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「雪の足跡もない。外部から侵入したとも思えない」
「ならどうやって? この屋敷に“いた”というのに、今は消えている……」
澪が不安げに呟く。
「幽霊ってことは……さすがにないよね」
名越が乾いた笑いを漏らす。
だが、その笑いがすぐに消える出来事が、起こる。
午後四時――
地下倉庫の奥、古い冷凍庫の前で、**誰かの悲鳴が上がった。**
声の主は冴子。すぐに全員が駆けつけた。
冷凍庫の扉が、半分だけ開いている。
「……中に、何かが……」
懐中電灯で照らすと、中には――
**使用されていないワイヤレスカメラ本体**が、壊れた状態で横たわっていた。
その上に、小さな紙片が貼り付けられていた。
紙には、血のような赤いインクで、こう書かれていた。
> 「おまえたちは みんな見られている」
全員が凍りついた。
澪が震える声で言う。
「……これ、私たちの誰かがやってるんじゃない。外に……“本物の敵”がいるのかもしれない」
だが俺は、別の可能性を考えていた。
――本当に「外部の人間」なのか?
それとも、“この中の誰か”が“第七の人間”を装っているだけではないのか?
例えば、動画に映っていたあの影も、**偽装工作**なら……?
身長が異なるように見えるのも、映像の角度や靴底の厚みで誤魔化せるかもしれない。
俺は尋ねた。
「この中で、コートの類を持ってる人は?」
全員が顔を見合わせた。
辰馬が口を開く。
「ここに来る途中、私が荷物を管理していた。スーツケースに長めのフード付きコートを入れていたのは……冴子さんと、名越くんだ」
「俺のは黒いやつだ。けど、使ってねぇ。雪に濡れるのが嫌でな」
冴子も答える。
「私のはワインレッドのコートよ。映像のそれとは違うわ」
つまり、**映像に映ったコートの色は黒**。
消去法でいけば、**名越のものに最も近い**。
その場が一気に静まった。
名越は、苛立ったように舌打ちをする。
「だからって、俺がやったと決めつけるのか? 映像の影だけで?」
「決めつけてはいない。ただ、最も可能性があるのは――」
「ふざけんな。俺は、殺されそうになってる側だぞ!」
名越の叫びが、薄暗い地下に響く。
だが、もはや“味方”はどこにもいなかった。
夕方、俺は辰馬の部屋を訪ねた。
彼は暖炉の前で、古い手帳を見つめていた。
「何を……」
「これは、私が十数年前に書いた“過去の記録”だ。……今回の事件に関係している可能性がある」
手帳には、大学時代の出来事、関係者の名前、そして――ある**事故の記録**が記されていた。
「君は、私にこう言ったな。“この事件の動機は、殺人ではなく、真実の抹消だ”と」
辰馬が視線を向ける。
「その言葉、あながち間違っていない。……私の遺書には、“ある一人の死”が関わっている。そして、その死を巡って……この中の誰かが、動いている」
「……誰の死だ?」
「――私の妹だ」
辰馬の妹の死、その詳細は長く、暗い過去を抱えていた。
彼女は十年前に山荘付近で事故死したという。だが辰馬はそれを事故ではなく“殺人”と断じていた。
「妹は、当時の研究仲間に何かを見られた。秘密が暴かれるのを恐れた誰かが、彼女を葬った」
その話を聞いて、俺は思った。
「だから今回の事件は、単なる遺産争いではなく“過去の封印”のための殺人だと?」
「そうだ。誰かが真実を暴こうとしている。だから、口封じをしている」
名越は部屋で独り言を漏らした。
「俺が疑われるのは癪だけど……誰かが、俺を陥れようとしているんだ」
その夜、雪は激しく降り続けていた。
時計が午後十時を示すころ、また一つの悲鳴が響いた。
場所は一階の浴室。
俺たちは駆けつけると、そこで――
**名越が倒れていた。**首に鋭い切り傷。
彼の手には、あの壊れたワイヤレスカメラの残骸が握られている。
倒れている名越の横には、血でにじんだ紙片があった。
> 「もう遅い。次はお前だ」
混乱の中、俺は冷静さを保とうと必死だった。
この連鎖する殺人劇は、いったい誰が仕組んだのか。
だが、一つだけ確かなことがあった。
**“犯人はこの中にいる”――。**
翌朝、名越は搬送され、意識は戻らなかったが、命は取り留めた。
だが、名越の部屋の中は徹底的に調べられ、重要な証拠が発見された。
**そこには、犯人への手がかりを示す、もう一つのUSBメモリがあった。**
それは、まだ誰も知らない新たな真実への扉だった――。