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八尾黒羽
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Safe to Shatter.
Epilogue そして日常は回る
数日後。
第3部隊の演習場には、いつもの――いや、いつも以上に響き渡る快活な声があった。
「はいストーップ! お前ら、動きが鈍いで!」
「さっきから足引きずっとる奴おるけど、怪獣は待ってくれへんのやぞー!」
パンパン、と小気味よく手を叩きながら、満面の糸目スマイルでグラウンドを練り歩く男。
保科宗四郎、完全復活である。
「ぜぇっ、はぁっ……ふくたいちょ、今日、ペース早すぎ……っす……!」
「ん? カフカ、なんやて? まだまだ口が回るってことは、元気な証拠やな〜笑。」
「よっしゃ、お前ら全員、追加で外周30周や!」
「「「「「ええええええ!?」」」」」
訓練場に新人たちの悲鳴がこだまする。
文句を垂れる隊員たちをよそに、保科はカフカとレノの前にスッと立ち止まった。
その口角が、さらに深く、怪しく持ち上がる。
「特にカフカぁ。お前には特別メニューを用意したる」
「……え?」
「救護室で言うてたよなぁ。『めっちゃ素直っすね、可愛げありますよ』……って」
「っっ!!?(ビクッ)」
カフカがカエルが潰れたような声を上げ、レノは無言でスッと目を逸らした。
「僕ぁ40度近い熱でうなされてたけどな、お前のアホな発言はしっかり耳に届いとったんや……」
「あの時の約束通り、カフカは外周プラス20周! ついでに止めんかった市川も連帯責任でプラス10周や!!」
「嘘だろ!? あの高熱で覚えてたんですか!? 鬼! 悪魔! おかっぱー!」
「俺まで!? ほら見ろ、俺は言わんこっちゃないって言いましたよね!? なんで巻き込まれるんですか! 理不尽!!」
「誰がおかっぱや! 10秒以内に走り出さんかったらさらに倍やぞ!!」
「「ぎゃあああああ!!」」
猛ダッシュで逃げていく二人を見て、保科は「ふふっ」と悪戯っぽく笑い声を漏らした。
遠くの指令室。
そのドタバタ劇を窓越しに見下ろしていた亜白ミナは、コーヒーカップを置き、小さく息を吐いた。
「……相変わらずだな」
呆れた口調だったが、その表情は柔らかく解けていた。
あの夜、熱に浮かされながら、孤独な戦いに折れそうになっていた副官の姿は、もうどこにもない。
そのことが、何より嬉しかった。
「……ほんま。世話の焼ける部下ばっかりやで」
口ではそうぼやきながらも、保科の顔には隠しきれない充実感が浮かんでいた。
日常が戻ってきた。
まだ胸の奥には救えなかった命の残響が残っているし、きっとこれからも消えることはない。
けれど、自分を心から案じてくれる上官がいて、アホみたいに騒がしくて愛おしい部下たちがいる。
この日常を守るためなら、何度でも立ち上がって刀を振るえる。
そう、強く思った。
「ほらカフカ! 足止まっとるぞ! モンブランの恩は一生忘れへんけど、それはそれ、これはこれや!!」
「なんでだよぉぉぉお!!」
青空の下、保科宗四郎の笑い声と、第3部隊の賑やかな声が、どこまでも響き渡っていった。
(おわり)