コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
side黒子③
一安心…と思ったのもつかの間。こんなの全フロアから丸見えじゃないか、とふと気付く。さて悲しいかな、黒子の予想通り下の階にいた人々も赤司に気付いたようだった。「赤司サマ?!」(さっきから気になってたが、その呼び方は一体なんなんですか)という歓声に、黒子はまたゲンナリとする。彼はどうしているのかと後ろをちら、と振り返る。__なんとそこにはひらひらと手を振っている彼がいるではないか。
…そんなの目立つにも程がある。ふざけないでほしい。サービス精神が旺盛なのは別にいいんだが、今はホントにやめてほしい。だがエレベーターの下がる速度をあげることは出来ない。黒子は、僕は存在していません、といったような顔で、目指しているフロアに着くのを待つことしか出来なかった。
「はーーーーー……」
「ほら、あんなに早く歩くから疲れてるんだ。俺は忠告したのに」
眉をひそめて、彼は重厚なコートをハンガーにかけた。「君のせいですよ」という反論すら今は言う気が無かった。精神的にも、身体的にもどっ、と疲れた。
_あの地獄の時間を過ぎ、やっと店に着いたかと思えば、そこにあったのは”満員”という文字。「終わった」と思った矢先、何人もそのような客が来ているのか、断りの言葉を言いに髪を纏めた女性が店から出てきた。
「すいません、お席が空くのはあと1時間後ほどになります…」
申し訳なさそうに黒子を見つめ、そしてその奥にいた人物にも目を向け、テンプレート通りの言葉を紡ぐが…
「あ、赤司様!?」
デジャヴ。店員の女性は忙しなく、顔を青くしたり赤くしたりしながら焦りだす。どうしよう、といったところだろうか。黒子もそんな彼女に同情し、それと同時に赤司を憎みもした。
すいません!お待ちください!と彼女は零し、店の中へ消えていく。扉を閉め忘れたのか中の会話がダダ漏れだった。…まあ、このように。
「あの、その」
「なんだ?今は手が回んないんだ、断ってきてくれ 」
「あ、あ、赤司、様が」
「え?あかし?」
「その、来られてて」
「なんだって?あかし…って、あの赤司か!?!」
「はい、あの…」
そんな会話が聞こえたかと思えば、ドタバタと店内は騒がしくなり黒子は頭を抱えた。騒ぎの種である赤司を見れば、彼はけろりとした顔で口元に手を寄せていた。そんな黒子の視線に気付いたのか、彼は「どうした?」とでも言うかのように微笑み、首を傾げた。あぁ、本当にその顔に弱いな、僕…。ぐう、と声を漏らすことしかできなかった黒子は、元の位置へ視線を戻す。ふと、ガンッ!と激しい音を立てて目の前の扉が開いた。
「…いらっしゃいませ、赤司様!お待ちしてすいません、どうぞ!!」
「…いや、しかし混んでいるんでしょう?私のために無理に空けなくていいですよ」
「いえいえいえ、赤司様を招かずに誰を招きますか…!是非!」
「あぁ、では。お言葉に甘えて」
行こうか、黒子。と変わらぬ声色で彼は微笑みかけ、店主と思われる男性の後を着いて行った。それに、重い足を動かしてやっとのことで黒子は彼らを追いかけたのだ。
_それがさっきまでのこと。
調べた通りの落ち着いた雰囲気のここは、ピザやパスタなどイタリア料理専門店だった。パッド注文、というのも黒子にとってはとてもいい条件だった。適当に、ピザを1枚とよさげなサラダをリストへ加え、赤司へそれを手渡す。悩むかと思っていたが、彼は先程と同じようにパッと選び端末をもとに戻した。
「…で、なんで黒子は保育士を選んだんだい?」
「えっ」
「別に他意はないよ。ただ気になっただけさ、昔そんな素振りはなかったからね」
彼は水を喉へ流してそう言った。多分本当に他意は無いんだろう。彼の瞳から悪意は感じなかった。
「その、実は高校で職業体験をして。それが始まりですね。それまでは子供が好きっていう思いはなかったんですが、その時初めて感じて…って流れです…かね」
「ふうん、いいね。楽しそうだ」
にこ、と笑って彼はそう言った。今同じ場にいるのは知人である僕だけ、だからか、彼の瞳は先程よりも柔らかく溶けて、優しい色になっている……ように感じた。そんな彼の目は久しぶりにみた。思わずじっ、と見つめてしまう。そんな黒子に疑問を抱いたのか、ぱち、とゆっくり瞬きをして赤司はこちらを見つめ返した。
「もし、困ったことがあったらすぐ俺に相談してね。なんでもするから」
「なんでもですか?」
「あぁ、”なんでも”」
彼の言葉に嘘はないだろう。僕らが彼へ助けを求めたら、なにをどうやってもそれを解決するんだろう。彼はそういう危うさがある。それは、ずっと前から、だが。
…ふと、あ、と思いついて今1番の悩みを彼へと話す。
「…その、僕住む所決まってなくて、ですね。もしよければ物件探し手伝ってくれませんか?」
「おや、実家通いじゃないんだね」
「はい、帰りが不定期になりそうなので迷惑はかけたくなく…。けどこの辺りは街中ですから部屋が空いていないかもな、と」
「ふむ……なら…」
目の前の彼は口元を触って、少し思考した。…かと思ったが次にはもう口を開いていた。さすが赤司君、我らが頭脳_
「…し、失礼します」
「俺と一緒に住もうか」
ふたつの声が重なる。少し脅えた見知らぬ声、それとよく通る見知った声。息が詰まった。あぁ、最悪だ。焦りを通り越して、もう疲労しか湧いてこない。否定をするのも、弁解するのもめんどくさくなって、僕は目の前に釣らされた餌にまんまと食いついたのだ。
やっと終わった。これがあと5人も続くんですか?!!!?!無理ー!!!!?!!こうなったら、こういう始まりのお話と書きたいだけの日常のお話で分けるかも。death…