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第2話 どうして?
まずは、どうして君が記憶を失ったのか。
ここから教えないとだよね。
君は2週間ほど前に、みんなでご飯を食べに行く為に駅に向かっている時に、大型トラックに撥ねられたんだ。
運転手は飲酒運転をして、一般道にも関わらず90㎞/hを出していた。
君は、この事故で意識不明の重体になった。
そして、昏睡状態がいつまで続くかわからない、と僕達は病院の先生から言われたよ。
その時からかな。
明らかに、4人の間に暗い空気が漂い始めたんだ。
おんりーやmenは、君ととっても仲良しだったから、とても悲しんでいた。
ぼんさんは、君の事を弟のように可愛がっていたから、とても辛そうだった。
僕は…受け止められなかった。このメンバーがバラバラになって、君はどうなっちゃうのかな。って、心配してばかりだった。
この件について悲しんでいたのは、僕達だけじゃなかった。
他の、君が仲良くしていた配信者仲間の皆んなや、職場のみんなも。
君は、記憶がなくなっている。
どうしてなのかは医者でもわからないって。
君を轢いたトラックを運転していた運転手は、過失運転致傷罪で逮捕されて、裁判に向けて拘置されているんだ。
君がいなくなってから、みんな壊れ始めた。
「おらふくんが…俺達のことを覚えていないなんてさ、俺、どうすればいいの?」
「教えてよ…」
涙が止まらなくて、苦しくて、自室の中で泣きじゃくるしかなかった。
視界がぐちゃぐちゃで、頭が痛い。
吐いても吐いても、胃液しか出ない。
苦しかった。こんなの嫌だった。
「おらふくん、おらふくん…‼︎」
「もう俺…死にたいよ」
君は写真の中で、笑みを浮かべていた。
「俺が弱音吐いちゃいけないなんてわかってんだけどさ」
「大切な…仲間を失うっていうのはさ、やっぱ辛いもんだよ…」
貴方はタバコを吸い、外の景色を眺める。
「ドズさんもさ、そう思うだろ?」
「俺達”先輩組” は、あの子達にどう接すればいいんだろうね。」
ぼんさんは、悲しそうな目をして呟く。
携帯灰皿にタバコを擦り付け、蓋を閉めて鞄に放り投げる貴方の動きを、じっと見つめていた。
僕は、このグループのリーダーとして、常にその事を問い続けなきゃいけないと思う。
あの子達に、また笑ってもらって、昔の日常を取り戻すために。
「あ゛〜…やる気が起きない…」
「仕事しなきゃだけど布団から出れねぇ…」
おらふくんは、どうして俺たちの事を忘れてしまったのだろう。
ふとそんな事を考えた。
君の笑顔が脳裏に焼き付いて離れない。
それは、多分ドズルさんも、ぼんさんも、おんりーも、そうだと思う。
部屋は蒸し暑かった。
冷房を付けて、再び布団に潜り込む。
ひとりぼっちの病室。
小鳥の囀りだけが聴こえる。
僕は大切な事を忘れたらしい。
そんなの知らない。
洗面台の前に立って、いつも問い掛けるんだ。
「君は誰?」
って。
自分の顔なんてよくわからない。
僕の年齢は?趣味は?好きなものは?
自分に訊いても、わからない。
どんな人と話していたっけ。何をしていたっけ。