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「やっぱ暑いね〜、てかぐちさん半袖じゃなくていいの?」
「え?ああ…うん。長袖の気分だったから」
「ふうん…」
朝5時。目的もなく、ただただ電車に揺られていた。そんな時の何気ない会話。
とりあえず遠くに行こう、と終点まで乗ることにした。
別に、逃げたかったわけじゃない。俺はそんなにか弱い男じゃない。ただ、たらこが逃げようって言ったから。だから俺は、それに仕方なくついていってるだけで。
弱くなんかないから。
――――――――――――――――――――――――――――――
「…あれ、ぐちさん。寝ちゃったんだ」
気付いたらぐちさんは俺の肩に頭を寄せて、寝息を立てて眠っていた。本当、無理するんだから。
昔からぐちさんのメンタルが弱いことは知っていた。そのくせぐちさんはお人好しだから、コラボ配信中は人一倍気を遣うしお願いされた事を断ることだって滅多にしない。無茶振りにだってちゃんと対応してくれる、本当にすごい人だよ、ぐちさんは。メンバーにすら、たまに気遣ってるし。まぁみんなそれに気付いてるから、その分皆でぐちさんを甘やかすって決めてるんだけどね。
本当に、バカ。この前の配信だってなんか嫌な予感したんだよ。そしたら案の定あんな状態になっちゃってさ。俺がいなかったらどうするつもりだったの。なんて、言ったってぐちさんはきっと1人でもどうにかしちゃうんだろうな。なんたってあのぐちさんだから。
俺も、少し寝ちゃおう。今日が楽しみで眠れなかったなんて、口が裂けても言えないから。
――――――――――――――――――――――――――――――
「ん…」
「ん〜…あ、ぐちさん起きたぁ?」
「久々にちゃんと寝れたかも、おはよ」
気が付けば眠っていたらしい。たらこも起きたみたいだから、アイツも寝てたのかな。
ふと今はどこかと確認すれば次の駅で終点だった。丁度いいタイミングで起きれて良かった気持ちと、本当に逃げてるんだって、不安がでてきた。それを察してか、たらこが ぐちさん暗い顔してる、と笑いながら頬を引っ張ってきた。 痛えよバカ、と頬を引っ張り返せばお互い笑ってしまって。周りの乗客に少し見られて恥ずかしくなった。そんなことをしてれば最後の駅に着いたらしく、俺らはそう遠くもないけど、近くもない。けど行ったこともない、そんな土地に足を踏み入れた。
そういえば、気になることが1つある。
「そういや、泊まるとこどうすんの?」
「え?そりゃあ野宿でしょ」
「はぁ!?」
アホだ、コイツ。いや、元からアホだった、コイツは。そういや随分でけえバックだなと思ってたけど…まさか、テント入れてたりすんのか。いやいや、にしてもだろ!マジで野宿すんの?これ?ぜってえ嫌なんだが。
「…まあ、とりあえず腹減ったし飯食おうぜ」
「そうだね。…あ!ここ美味しいラーメン屋あるっぽいよ、行こうよぐちさん!」
「朝からラーメンかよ…」
胃もたれするだろうなぁ、なんて考えながらたらこの見つけたラーメン屋さんを目標に歩き始めた。
なんだかんだ、俺はたらこには甘いらしい。まぁ甘くなきゃここまで着いてきてないだろうな。
その後ラーメンを食って、少し休んで、また電車に乗って、気付けば地名すら分からない、都会とは違う緑の多い景色が続いた。最後に降りた駅では風鈴が鳴り、優しい風が吹いた。まるで逃げてきた俺らを、歓迎するみたいに。風が頬を撫でた。ふと、俺の頬に雫が一粒こぼれた。こんな時に雨かよ、なんて空を見上げたけど雲ひとつもない晴天で。なら汗かとも思ったが、風のおかげで涼しくて汗はかいてない。じゃあなんだ、って。視線を彷徨わせてたらこと目が合い、たらこが心配そうに俺を見つめたところで気付いた。
俺が、泣いてるんだって。
「ちょ、ちょっと。ぐちさんどしたの、大丈夫?」
「ぇ、あ…いや、なんか、止まんな、くて」
だって。だってあまりにも、綺麗な景色だったから。空気が澄んでいて、優しい風が吹いていて、雲ひとつない晴天で、緑の多い自然の中で。そして何より、隣に、たらこがいて。
その場で沢山泣いた。今まで溜まっていたものが全部出たように、子供みたいに、沢山。最初心配していたたらこも、蹲りながら泣いている俺の背を撫でながら、頑張ったね、頑張ったね。って優しく声をかけてくれた。
沢山泣いて、落ち着いて。漸く涙も止まって、顔を上げた。そこには緑の多い、自然が拡がっていて。思わず笑ってしまった。気付けばたらこの手を引いて駅を飛び出していた。
いつぶりだろう。こんなにも笑いながら友人と大地を駆け巡り、今生きている事に感謝したのは。今までの事なんか忘れて、残りの人生をここで過ごしたいとすら思った。
たらこと二人で、このまま自然と共に世の中から身を隠してしまおう。知り合いが誰も知らないところで、家を買おう。そこで二人で暮らそう。ここにはUberもないから、ご飯も自分らで作ろう。ピザも焼いてみたいな、パンだって手作りしたらきっと美味いんだろうな。俺らあんま料理しねえから、ちゃんと作れるようになるまで時間かかりそうだなぁ。夜になったら星を見よう、草むらに寝っ転がって笑いながら流れ星を見るんだ。きっと、綺麗だろうなぁ。そのまま夜更かしして、ボドゲでもしよう。2人でできるもんは限られるけど、きっとお前とならなんでも楽しめそうだから。そしたらさ、そしたら。お前とさ…
「ぐちさん」
「ん?」
「もう暗くなってきたから、テント立てて今日はもう寝よっか」
「ああ…うん」
無意識に声に出していたらしい、俺の言葉を止めるようにたらこが声を出した。確かにもう日も暮れてきていて、今すぐにでも暗くなりそうだった。だからさっさとテントを立てようと二人でたらこのバッグからテントを取りだした。
テントを立てるのに、あまり時間はかからなかった。意外と簡単なもので、その分狭いけど寝るだけなら充分だった。その後たらこはすぐ寝たみたいで、寝顔だけは幼く見えた。こいつはなんだか、昔から弟みたいなやつだった。だから俺もつい、面倒を見てしまって色々振り回された。でもそんな記憶すら、良いものだと思ってる。
よくコイツにはお人好しすぎるって言われるけど、コイツが1番お人好しなんじゃないかって思う。今回だって、俺のためを思って逃げようなんて言ったんだろう。俺はコイツとなら大丈夫だって、言い張れるくらいには安心感を抱いてる。やっぱりこのまま逃げて、二人だけで生きていくのも悪くないかもな。
「おやすみ、たらこ」