テラーノベル
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コメント
1件
うわあ、浴衣デートから始まって、花火の下での繋いだ手とか、帰ってからの帯を解くシーンとか……もう全編通して甘やかしと優しさが詰まってて、読んでてこっちが照れました(笑)。特に「昼間練習したからな」って、ああいう準備の良さが彼の人柄を感じさせますよね。最後の「今日一日ずっと幸せだった」っていう素直な一言も、二人の空気にぴったりで、すごく好きなエピソードでした。素敵な作品をありがとうございます!
ゆです
投稿していた別垢が不具合で入れなくなったのでこちらの垢で投稿していきます。
解釈違いお気を付けください
しろせんせー×ニキです
「ボビー俺の次に浴衣似合ってるよ」
待ち合わせの神社の鳥居前、ニキは彼の姿を見てそう声を上げた。紺地に細い縞の入った浴衣姿の彼は、いつもの私服とはまた違う落ち着きがあった。
「最初のは余計やけどな、お前も似合っとるよ」
彼が普段通りの柔らかい声でそう言うと、ニキは照れくささを誤魔化すように、屋台の並ぶ参道のほうへ視線を逃がした。頬のあたりが夕方の暑さのせいだけではなく熱くなっている気がした。
「お、りんご飴だ!ボビー、あれ食べよ」
「はいはい」
ニキが屋台に駆け寄っていくのを、彼は少し遅れてついていく。この温度差もいつも通りだった。
りんご飴を両手に持って戻ってきたニキに、彼は自然に手を差し出した。
「持ったるわ」
「え、自分の分あるじゃん」
「片方持っといたほうが食べやすいやろ」
理屈のような理屈でないようなことを言いながら、彼はニキの荷物を半分持つ。祭りの人混みの中、二人の距離は自然と近くなっていった。
「金魚すくいやろうよ」
「ええけど下手やろ、お前」
「やってみないとわかんないじゃん」
結果として、ニキは三回挑戦してすべて失敗した。ポイの薄い紙が水面に浮いた瞬間に破れる様子を、彼は隣で静かに見ていた。
「……ちょっと待っとけ」
そう言うと、彼は自分の分の金魚すくいを黙々とこなし、二匹すくって見せた。
「はい、お前の分」
「え、自分ですくったのに?」
「お前が欲しそうにしとったから」
さらっと差し出された金魚の袋を受け取りながら、ニキはまた俯き加減になった。こういう不意打ちの優しさにいつも耐性がない。
夜が深まり、屋台の灯りが橙色に滲む頃。二人は人混みを離れて土手の階段に腰を下ろした。川を挟んだ向こう岸から、花火大会の会場が見える位置だった。
「もうすぐ始まるんちゃうか」
彼がそう言った直後、遠くでどん、と低い音が響いた。夜空に小さな光の粒が上がり、一拍置いて大きく開く。赤、それから金色。次々と光が咲いては消えていった。
「うわ、!すご!」
「せやなぁ」
ニキは思わず声を漏らして、身を乗り出すように空を見上げた。冷静のように見える彼もしっかりのはしゃいでいる。花火の光が川面に反射して、二重に輝いて見えた。
「ボビー、見て見て、今のでかかった!」
「見とるよ」
「花火よりこっち見てんじゃん」
「両方見てる」
そう言いながら、彼の視線は結局光の反射でオレンジ色に染まるニキの頬のあたりに戻っていく。
花火が連続で上がるたびに、ニキは子どもみたいに声を上げた。両手を軽く握って、光の一つ一つを目で追いかけている。彼はその隣で、静かにその横顔を眺めていた。
大きな一発が上がって、あたりが一瞬だけ真昼のように明るくなった。その光の中で、ニキがふとこちらを見た。
「ボビー花火好きじゃないっけ?」
「好きな方やで」
「花火見てる?」
「めっちゃ見てる」
嘘ではないが、正直でもない返事だった。ニキはそれ以上追及せず、また空を見上げる。彼はその一瞬の隙に、そっと手を伸ばしてニキの手を取った。
「ボビー?」
「別に、なんもないけど」
なんもないと言いながら、指を絡めてくる。ニキは何も言えないまま、視線を花火のほうへ向けたふりをして、実際には手のあたりばかり意識していた。頬が熱いのは、花火の光のせいだけではなかった。
花火の合間、少し暗くなった時間に、彼がぽつりと言った。
「今日の浴衣、めっちゃ似合っとったで」
「……さっきも言ったじゃん、それ」
「二回言うたらあかんのか」
「あかんくないけど……」
語尾がだんだん小さくなっていく。ちょうどそのとき、また大きな花火が連続で上がり、あたりがぱっと明るくなった。ニキはその光を言い訳にするように、顔を空のほうへ逸らした。頬の赤みが、花火の色に紛れてくれることを願いながら。
彼はそんな様子を横目で見て、少しだけ笑った気配がした。何も言わず、ただ繋いだ手に少し力を込める。
フィナーレの連続打ち上げが始まると、空は一面、光と煙で埋め尽くされた。轟音が絶え間なく響き、地面まで震えるような迫力だった。
ニキは繋いだままの手をぎゅっと握り返しながら、身を乗り出すように空を見上げていた。目の中に、色とりどりの光が映り込んでいる。
彼はその横顔を、最後まで花火よりもじっと見つめていた。光が弾けるたびに、頬の輪郭が赤や青や金色に染まっていく。何度見ても、見飽きることがなかった。
やがて最後の一発が上がり、大きな音とともに光が空いっぱいに広がって、静かに消えていった。あたりが一気に暗くなり、遠くから拍手と歓声が聞こえてくる。
「……終わっちゃった」
ニキが少し名残惜しそうに呟くと、彼は繋いだ手を軽く引いて、自分のほうへ少し引き寄せた。
「また来年も見に来たらええやろ」
「うん……そうだね」
そう言いながら、ニキは彼の肩に少しだけ頭を寄せた。花火が消えたあとの暗さの中で、隣にいる温度だけがはっきりと感じられた。
彼は何も言わず、ただその重みを受け止めるように、繋いだ手にもう一度力を込めた。
祭りが終わりに近づき、参道を戻る途中、ニキがふと足を止めた。
「そうえば写真撮ろうよ、浴衣のうちに」
「ええよ」
スマホを構えて、二人並んで写真を撮る。撮り終えた画面を確認しようとした瞬間、彼がその頬に軽く手を添えて、こちら側を向かせた。
「もう一枚な」
言うが早いか、彼がそのまま軽く頬に口づけた。人通りの少ない路地の角、屋台の灯りが遠くでちらちらしているだけの薄暗がりだった。
ニキは一瞬固まり、それから耳まで真っ赤になって、思わずスマホを両手で顔の前に持ってきた。
「なっ……」
「ちゃんと撮れたわ、ええ写真や」
彼は満足げにそう言って、画面を覗き込む。ニキはスマホの裏に隠れるようにしながら、しばらく顔を上げられなかった。
「もっと普通にやって…」
「不意打ちやないと照れんやろ、お前」
「そういう問題じゃ……」
言葉がまとまらないままニキはスマホの端からちらっと彼を見た。目が合うと、また慌てて視線を逸らしてしまう。
彼はそんな様子をただ嬉しそうに見つめていた。
帰り道、二人は手を繋いだまま静かな夜道を歩いた。遠くの花火大会の音がまだかすかに響いている。
「ボビー」
「なんや」
「楽しかったね」
「せやな。また来年も来よな」
「うん」
短いやり取りだったが、繋いだ手の温度が、それ以上の証拠を必要としなかった。ニキはまだ少し赤い顔のまま彼の肩に少しだけ頭を寄せた。
彼は何も言わず、ただその重みを受け止めるように繋いだ手に力を込めた。
祭りの喧騒が遠くなり二人は家へと向かった。浴衣のまま、まだ少し祭りの空気を纏ったままだった。
「暑かったな、今日」
彼がそう言いながら玄関の鍵を開ける。ニキはサンダルを脱ぎながら、まだ耳の奥に太鼓の音が残っている気がしていた。
「浴衣脱ぐの手伝うか?」
「え、いい自分でできるし」
「帯、一人やと解きにくいやろ」
理屈で返されると強く出られない。ニキは結局、大人しく背中を向けた。
彼の指が帯に触れる。ゆっくりと解いていく手つきは、慣れているわけではないのに、妙に丁寧だった。
「意外とこういうの出来るんだね」
「昼間練習したからな」
「え、そのために練習したの?」
「せんかったら変な結び方するかもしれんやろ」
彼にはきっと用意周到という言葉が似合うだろう。
浴衣を畳み終える頃には部屋の中はすっかり静かになっていた。窓の外からは、まだ遠くの祭りの余韻のような音がかすかに聞こえてくる。
「今日疲れたやろ」
「うん、でも楽しかった」
ラフな部屋着に着替えた二人は並んでソファに座った。ニキはまだどこか高揚した様子で、スマホを開いて撮った写真を見返している。
「これ見て、金魚すくいの写真」
「お前、必死な顔しとるな」
「集中してたからしょうがない」
写真を見せ合いながら、いつもの軽口が続く。だが、その合間に彼がふとニキの頬に手を添えた。
「……なに」
「日に焼けたな、今日」
「え、そんな焼けてる?」
「ちょっとだけな」
そう言いながら、ニキの指先が頬から耳のあたりを軽くなぞる。触れ方はごく軽いのに、ニキはびくっと肩を揺らして、視線を下に落とした。
「……ボビー」
「なんや」
「わかってるでしょ」
「さあ、どうやろな」
とぼけた言い方をしながらも、彼の手は離れなかった。むしろ、そのまま頬から顎のあたりへと、指先が滑るように動いていく。
ニキは俯いたまま、耳まで赤くなっているのを隠すこともできずにいた。
「今日写真撮ったやつ」
彼がぽつりと言った。
「土手のやつ?」
「うん。あれ、待ち受けにしてもええか」
「えぇ恥ずいんだけど」
「ええやん別に」
「よくないって、あの顔真っ赤な写真でしょ、絶対」
「だから、ええんやろ」
意味がわかるようなわからないような理屈だったが、彼は本気で言っているようだった。ニキは反論しようとして結局言葉に詰まり、代わりにクッションを彼の肩に軽く投げつけた。
「もういい……」
「ほな、決まりやな」
満足げにそう言う彼の隣で、ニキはまだ火照った顔を隠すように少しだけソファに沈み込んだ。
夜が更けていく中、二人はいつの間にかソファの上で身を寄せ合うようにして座っていた。テレビもつけず、特に会話もないただ静かな時間だった。
「ボビー」
「なんや」
「今日一日、ずっと幸せだった」
そう言うと、彼は少し驚いたような顔をしてからふっと柔らかく笑った。
「せやったら、良かったわ」
それだけ言って、彼はニキの頭に軽く手を置いた。撫でるというより、ただそこに手を置いておくような、静かな仕草だった。
ニキはその手の温もりに身を任せるように彼の肩にもたれかかった。窓の外では祭りの音もすっかり静かになり、ただ夏の夜の虫の声だけが響いていた。