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#アロタク
#さのじん
のんの
244
俺は焦っていた。
舜太から引き剥がした仁人の手を引いて、足早にスタジオへ戻る。
「ちょ、勇斗…っ!は、やと…痛いって…!」
あまりにも強く握りしめていたようで、仁人が痛みの声をあげる。
その声にハッとして、ようやく足を止めて振り向くと、引っ張られる勢いのままに仁人が胸に飛び込んできた。
その柔らかい感触に、不可抗力とは言え思わず抱きしめそうになる。咄嗟に上がった腕をなんとか理性で降ろすと、仁人はぶつかった顔をおずおず上げて、涙目で俺を見上げてきた。ぎゅんっと俺の心臓が高鳴る。
「あ、ご、ごめん…、大丈夫?痕とか…」
「…うん、そこまでは、大丈夫」
パッと離した手を、仁人はさすりながら、心配そうな顔を向けてくる。
「あの…さ、勇斗…何か怒ってる…?」
「い、いや…」
まっすぐに見つめてくる仁人に、向き合えずに俺は咄嗟に目を逸らした。
泳がせた目線の先で、他のメンバー全員がこちらの様子を伺っているのが見えた。
それに気がついて、俺はゆっくり仁人に視線を戻す。
俺は焦っている。
仁人が、最近メンバーそれぞれと深く関わりを持つようになっていることに。
そして、メンバーが各々に、仁人に想いを募らせていることに。
俺はと言えば、仁人との関係を繋ぎ止めておきたくて、最近はファンからも驚かれるくらい仁人を求めてしまっている。まるで仁人は俺のものだと見せつけるかのように、肩を組んだり、手を握ったり、体のどこかに触れたり、、仁人が受け入れてくれるのを良いことにマーキングのようなボディタッチを繰り返していた。
ずっと俺だけを見ていてほしい。
可愛い表情も切ない涙も全部俺だけに見せてほしい。
ずっと触れていたい。
誰にも触らせたくない。
喉の奥がゴキュっと異音を奏でる。
「勇斗?…おーい、はやとー?」
目の前で、ひらひらと手を振る仁人に、下から覗き込んでくる可愛い仁人に、
体の奥から込み上がってくる感情を引きづり出される。
はぁっ、と一息ついて早まる鼓動をなんとか落ち着かせた。
誰かに奪われる前に、この想いを伝えなくては。
それだけの想いで口を開いた。
「仁人、伝えたいことがあるから撮影終わったら楽屋残って」
仁人が目を丸くする。
俺の意図がわかっているのかいないのか、仁人はうっすら頬を染めて頷いた。
撮影中、メンバーからの視線を痛いほど浴びながらも、ようやく迎えたオールアップ。
スタッフさんへの挨拶を済ませ、5人全員で楽屋へ戻った。
「勇斗…あの…」
衣装のままの仁人が俺に声をかける。
もじもじと指を体の前で組みながら、どこか所在なさげな様子に、俺は今すぐにでも告白したい衝動に駆られた。
仁人の一挙手一投足に感情が振り回される。
一歩踏み出しそうになった感情は、しかし、周りのメンバーから伝わってきた緊張感によって踏みとどめられた。
今まで自分自身も抱えてきた気持ちなだけに痛いほどに伝わってきてしまう。
「仁人、ごめん。変に引き伸ばすつもりはないんだけど、この後俺の家に来てもらっていい?二人きりで話したい」
きっと、もう、仁人には予想がついている。
これから伝えられるだろう想いに。
体質的にわかりやすく耳をピンクに染める様子を見て、他の3人はそれぞれに感情を押し込めた。
柔太郎は静かに床に目線を落とす。
太智はふてくされたようにスマホをいじりはじめ。
舜太は泣きそうな顔でじっと俺たちを見つめている。
俺だって、どんな答えをもらうかは分からない。想いを伝えることで失ってしまうものもいっぱいあると思う。
それでも、ただのメンバーとしてい続けられないところまで来てしまっていた。
楽屋を出る時、俺と仁人を、3人は静かに送り出してくれた。
マンションに着く頃にはどっぷりと日が暮れて、入った玄関は真っ暗だった。
一歩遅れて部屋に足を踏み入れる仁人。
人の気配を感じて、廊下の間接照明がゆっくりと暖かなライトで辺りを照らした。
閉じられた空間に仁人と二人きりになったことで、俺はまたもや高鳴り始めた鼓動に体を震わせた。
今まで願った夢は全て叶えてきた。
それは単に運が良かったとかではなく、どこまでも諦めない執念が誰よりも強いからだと思っている。
何としても掴み取ってみせる、という、ただその想いで何事にも向き合ってきた。一度決めたら手に入れるまでどこまでも何をしてでも、必ず、叶えてみせる。
静かな空間に、早まった呼吸が響いた。
「とりあえず、入って…」
「や、やだ…」
「…えっ?」
意気込んで放った言葉に、思ってもみない拒否の言葉が返ってきて、思わず間抜けな声が出てしまった。
「え…なんで?」
「二人きりで話したいことがあるんでしょ?それ聞いたら俺帰るから…ここでいいよ」
靴も脱がずに、そう告げられた。
困惑する俺の顔を見て、仁人はつぶやいた。
「今の勇斗…なんだか、怖い…」
ライオンの前に差し出されたうさぎのように、仁人は体を固まらせていた。
警戒心を露わにして、玄関の扉に一歩後ずさる。
たったそれだけの、小さな動きに。
俺は逃げる獲物に反応する捕食者のように、飛びかかっていた。
仁人の手を掴んで一思いに自分の方に引き寄せた。バランスを崩した体が胸に飛び込んできて、驚いた表情とともに見上げられる。後頭部の柔らかな髪と、しなやかな腰に手を滑らせてぐっと密着させる。
息をつく隙も与えず、その開いた唇に口付けた。
「っ!!!」
見開かれた瞳。強張る体。
構わず、唇に広がる柔らかい感触と、理解が追いつかずに固まってしまった仁人の顔を堪能する。
薄く開いたままのその口の中、奥深くに舌を滑り込ませると、ビクン!と弾かれたように仁人が反応を見せた。
「ふぁ…っ!?」
俺の胸元をきゅっと握り込みながら、眉を寄せて悩ましい表情になった仁人の甘い声が耳をくすぐる。
腰から背中に腕をずらして、小さく震えている体をさらに俺に押し付けた。ほぼ真上を向いた仁人が、その白い喉をのけ反らせた。
「はっ…ぁ、んっ!」
腕に閉じ込めた体が可愛い抵抗を見せる。
ぐっと中から力を入れられるも、それを押さえつけるようにさらなる力で抱き返した。
「ゃっ、離し…て…っ!離してぇっ…!」
気づけば泣きながら抵抗を見せる仁人。
そんな顔も閉じ込めてしまいたくて、唇を離せない。俺の上がった呼吸を聞いて、仁人はいよいよ焦った表情を見せた。
「まって…っ、ふぁ…っ!待って…はやと…っ!」
ようやく、口を離すと名残惜しそうに二人の間に糸が張って顎へと落ちていった。
息も絶え絶えになりながら、顎を拭う仁人は、とてつもない色気を放っていて。我慢ならずにもう一度顔を近づけると、今度は全力で顔を横に向けて拒絶された。
「やだ…っ!」
「仁人…?」
「お、俺は…っ」
真っ赤な顔で、しかし困ったような悲しそうな泣き顔で仁人が言う。
「ゲームみたいに…、誰かと競うものでもないしっ、手に入れることが目的な、モノ、じゃないよ…」
「…え?」
「勇斗は、なんだって1番で、今までもそうやって色んなものを掴み取ってきたんだろうけど…っ!」
手で涙を拭う仁人を見て、俺はここ最近の自分を振り返った。
あぁ、俺の焦りが、仁人にそう思わせていたのか。
不安にさせていたのか。
「仁人…、聞いて」
俺の声が響く。
ほろほろと泣く顔が俺を向く。
違うよ仁人。
誰かに触発されたからじゃない。周りが欲しがってるから欲しいわけじゃない。
それよりもずっと前からお前が欲しかったんだよ。
ずっと伝えたかった言葉。
ずっと、胸に秘めていた想い。
見て見ぬふりをして、気づかないふりをして、それでも溢れ出す気持ちは、ふざけながらでしか表現できなかった。
ファンのためと言いながら、自分の中で押さえ切れない衝動に突き動かされて何度も仁人に手を伸ばして。
それを今、言葉にして仁人に伝える。
「俺、仁人が好き。最初に会った時からずっと片想いしてる。仁人とずっと一緒にいたい。ずっと隣で笑っててほしいし笑わせてあげたい。俺が仁人を幸せにしたい。仁人の全てを俺で包んで安心させたい。…仁人が他の誰かと付き合ったりしたら、嫉妬で相手を抹殺しかねないし、俺だけの仁人になってほしい」
物騒な、独占欲剥き出しの告白。
気づけば俺の頬に一筋涙が溢れていた。
「ほ、ほんとに…?今日の舜太との、、見て、興味湧いた、とかじゃない…?」
白い手が俺の頬をなぞった。指先が雫を掬っていく。俺は堪らずその手に自分の手を重ねた。
「そんなわけ、ねぇだろ…こんなにずっと想ってんのに…っ」
「…っ、はやと…」
「お前が、いつか、俺じゃない誰かと付き合ったらって、想像したりして、どんだけ俺が苦しんできたと思ってんの…っ」
仁人は、口をへの字にして、自分も溢れ出る涙を堪え切れずにこぼした。
言葉はなく、代わりにぎこちないながらも体を寄せて俺の胸に頭をトンと預けた。
堪らず俺はその体に腕を回した。
「はやと…、片想いなんかじゃ、ないよ…」
「…え?」
「俺も…勇斗がメンバーになった時から、ずっと好きだったから‥」
「うそ…」
くぐもった声が俺に届いた。
表情が見たくて、二人の間に隙間を作ると、仁人が顔を上げる。
ふっと、穏やかな笑顔。
眉は垂れて、目はとろんと細く、弓形に笑った口。
俺の1番好きな顔の仁人がそこにいた。
「両想いだったってこと…?」
コクリと頷く。
「でも、勇斗は人気者だし、俺のことなんて絶対恋愛対象としてみてないだろうなって思ってたから…もう、自分を好きって言ってくれる人が現れたら、その人のことを好きになって、勇斗は諦めようって思ってた…」
「え、そんな…誰でも良かったってこと…!?」
「そう、、先着順…笑」
「おま…っ、とんでもねぇな!恋愛なんだと思ってんだ!!」
中の仁人の体を両脇から挟み込んで、じゃれあって、見つめ合って…
今度こそ優しく唇を重ねた。
目を閉じて、素直に受け入れる仁人。
マシュマロのような感触につい溺れる。
すこしだけ長いキス。
「…靴、脱いでくれる気になった?」
「う、うん…」
恥じらうその顔も、熱を籠らせて濡れた瞳も、ぜんぶぜんぶ俺だけの仁人。
お互い靴を脱いで、もつれ合うようにリビングへと続く廊下を進みながら、俺は今日行動を起こした自分自身に賞賛を送った。
終
一旦完ですが、もしかしたら続き書くかもしれません。
コメント
4件
早い者勝ちって、そういうことだったのかー!!!と、タイトルの伏線回収の綺麗さに心が震えました🤭 桃さんの行動が遅かったら、誰かと付き合ってたかもなんですねぇ…。 そう思うと、なかなかにギリギリの戦い😇 素敵な物語をありがとうございました! 続きもお待ちしています✨
続きを待ってました!泣 あれで付き合ってなかったんだ、という驚きから、可愛すぎるysdさんのぺしょぺしょ顔に萌え、snさんが競争心を駆り立てられてるだけだと思ってる描写に、なるほど〜と思わされました🙂↕️まさかのタイトル回収でとんでもない罪深い男…と震えてます😨ほんとうによかったです笑ysdさんがとにかく可愛くて、このお話大好きです!ありがとうございました😭
最高でした…!! みんなかわいいうえに解釈一致すぎて大好きです!!3周読み返してます!!