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アラン邸で昼食をとった俺たちは、アストレアさんに別れの挨拶を済ませ馬車に乗り込んだ。
向かう先は同じ貴族街の中である。馬車に揺られること15分、自宅であるツーハイム邸に到着した。
玄関先で出迎えた執事が外側から馬車のドアを開けてくれる。
「お帰りなさいませ。ゲン様」
「うん、ごくろう」
馬車を降りた俺はメアリーを腕抱きにするとシロを連れて玄関ドアへと向かう。
「ワン!」
シロが一吠えすると玄関の扉が左右へ開かれていく。
家人達がキレイに整列しているのが見える。
俺がシロと共に敷居を跨ぐと、
「「「「お帰りなさいませ。ご主人さま!」」」」
皆が一斉に迎えてくれた。
(おお~、いいねぇ~)
こういうのやってみたかったんだよ。
つい、もう一回! と言いたくなるなぁ。言わないけど。
家人が立ち並んでいる中を進んでいくと最奥に家宰のシオンがいた。
「お帰りなさいませ。ゲン様」
深々と頭を下げ、うやうやしく迎えてくれる。
「おう、ごくろうさん。ようやく完成したな。屋敷の案内は後ほど頼むよ。まずは執務室に案内してくれ」
「はい、かしこまりました。こちらです、どうぞ」
流れるような所作はさすが執事をやっていただけの事はある。実に気持ちがいい。
ツーハイム邸は地上2階、地下1階の建物で、
1階には食堂・厨房・リビング・応接室・従業員控室・多目的ホール・トイレ3ヶ所などがある。
玄関入ってすぐに吹き抜けの大広間があるのだが、
その奥に見える階段を上がると2階である。
2階の通路は左右に分かれており、執務室・書斎・主寝室・寝室4・客室3・浴室・トイレなどがある。
温度変化の少ない地下は貯蔵庫として使われていて、日持ちのするような食品や小麦粉、ワインなどがストックされている。
なお、従業員たちの宿舎は別棟となっている。
執務室に入った俺は、ソファーに腰掛けゆるりと紅茶を飲んでいた。
メアリーは隣りでシロをモフっている。
向いのソファーには腕に書類を抱えたシオンが座っている。
「さてシオン、差し当たってやらなければならない事はあるか?」
「はい。まず所在地、屋敷の規模、家人の数などをまとめた書類を王国に提出する必要があります」
「うむ、他には?」
「はい。叙爵と屋敷の披露パーティーを催す必要があります。これはご近所や縁故の貴族を招いて催すもので、規模はさほど大きくなくて良いと考えます。許可をいただければ直ちに準備に入りたいと思います」
「そうか、書類の提出は任せる。パーティーの準備の方も頼むぞ。必要になる物品や贈答品に関しては後日協議するとしよう」
「はっ! かしこまりました。初めてのパーティーです。抜かりがないよう努めてまいります」
シオンは立ち上がり礼をすると執務室を出ていった。
その立ち去る間際、
「これを」と、ワッペンと小さな革袋を受けとった。
ワッペンにはツーハイム家の紋章が刺繍されている。
身分を示す際に見せるヤツだな。
と、もう一つは……。
革袋を開けるとハンコが出てきた。
ハンコには狼の横顔が彫られている。デフォルメされててなかなか可愛い。
これは所謂シーリングワックス・スタンプだな。
手紙の封かんに使用する封蝋に押すヤツね。
ワッペンはデレク (ダンジョン) に複製してもらって、ナツや子供たちに渡しておこう。
そうだ!
ミスリル合金で紋章入りのドッグタグを作ってシロに付けてあげよう。
そのあと主寝室に移った俺はリビングスペースの片隅に転移陣を設置した。
繋いだ先はナツのログハウスである。
いや、だってさ、事をいたす度にデレクにお願いするのも…………ねっ。
転移陣を動かしているのもデレクなので結局同じことなのだが。
『真実はいつも一つ!』 (照れ隠しです)
それからはシロとメアリーを連れ屋敷の中を探索した。
夕食をすませ、お風呂に入った後はリビングにてマタ~リと過ごす。
そして寝室に入るのだが。
うん、やっぱりメアリーはこっちに来ちゃうんだよな。
部屋はメアリーにも一部屋割り振られているのだが。
慣れない内は仕方ないのだろうか。一緒に魔力操作の訓練を行ないそのまま寝た。
………………
ぺしぺし! ぺしぺし!
う、う~ん、もう朝かぁ?
『おきる、うれしい、さんぽ、おにく、いく、はやく』
横でスヤスヤ眠っているメアリーを起こして着替えさせる。
着替えさせているのは邸のメイドである。
(呼び鈴を鳴らしたらすぐに来たなぁ)
当直とかで待機していたのだろうか?
素晴らしい事だが、何もそこまでしなくても……。
家人の扱いは家宰であるシオンに任せているが、夜は必要ないと言っておこう。
さてシロの散歩だが、
ここは貴族街である為、表を気軽に散歩することはできない。
いや、正確にはできるのだが……、あっちこっちで衛兵に止められてしまうのだ。
とても散歩どころではない。
まあ、治安を守るために巡回を行っているのだから文句も言えないわけで……。
そこでアラン邸に居たとき同様、散歩はデレクの町で行うようにした。
ナツの家 (ログハウス) に転移したのち子熊姉弟を交えて朝のデレクの町を闊歩する。
ナツの顔も見れるし、発展する町の様子もうかがえるので、たいへん都合がいい。
(しかし出くわす冒険者の数が日に日に増えていくなぁ)
ダンジョンへと向かう一本道には露店がちらほら出始めていた。
そうだ! 道の両脇に長屋を建てて浅草・仲見世通りのようにするのもいいかもしれない。
ああ、そういえば孤児院の子供たち用に屋台を作ってやるんだったな。
約束してる訳ではないけど。
いっそのこと、モンソロの孤児院の子供たちをこちらで受け入れるか?
そうする事でスラムに居る ”ストリートチルドレン” たちが孤児院に入れるようになるんじゃないか?
そういった子供たちはいずれまた増えていくのだろうが、それはその時に考えればいいだろう。
町中で屋台を引かせるのもいいが、ダンジョンで鍛えて畑仕事を手伝ってもらうってのも有りかな。
うん、ひとまず相談だな。
勝手にやると、いろいろと横槍が入って大変だからね。
報連相 (ほうれんそう) は大事だよな。
散歩を終えた俺たちは王都の屋敷へ戻ってきた。
今は庭の一角で剣の素振りをしたり組み打ちをおこなっている。
組み打ちと言っているが俺が子供の頃に習っていた柔道が中心となる。
畳がないので、芝生の上に筵 (むしろ) を広げ、その上で受け身の練習や乱取りをおこなっていた。
すると、その様子を伺っている者たちがいた。
訓練が一段落したので、そちらに目を向けると皆が一斉に頭を下げてくる。
どうやら邸 (うち) の家人や下男が遠巻きに集まって見ていたようだ。
まあ、珍しかったのかな。
………………
朝食の後、カイル (ダンジョン) から連絡があったので俺は執務室へと入った。
例のミスリルに動きがあったようである。
それでミスリルが運ばれた場所を特定したいのだが、これがなかなか要領を得ない。
ダンジョンなので仕方がないことだが、通っている道の幅や建物の大きさなどがイメージで分かる程度である。
そこで王都に詳しいシオンを呼んだ。
地図を広げ、双方から意見を聞きながら場所の特定をしていく。
その結果、貴族街のとある屋敷であることが判明した。
「この場所は確か……。ゲン様、しばらくお待ちいただけますか? 昼過ぎには戻ってまいります」
そう言ってシオンは執務室を出ていった。
ミヤーテ・ベス子爵。
それがミスリルが留まっている屋敷の所有者である。
さらに驚くことに、このミヤーテ・ベスなる人物は迷宮都市カイルを任されている代官であるというのだ。
(…………)
しかしなぁ、これだけ大量のミスリルが動けば足がつくのも早いだろう。
普通は出どころが判らないように間にダミーを入れたりするものなんだが……。
すでに使える下っ端が離れていったのか?
はたまた、なりふり構っていられなくなったのか?
どちらにしろ追い込まれているようだな。
そして、アランさんが行ってきたこれまで調査により、
ダンジョン内の鉱山占拠をやっていたのは大手クランの一つ ”宵闇の赤月” だということが判明している。
この ”宵闇の赤月” なのだが、
メンバー数は130名にのぼり、迷宮都市では知らぬ者がいないという程のクランなのである。
当然ながら冒険者ギルドも一枚噛んでいるそうだ。
以前アランさんから伺った話によると、
ここのギルドマスターであるバロンは冒険者時代に数々の功績を残した有名人らしいのだが……。
腕っぷしは強いが実務の方はまったくダメな、いわゆる ”脳筋おバカ” であるということだ。
普通に考えれば即交代も有り得そうなのだが、すでに10年以上も続いているのだという。
すると余程優秀な部下がついているのだろうが……、
それがどうにも怪しいそうなのだ。
ギルマスであるバロンを上手く担ぎ上げ、陰に隠れてあま~い汁を吸っているヤツがいるのだ。
それが副ギルド長をやっているヤゴチェである。
ヤゴチェはもともとが貿易に携わる商人だった人物で、ベス子爵家とも交流が深かったという。
その他にも数人のギルド職員がヤゴチェの下で暗躍しているようなのだ。
そんな訳でギルド内でごまかされた迷宮産の品々が、まんまと横流しされていたのである。
その流通経路に関しても長い年月を経て確立されていったのだろう。
お隣のナルーツ領からの貿易路線に乗せて、西の大国であるエスプリ帝国へと流れていたのである。
なるほど国外にね……。
これが王国内だと『こんな物どこで手に入れた?』てな事になりかねないし、ルートの方もいくつも領を跨ぐ必要があるからバレやすくなるよね。
それなら、いっそ他国へ流してしまえとなったのだろう。
それにナルーツ領でも文官が一枚噛んでいるようなのだ。
その名をルデン・カブチーイといい、他国貿易に関わる法衣子爵であるという。
さらに調べたところ、
このルデン・カブチーイと迷宮都市カイルの代官であるミヤーテ・ベスは王都の貴族学校の同期で旧知の間柄であるというのだ。
は――――い! 芋芋蔓蔓なんですねぇ。
しかしアランさんも良くぞここまで調べ上げたものだな。
この3年という月日も無駄にせずコツコツと積み上げてきたのだろう。
誰一人として逃がさない為に。
しかしまぁ……、ここの連中ときたら、
虚偽の報告をあげ、国内の流通を止めてまで大切な物資を他国へ流して私腹を肥やすとは……。
ほとほと見下げ果てた奴らだ。
それで見つかりそうになるや全ての口を封じて処分。
ましてや足止めをする為、関係のないメアリーのお母さんまで虫けらのように殺すとか。
あああぁああぁああ――――――――っ!(怒)
おっと、いけない いけない。
シロやメアリーがビックリしている。抑えて。抑えて。
……とにかく冷静になって様子を見なくてはな。