苦手な言葉だった。
「俺、何言えばいいんだろ」
スマホを置こうとする。
でも。
なぜか、指が止まった。
もう一度、画面を見る。
そして小さく呟いた。
「……やってみたい、かも」
そして
同じ頃。
たくさんの人のもとに届いた、同じ一通の通知。
まだ、5人は知らない。
自分たちがこれから出会うことも。
一緒に泣くことも。
何度も壁にぶつかることも。
そして――
たった5人で、大きなステージを目指す
ことになることも。
仁人は、応募フォームを開いた。
勇斗も。
太智も。
舜太も。
柔太郎も。
それぞれの指が、同じボタンを押す。
『応募する』
その瞬間。
5人の人生は、少しずつ同じ方向へ動き始めた。
――ここから始まる。
何も持っていなかった5人が、夢を掴むまでの物語が。
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ささみ
113
#そのじん
笑う門には福来る
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