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未だ新婚と呼べる時期なのに蜜月は過ぎ去り、最近は触れ合うことができていない。
妊娠中のため仕方がないのだが、変に心がざわつく。
医者からは妊娠すると感情の起伏が激しくなって、怒りっぽくなったり涙もろくなったりすることもあると言われていたけれど、本当にそのとおりだ。
グウェンダルの顔を見ない日が続くと、不安はひどくなった。
パートナーもなしにパーティーに参加すれば、グウェンダルは女性たちから秋波を送られるに違いない。
不倫をするような男だと思っているわけではないのに、パーティーに出席すると聞くといつも気持ちが落ち着かなくなる。
メリーティアは寂しかったのだ。
今夜は彼の胸に抱かれて眠りたい。
今日のパーティーが終われば忙しさも落ち着くだろう、とグウェンダルは言っていた。
明日は仕事が休みのはずだから、一日くっついていたってかまわないだろう。
メリーティアは眠い目を擦ってグウェンダルの帰りを待った。
――しかし、彼が帰ってきたのは朝だった。
心配して「何かあったの?」と聞くと、グウェンダルは「酔って眠ってしまった」と答えた。
どれだけ遅くなろうとも夜には必ず帰って来て、また早朝に仕事に出かけていくような人だ。彼が特別なことは何もなかったと言うならそうに違いない。
メリーティアは喉に小骨がひっかかったような心地のまま、「そう」とだけ返した。
結局彼に甘える機会も失い、ふたりになるとどこか気まずい空気が流れる日々が続いた。
その数日後、あの夜に何があったのかゴシップ誌で知ることになった。
メイドが毎朝持ってきてくれる新聞のなかにゴシップ誌がある。ほかは世の情勢についてが主だが、ゴシップ誌は社交界や貴族のことについて事細かに書かれていた。
信憑性に欠ける記事も多いけれど、妊娠中で社交界から遠ざかっている身からするとこれが最も情報を得やすいのだ。
その一面に『騎士公爵、パーティーの夜に人妻と密会』と大きく見出しが書かれていた。
騎士公爵というと、帝国にはグウェンダルしかいない。目元に黒線の入った肖像画が載せられていたが、誰がどう見てもグウェンダルだ。
相手の人妻の肖像画も載っている。T・Bとイニシャルだけ書かれていたが、メリーティアにはその肖像画に見覚えがあった。
トリー・ブレイド。
彼女もまた幼なじみだ。
何かと張り合おうとしてくるため、あまり仲はよくなかった。
いま彼女は副騎士団長の妻だ。
しかしトリーは昔から彼に想いを寄せていた。
メリーティアは乾いた笑いをこぼす。
どうせ不倫するくらいなら、こんな近い人物は選んでほしくなかった。呆れてグウェンダルを問い詰める気も起こらない。ただただ怒りがこみ上げ、頭にカッと血が昇った。
*
帝都のホールトン邸を飛び出し、ハイゼンベルグ領にある実家に帰った。
馬車で二週間ほどかかる距離だ。実家に辿り着いた頃には両親も兄も事情を把握しており、メリーティアを快く出迎えてくれた。
少し身体を休めてから、夕食の席につく。
突然帰ってくるに至った理由を話すうちに、だんだんと気持ちが楽になっていった。
ひさしぶりに両親の顔を見たせいか、身体からほっと力が抜けていく。冷静になった頭で考えると、グウェンダルが裏切るはずがない、という結論に至った。
両親も兄もしきりにグウェンダルを庇う。それだけ彼は誠実な人なのだ。
疑ってしまった自分が恥ずかしい。
落ち着くと、母から手紙を渡された。
メリーティアが実家に帰ったと使用人から聞いたのか、グウェンダルからの手紙が早馬で先に着いていたそうだ。
中身を読むと、「君を裏切るような真似は決してしていない。私が愛しているのはメリーティアただひとり。だがあの夜のことは何も覚えていないんだ。私を信じてくれ」と少し崩れた字で綴られていた。
よっぽど慌てて書いたらしい。
多忙な日々が続いていたから、彼がはじめに言っていたとおりたまたま酒に酔って眠ってしまったか。
それとも、グウェンダルへの想いを拗らせたトリーが何かしたのかもしれない。
「早く帰らないと」と立ち上がれば、兄がどうどうと宥めてくる。
今日ハイゼンベルグ領に着いたばかりだし、何よりも今は夜だ。こんな時間に出発するのは危ないと説得され、渋々腰を落ち着けた。
理由はどうあれ、せっかくひさしぶりに実家に帰って来たのだ。少しゆっくりしてから帰ってもいいかもしれない。
それに、まだ家族には妊娠したことを報告していなかったからちょうどいい機会だ。
メリーティアはこっそりとおなかを撫で、苦笑する。
これから母親になるのだから、もっとどっしりとかまえていられるようにならないといけない。あんなゴシップ記事で動揺しているようでは、公爵夫人にも騎士団長の妻としても相応しくないだろう。
何があろうと、自分だけはグウェンダルを信じてあげなければならない。
ホールトン邸に帰ったら、不貞を疑ったことに対する謝罪の気持ちと、彼を変わらず愛しているという気持ちを込めてキスを贈ろう。
今頃グウェンダルはおそらくとても心配しているはずだ。騎士団長という責任のある立場でなければ、仕事をほっぽりだしてメリーティアを迎えにきていただろう。
彼と仲直りしたあとは、あの日の夜に本当は何があったのか調べよう。
本当にトリーがグウェンダルを嵌めたのなら、それ相応の罰を与えなければならない。