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西の三人が殉職し、只一人残され、段々壊れていく忍者を東の四人が見守る話です。死ネタ注意です。苦手な方はお戻りください。
死ネタなので一応センシティブ設定入れてます。
ちょっとだけグロ描写あります。
一話の前書きもお読みください。
足元には、土砂と瓦礫の山が広がっている。
前を見やると、さっきまで三人がいたはずの場所が、建物が、見る影もなくなっていた。
「みんな…?」
返事は無い。
あたりをしばらくぼんやりと歩き回っていると、見覚えのあるものが見えた。
おおかみの、剣の、剣先が地面から生えている。
「あ…」
僕は走って剣先の元へ向かう。
「はぁ、はぁっ、お、おおかみっ…!」
剣は土砂の中に埋まっているようだった。
慌てて土砂をかき分けると、柄の部分が見えて、それを掴んでいる手が見えた。
「あぁっ…」
まずい、このままじゃ、おおかみが死んじゃう。
「ま、まって…、おおかみ!すぐ、すぐ助けるから…っ」
柄の部分は瓦礫の下にあって、手が届かない。急いでいた僕は、剣身を握って、掴めるところを引き摺り出そうとした。
握った掌がズキンと痛み、血がぽた、ぽた、と地面に垂れる。
「…っ」
やっとの思いで柄の部分とそれを掴んだ手を掴めるところまで持ってきた。掌から垂れる血の量が酷くて、少しよろめく。
「う…」
服の裾で血を拭い、僕はおおかみの手を掴んだ。白いヒーロースーツが、赤黒く汚れた。
「もう、もう大丈夫やから…!」
ずるりとそれを引き摺り出す。
なんか、やけに、軽いな…。
僕が掴んでいたものは、おおかみの右手だったもの、だった。
腕から先は千切れていて、血がぼたぼたと垂れる。おおかみの身体は、何処にも見当たらなかった。
「あ、あぁ…っ」
伊波も、星導も、遺体は見つかっていない。もちろん、おおかみも。
キッチンで水を飲む。コップに残った水をシンクに流す。
いつの間にか、僕の側に立っていた伊波が、話しかけてくる。
「カゲツ、俺たちが居なくて、辛い?」
「…そんなん、当たり前やん。辛いよ。辛いし、寂しい」
「…そっか」
「僕も、そっち行きたい」
「うーん、多分、小柳達は駄目って言うよ?」
「…」
「そんなに、こっちに来たいの?」
「…うん」
「そうだな…」
「…」
伊波はきょろきょろと周りを見渡して、僕にそっと耳打ちした。
「俺が言ったって、みんなに内緒だからね」
伊波は、キッチンの棚を指差した。
「これ、胸に」
俺がキッチンに入ると、カゲツがシンクの前に立っている。
「カゲツ」
俺が名前を呼ぶと、カゲツはビクッと驚いて、ゆっくりこちらを見た。
「マナ…?」
手には包丁を持っている。
…またこれだ。
「なぁカゲツ、やめよや、もう。何回目や…?それ…」
「う、るさい」
カゲツは包丁を握りしめて、後ずさる。
「前も言うたやんか、誰もそんなん、望んでないって…、な…?それ、降ろせや…」
「い、嫌」
「お前…」
「だって」
「だって何や」
「…伊波が」
一瞬、時が止まったような気がした。
「な、何?」
「伊波が、こうしたら、俺らんとこに来れるよって」
「…っ」
俺の中で、何かがはち切れる音がする。
カゲツに近づき、包丁を持った手を掴む。
「ライがそんなん、言うわけないやろうが」
「痛い、マナ…」
カゲツを掴む手に自然と力が入る。カゲツが少しだけ顔を歪ませて、抵抗した。
「もっぺん言うてみい、お前…」
「な、なんよ…、い、伊波が言ったって、言うとるやろ!」
カゲツはムキになって叫んだ。
「こいつ…っ」
何だか俺は、ライを侮辱されたような気分になって、俺はカゲツの頬を殴った。
ライは絶対、そんなことは言わない。
カゲツが見ているのはライの幻想で、タチの悪い悪夢だ。
思っていたより力が入って、カゲツの口の端から血が垂れる。
カゲツは口の中を切ったらしく、口を押さえながら俺をぎろっと睨んで、シンクに血の混ざった唾を吐いた。生意気な、肝のすわった眼をしている。
「なんや、お前、その顔…っ」
「…手ぇ出してきたんは、お前やろ」
「謝れや、ライに」
「謝らん、僕、嘘ついとらんから」
カゲツが包丁を握っていた手を緩めた。手から包丁が滑り落ち、音を立てて床に落ちる。代わりにカゲツは、拳をぐっと握った。
「…やるんか」
「自分から殴っといて何、その態度」
「その減らず口、殴っても治らんみたいやな…っ」
「おお、…もっかい殴ってみろよ、なぁ!伊波のこと、分かったような口きいとんちゃうぞ!!」
「…お前なぁっ!!」
「ちょ、や、やめて二人とも!」
ドアがバタンと開いて、叫び声を聞きつけたテツがキッチンに入ってくる。
「うるさいテツ!コイツ、もっぺん殴ったらな気い済まんねん!」
「マナくん!」
テツが俺を後ろから抱き抱えて、腕が動かないように羽交い締めにした。
「僕殴って、伊波が…、伊波が帰って来るんかよ!ちゃうやろ!」
カゲツが叫ぶと同時に、俺の腕とカゲツの腕ががっしりと掴まれた。
「カゲツもマナも、もうやめなよ」
ウェンが俺達の腕を捻って、上に持ち上げる。
「い、痛い、赤城っ」
「どっちが始めたの」
ウェンがじろりと俺たちを見る。
「マナ、マナが殴ってきたん、僕が嘘ついとるって!」
「ああそうや!」
「マナ、殴ることないでしょ」
「うるさい…っ!こいつ、いつまでも、悪い夢見とんねん!ライは、カゲツに死ねなんて言うわけない…!それに気付かんと、自分だけが辛いって顔、しよってからに…っ!」
「マナくんっ!言い過ぎだよ…!」
カゲツは下唇を噛んで、俺をじっと睨んだ。
「マナには分からん、僕のことなんか…」
カゲツの口から溢れ出る言葉は、ただの正論で、でも今の俺達には酷過ぎた。
「ええよな、お前らは」
「何やと…」
「お前らも、失ってみたらいい、そしたら分かる」
「…っ」
「ずるいわ…ほんま…っ」
少し沈黙が流れて、しばらくしてウェンがそれを破った。
「ほんと、くだらない」
「ウェンくんっ」
「カゲツ、ちょっとこっちおいで。頬っぺたと口、手当てしてあげるから」
「…」
「マナも、頭冷やして」
ウェンはカゲツの手を引いて、部屋を出ていった。
テツが心配そうに俺の顔を覗き込む。
「…マナくん、ライくんのこと大切なのは、マナくんだけじゃないよ。カゲツくんも、きっと分かってるんだよ、ライくんはそんなこと言わないって。ただ、たださ、まだ前を向けないだけなんだよ、ね?どうしても、まだ西のみんなに縋ってたいんだよ。だから、分かってあげてよ、許してあげてよ…」
ずっと我慢していた涙が溢れる。
こんなの、ただの八つ当たりやんか。
なぁライ、俺はどうしたらいい。
カゲツのこと支えたいのに、いっつも、こんなんなってばっかりや。
きっと次で終わります。
メンタルはボロボロなのに、フィジカルは強い忍者です🥷