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昔は仲が良かった。
何かあるとすぐ会っていたし、怖い時は手を繋いでもらっていた。
でも、それはある出来事を境に消え去ってしまった。
あれは、他でもない私のせいだった、なんてことは分かっている。
精神的に追い込まれていた黎に釘を刺す、そんな言動。
未羽「……黎、私…引っ越すんだよね」
黎「…ッは………………?」
“絶望”……………黎の顔にはそれしか無かった。
今思えば、仲良くなるべきじゃなかったのかもしれない。
こんなにも黎が依存体質だとは知らなかった。
けど………、黎のことを知れば知るほど、もっと仲良くなりたい、なんて、その時は思っていた。
未羽「ごめん、急に決まったことなんだ」
黎「どこに引っ越す?」
あの時の黎の顔と言えば、親に捨てられた…なんてものではない。
まるで、何もかもに見放され、生きる意味を失い、そのまま消えていくかのような、そんな顔。
未羽「遠いとこ。日本だけどね」
黎「片道何分だ」
未羽「車なら5時間はかかるかな」
黎「…ッ…………、」
ごめん。ごめんね、黎。
私だって引っ越したくないんだぁ……。
けど、親の仕事関連だから、変えられないことなの。ごめん、本当にごめん────
この言葉を伝えていたら、……”今”は変わっていたのだろうか。
もう、黎…………いや、君は……、変わってしまったんだね。
もう届かない場所にいる。
手を繋いだあの日の思い出は、本当の”思い出”で終わりを告げるんだ。
ある日テレビをつけると、見慣れた人の顔があった。
キャスター『紅薔薇さん、改めて”ノーベル賞”受賞、おめでとうございます』
紅薔薇父『………、ありがとうございます』
キャスター『今回は、確か息子さんの黎さんの研究が受賞されたんですよね?』
紅薔薇父『…ええ。うちの黎は優秀ですから。』
キャスター『学校での成績も良かったようですしね。それではここで、黎さんの今までを振り返ってみましょう』
──────ブツッ
何故か反射的にテレビを消してしまった。
彪雅「………姉さん?どうかしたのか、?」
未羽「あー………ううん、何でもない。それより今日、お母さん夜遅いらしいから、私ご飯作るけど良い?」
詩朱「お姉ちゃんがご飯作んの?」
未羽「悪いー??」
詩朱「……いや、咲に作らせなきゃ誰でもいーけど」
未羽「それはそう。咲兄の料理は壊滅的」
咲「それは心外だなー?未羽、俺も料理する。詩朱も未羽もギャフンと言わせてやるよ」
彪雅「…………兄さん、皿だけは割らないでくれ」
咲「まかせろ」
──この幸せがずっと続けばいいのに。
私は、不意にもそう思ってしまった。
それが良いことなのか悪いことなのか。それは未だに分からない。
それから3年後。その日は、雪がたくさん降る、寒い日だった。
私は、帰路についていた。寒さで顔を真っ赤にしながら、少しスキップしながら帰った。
──────その時。
?「クソ久しぶりだなァ、未羽」
聞き慣れた、けど久しぶりの声がした。
振り返ると、そこには──黎の姿があった。
未羽「…………………ッ、」
なんとなく、気まずい。あんな別れ方をしてしまっていたから。
………もしかしたら、気まずいなんて、私だけが思っていたのかもしれないけれど。
仲良くしていた割には、呆気なくその関係が崩れ落ちた。
黎「………………クソ探した」
未羽「…………、ごめん。……、ごめん」
私の口からは、謝罪しか出てこなかった。
黎「クソ許さない」
黎は私を思いっ切り抱きしめて、そう言う。
今思うと、あの頃は大して変わらなかった背も、10cm以上の差があったり、新しい口調があったり……変わってばかりだ。
私はなんにも、変わってないのに。
少し寂しくなった。埋まらないこの寂しさ。誰にも理解出来ない寂しさ。
なんでだろう?寂しくないよ、
なのになんで、
未羽「う、ッ…………うぅ、(泣)」
泣いちゃうんだろう?
黎「正直なとこ、クソ変わってないな」
未羽「黎ッ………こそ、ッ……(笑)」
あの日の再会は、後悔するべきだった。
会わない方が良かった。だって────
黎「ッ…………お願いだ、お願いだからッ、」
こんなに苦しんでいる黎は見たくないでしょう?
雷が鳴った。
私は雷が少し苦手だ。音が心臓に響いて、気持ち悪くなって少し立ちくらんでしまう。
あの頃は、雷の音から逃げるように、家の隅で丸くなる私を、元気づけてくれたのが黎だった。
あの暖かい手は、忘れられない。
ピンポーン、と音が鳴る。来客だ。
今は夜の9時。誰だろう?
ガチャ、とドアを開けると、雨に濡れている黎が、玄関をズンズンと進み、私の腕を掴んだ。
黎「またッ、お前は…………ッッ、俺、を、、、置いていくのか……………?」
恐る恐る顔を上げ、私の目をしっかりと捉える。
雨で濡れているからなのかは分からないが、その目には水が溜まっていた。
私は、黎の言っていることの理解が出来なかった。
置いていく? “また”?
未羽「なんで、置いていかないよ」
黎「ぅ”……………ッ、、」
その言葉に安心したのか、黎はその場にしゃがみ込んでしまう。
心に一つ、黒い何かが生まれる。
ある日、風が強い日があった。
窓に吹き付ける風の音がうるさい。
風の音に混じり、チャイムが鳴る。
未羽「はー……………い、」
そこには、2ヶ月ぶりの黎の絶望顔が。
黎「……………お願いだッ、お願いだから、ッッ、見捨てないで、ッ、、!!!」
2ヶ月前よりも必死な感じがする。
私は勢いに任せて、黎を抱きしめた。
未羽「大丈夫だよ。私はずっと黎の味方だよ、」
また、心に黒い何かが生まれる。
それから、ずっと、ずーっと。
今ですら、不定期で、黎は不安になる。
私が何処かに行ってしまうのではないか、捨てられるのではないか。
そう考えているのだと思う。
黎の兄、夜弧兄に聞いてみると、黎は私が引っ越してから、情緒が不安定らしい。
急に学校に行かなくなれば、部屋がめちゃくちゃにされていたり。その度すぐに回復して。
私は、不意にも、”おかしい”……なんて、そう思ってしまった。
そこから、不安定じゃない黎への苦手意識が高まった。好きなのに、好きじゃない。
嫌いだけど嫌いじゃない。曖昧。
昔の関係には、もう、戻れないのかな
to be continued