コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
️
ある大手製薬会社から漏れ出したウイルスが瞬く間に世界を変え果てたのは最近の話だった。新たな特効薬を作るために特別設けられていた研究室があったが、一歩間違えれば死をも齎す有害物質が一般市民に隠されたまま扱われていたのは知る由もないだろう。そんな殺人バクテリアがある日突如、平穏な街へと流出したのが事の発端である。
Endless Risky
️今日はめでたい日。記念日なんて意識してないようでお互い何気なく日程を立てたものだから、何気なく服装も気合を入れていた。スンチョルは手足が短いからと言ってオーバーサイズを好むけれど、ジョンハンからしたらどんな服だって似合っているし素敵にしか見えないので、正直背丈に合ったものをふと着られるとときめくものがある。桐の葉も落ちてきた麗しい初秋、たまには品がある風采で彼のそばにいたいと思い立ったジョンハンは、花柄が縫われたコットン生地のシャツにアマレットなカーディガンなんて合わせてみた。我ながら清楚で感嘆する。少々萌え袖気味なところはあるが、存外手元が何かで包まれていると安心する嗜好が潜在しているようなので気にはならなかった。
️自慢するのは恥ずかしいから物知らずな顔でお昼ご飯のサンドイッチをバスケットに詰めていると、雰囲気が違うジョンハンをお目にかかった瞬間のスンチョルの息はとても明瞭なものだった。動揺として生唾を嚥下したのが聴覚だけでも読み取れる。
「何か、人妻みたいでエロいんだけど」
「それ褒めてるの貶してるの」
ふははは、なんて笑いながら咎めてみたら、結構本気な様子で「いや、マジで好き」と突拍子もいいところな告白をされたのでジョンハンまで顔が赤らんだ。言ってるお前が恥ずかしそうにするなよ。って、ご機嫌がバレないように顔を逸らすが、それはジョンハンの癖。気まずくなると、恥ずかしくなると、話を逸らしてしまったりそっぽを向いてしまう。
「一応入れれるだけ入れとくよこれ」
「うん。ありがとう」
それを熟知しているスンチョルが今更話の一つ二つを折り曲げられたところで不機嫌になる訳もなく、ただただ居心地のいい空間が続く。体を鍛えているスンチョルの後ろ姿は程よくガッシリとしていて、「そろそろ出るよ」って首を振り向かせてにっこりと微笑む姿は本当に格好いいから、胸がぎゅうっと締め付けられた。
️サンドイッチが詰まったバスケットを持って燦爛な空下に踵を出向かせると、スンチョルが助手席側のドアを開き、「乗って」と至極当然にエスコートをしてくれる。愛情表現がストレートなスンチョルに対してなかなか素直になれないジョンハンはこういう時に恍惚とする反面、負い目を感じて切ない気持ちになるのも事実だった。だからか細い声で、「お前も似合ってる」とかなんとか言おうと思って言えなかった数十分前の本音を今更に吐露した。「し、しまった。今更言ったって……」ジョンハンは自分の発言を悔いたが、スンチョルは先程まで会話をしていたように「そう? ジョンハニ程じゃないよ。本当にその服似合ってる」と、当たり前に返してくるのだから罪悪感なんて吹っ飛んでしまう。
️嗚呼、もうほんとにどうしよう。俺、すっごくスンチョリのことが好きだ。
「ジョンハナ」
「ん?」
助手席に坐ると同時に名前を呼ばれてふと顔を上げると、ちゅう、と優しいキスをされる。どう考えても唇に当たった感触は温かくて柔らかいものだったし、何よりジョンハンを射抜くスンチョルの瞳が状況を物語っていた。
「緊張してるでしょ。ちゃんと俺の名前も呼んで」
「あ、」
言われるまで気が付かなかった。確かに名前も呼んでいないし、目を合わせたのだって今日これが初めてだ。ジョンハンに余裕がないと漸く自覚できた時、恥ずかしくて顔がみるみる火照っていく。恥ずかしがる顔も、ずっと一緒にいるのに緊張してしまうドジな自分も、スンチョリからキスをされて動揺する自分も、と、こういう時だけ稼働が早い頭のせいで、茹だった美貌が俯く。耳まで紅潮させ襟から覗く白皙な肌には、数日前に刻んだ紅い花がうっすらと残っていた。昼間だというのに官能的な視界に、スンチョルはつい息を呑む。こんな昼間からムラついてる自分の貞操大丈夫か? などと、天使の目の前で湧き上がる不情にこっそりと喝を入れた。その癖ジョンハンに対する求愛は止まらなくて、羞恥に耐えようと下唇を噛むふわふわなそこに親指をあてがう。
「ちゃんと俺の目を見て。出来ないなら勝手に向けさせるよ」
「ぅう、……っ」
涙目でスンチョルを見上げる光景はあまりにも甘美で無意識に舌が蠢いた。今すぐ自分の唾液をこいつに飲ませたい。支配したい。汚らわしい独占欲が裡でチラつく中、引き寄せられるように端麗な顔へ唇を近づける。
「恥ずかしくないよ、可愛い」
諭すふりをしてジョンハンを揶揄いたい気持ちが率先しているのはスンチョルが一番自覚していた。それでも熟れた唇に吸い付いて優しく何度も貪ってしまう。段々と深さを求めていくキスにシートを這いつくばって逃げようとするジョンハンだが、スンチョルの雄々しい掌が首に添えられて軌道修正されてしまうので意味がない。ちゅ、ちゅく、ぢゅる、ただ夢中で舌を嬲って、舐めて、吸って、流石に性感帯が疼いてきたのかジョンハンは鼻から抜けたよがり声を洩らし始める。「んぅ……ふっ、ぅ、んんっ」弱々しい力で肩を押してこられるが、それさえも握り返して指を絡めると嬉しそうにジョンハンが啼く。ひたすら甘く感じてしまうから獣のように滾る気持ちを抑えて、軽く自分の唾液を口移しすると一生懸命こくり、こくり、と飲み込む真摯なジョンハンに愛情がぶわっと湧いてしまう。ちゅう。最後に唇を吸い上げ、下唇を拭う。多少荒れた息遣いの「っ、ばか」という野次が飛んできたが、逆にそれだけで済まされた事実にスンチョルは微笑してしまった。
「文句はそれだけでいいの?」
「うるさい」
結構強めに肩を叩かれて唸るも、今度は上目遣いでちゃんと瞳を向けてくれるジョンハン。もう緊張していない事が確認できたので満足だ。