テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
青年期に入った頃、世間は静かに、しかし確実にクリスマスへ向かっていた。
街路樹には電飾が巻かれ、校内でも浮ついた空気が流れ始める。そんな中、スタンリーは相変わらずだった。
「今度のクリスマス、空いてる?」
そんな言葉を向けられることは珍しくない。優れた容姿と腕前、どこにいても目立つ存在だ。けれどスタンリーの心は、十一歳のあの日、ゼノと出会ってから、ずっと一度も揺らいでいなかった。
だから彼はいつも通り、曖昧な理由をつけて断り、ゼノの実験を手伝ったり、射撃の練習に没頭したりして過ごしていた。
今年も、そうなるはずだった。
だが、その年は違った。
ある日の夕方、ゼノの家の研究室でココアを飲んでいた時だ。
ゼノが、何気ない調子で口を開いた。
「スタン、明日のクリスマスの予定はあるかい?」
その瞬間、スタンリーの手がわずかに震え、マグカップが机に触れて小さな音を立てた。
胸の奥が一気に跳ね上がる。
「……急にどうしたんよ」
平然を装いながらそう返すと、ゼノはくすりと笑って言った。
「今年はあまりやることがなくてね。たまには君と出かけてみようと思ったんだ。
予定があったら、もちろん構わないよ」
「いや、なんもねぇよ」
即答だった。
心の中では盛大にガッツポーズを決めていたが、表情はいつも通りに保つ。
「それはよかった。では後日、25日に駅で待ち合わせにしよう」
そう言ってゼノは研究室を後にした。
スタンリーは家に帰るなりベッドに倒れ込み、天井を見つめる。
さっきまでの会話を何度も思い返し、口元が緩みそうになるのを必死に堪えた。
(やんじゃん……)
胸が、やけにうるさかった。
そして迎えた当日。
スタンリーは待ち合わせよりもかなり早く駅に着いていた。落ち着かず、時計を何度も確認する。
やがて約束の時間になると、人混みの向こうからゼノが現れた。
「お待たせ、スタン」
手を振りながら近づいてくる姿は、いつもの私服のはずなのに、どうしてか目を逸らせなくなる。
心臓がまた跳ねる。
「いや、今来たとこ」
そう言って、二人は並んで街へ繰り出した。
街中にはクリスマスツリーが溢れていた。
中でもひときわ大きなツリーの前で、二人は写真を撮ることにする。
画角に収めるため、自然と距離が近づいた。
頬が触れるほどの距離。ゼノの冷たい肌の感触が、直接スタンリーに伝わる。
(近……っ)
息を止めるようにしてシャッターを切り、どうにか撮影を終える。
その後はカフェに入り、窓際の席で一息ついた。
ゼノは童顔には少し不釣り合いなブラックコーヒーを口にする。
「あまり、いつもと変わらないね」
「……あんたにとってはな」
スタンリーにとっては、どう考えてもデートそのものだった。
胸の高鳴りは一向に収まらない。
(いつだ……いつ言うんだ、俺は)
このクリスマスをきっかけに、想いを伝えられる日は来るのか。
そんなことを考えている間にも、時間はゆっくりと流れていく。
……だが。
ゼノは、気づいていた。
スタンリーが長い間、自分に恋愛感情を抱いていることを。
もちろん、ゼノ自身もスタンリーのことが好きだった。
だが彼は、あえて言葉にしない。追わせる恋を、少しだけ楽しみながら、この時間を噛みしめている。
(さて、君はいつ言ってくれるんだい、スタン)
ブラックコーヒーを一口飲み、ゼノは小さく微笑む。
「実にエレガントじゃないか」
その言葉の意味を、スタンリーだけがまだ知らないまま
二人のクリスマスは、静かに、甘く続いていった。
コメント
2件
ホントニホントニホントニホントニホントニホントニ好きすぎますまじで発想が天才なんですよまず