「いいえ?先生はコト本に関してはかなりきっちりした方でしたので、どの段もギュウギュウだったと思いますけれど…」
麻生さんは言う。
「確かにおかしいですね…」
「抜けた2冊の本はどこに行ったんでしょうか…?」
そこに、ちょうど和臣さんが帰って来た。
「あぁ、和臣さん、この本棚のこの箇所に2冊分のスペースがあるんですよ。
何かご存知ありませんか?」
先生は和臣さんに尋ねた。
「あぁ、それならば、僕が借りた本ですね。
と言っても、親父が読めと言ってきたんですけどね。」
「その2冊の本は今…?」
「えぇ、ありますよ。
検察官に現場を触るなと言われていたので、部屋に持っていましたけど。」
「ちょっと拝見しても?」
「えぇ、もちろんです。」
和臣さんは2冊の本を持って来た。
『真犯人はお前だ!』
『殺人事件に決まってる』
という、どちらもミステリー本のようだ。
「なんか、亡くなった五郎氏の意気込みを感じる本の題名ですね…」
私は言う。
「ますます怪しいですねぇ。
まるで、自分の死期と場面を予想しているかのような…
しかし、決定的な自殺の証拠が…」
先生はそう言って再度本棚を見た。
「こ!
これは…!」
♦︎♦︎♦︎
そして、第3回目の裁判が始まった。
先生の弁論から始まる。
「まず、申し上げます。
私は決定的な自殺の証拠を見つけました。」
ざわめく傍聴席。
「みなさん静かに。
弁護人は続けてください。」
裁判長が言う。
「この事件では凶器にアイスピックという極めて珍しい物が用いられました。
いや、そうで無くてはいけなかったのです。
検察官、凶器を今一度みなさんに掲げて見せてもらえませんか?」
「はぁ…
こうですか…?」
検察官はアイスピックの入った透明の袋を掲げる。
「アイスピックと包丁の違いは何か?
もちろん、刃の部分も違いますが、みなさんに注目して欲しいのは、持ち手の部分です。」
みんなが、アイスピックを凝視する。
「アイスピックは持ち手が出っ張っていて、円柱型になっています。
亡くなった五郎氏はこれを用いて自殺を他殺に見せかけました。」
「発言の意図が分かりません!」
検察官は言う。
「発言を却下します。
弁護人続けてください。」
「五郎氏はいつも本棚をギュウギュウにしていたのに、今は五段目の段が2冊分の本のスペースが空いています。
何故か?
そうです。
このスペースにアイスピックの背面を固定して、そこに向かって背面からダイブしたのです。
五段目はちょうど心臓の位置になるのです。」
先生は言った。
「さらに、2冊分のスペースの隣の本には、アイスピックのゴムが擦り付いており、傷がありました。
アイスピックにもおそらく本の紙の繊維が付いているはずです。
これが、この事件の悲しい真実です。
裁判長、被告は無罪に間違いありません。
どうか、正しい判断を…お願い致します。」
先生は言い、席に着いた。
こうして、斉藤洋子被告は見事無罪となり、裁判は先生の勝利で幕を閉じたのだった。
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