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 第1話で完結の予定だったこのお話なのですが、有難いことに後日談が読んでみたいとのお話が何人かからきていまして……なんとか書いてみました!今回はせんせー視点でのお話です。どうぞ、読んでいただけると嬉しいです。




 空がオレンジから紫色に変わり、濃色へと変化していく時間、俺はベランダでタバコを片手に虚ろな目で街を見下ろしていた。何本目か分からないたばこを咥えて、深く吸い込んだ煙をゆっくりと吐き出す。俺の心の中にある虚しさとか苦しさとか、全部煙とともに吐き出してしまえたらいいのに…。そう思いながら次のタバコを箱から取り出す。

 数ヶ月前に付き合い始めた彼女からの連絡があったのが数時間前。何かあったかと思って電話に出ると、突然別れを告げられた。理由はなんだったか…途中から記憶が曖昧でハッキリとはしないけれど、確か時間が合わないとか外で堂々とデートするのが気まずいとか…そんな感じだったと思う。そんなの最初からわかっていたはずなのに、なんで今更そんなことを言うのだろうか。納得はできなかったけれど、離れていくものを引き止めるなんて格好悪いこと、俺のプライドが許さなかった。

「カッコ悪…」

 くだらないプライドで意地を張っている自分がアホらしくて、幼稚で…俺は自嘲気味に笑った。表に顔を出して仕事をしているから、彼女が嫌だと言ったことを直すことは出来ない。だったらスッパリ離れるのがいいと思った。

「彼女できたん、ひっさしぶりやったんやけどなぁ」

 でも別れてしまえばアッサリしたもので、彼女の許可を得ていたので、部屋にあった彼女に関連するものをゴミ袋に詰めてほかのゴミと一緒に出してきてしまっていた。スマホ内のデータも全て消して、俺に残っているのはこの胸の中にポッカリとあいた穴だけだった。彼女ができる前はこの暇な時間をどうしてただろうかと考えた。

「あーそうや、ニキとずっとdiscord繋げてたんやった」

 そう思った俺は、手に持っていたタバコを灰皿に押し付け、部屋へと戻った。そしてPCを立ち上げるとニキのサーバーへと入室した。そこには既にりぃちょとニキがいてなにやら話しながら作業をしているようだった。

「おう。お前ら作業かぁ?」

「ん?あれ?ボビーじゃん。彼女いいの?」

「ほんとだ。せんせーが来るの珍しくない?」

「あー……さっき別れてんw」

「え?なにかあったの?」

 驚いたように声を大きくするりぃちょと、息を飲むニキ。俺は2人にかいつまんで数時間前の電話の内容を話した。それを黙って聞いていた2人は、俺が話終えると少しの沈黙の後口を開いた。

「まぁ……なんだ、元気出せよ?」

「そうだね…。せんせーモテそうだしw」

「しばらく次はええわww」

「失恋には新しい恋が1番効くよ?w」

「なんや実体験か?ww」

「ふふふw どうだろうねw」

「……ニキニキ」

 含みがあるような言い方をするニキに、少しの違和感を感じていた。そしてそれに対するりぃちょの反応にも違和感がある。この2人に何かあったのかと追求しようとしたが、すんでの所で留まった。聞きたいような聞きたくないような…。聞いてしまったら、何かが壊れてしまいそうな気がした。

 そこから、前と同じように通話しながらの作業をしていた。だが、何故だろうか2人の醸し出す雰囲気が少し違う気がした。どう説明したらいいのか分からないけど、2人の距離が近いような……ニキのりぃちょに対する言葉や対応が少し甘いような…そんな気がした。聞かずにいようと思っていたのに、その違和感が気持ち悪くて思わず口に出してしまった。

「お前ら……なんかあったか?」

「なんかってなんだよww」

「そうだよせんせーw ちゃんと言ってww」

「なんていうか……距離感おかしない?」

「距離感?そう……かなぁ?」

「っ……」

 本当に分からなそうな話し方をするニキと、一瞬だが息を飲んだりぃちょ。俺はそれを聞き逃さなかった。

「りぃちょ……お前なんか隠してるやろ?」

「隠してないよ……w 考えすぎw」

「そう……か?」

 追求したいところだが、本当に話したくないことなのであればしつこく聞きすぎるのも良くない。そう思った俺は、ひとまずその話題をそこで止めることにした。

「あ、なぁニキ」

「なぁに?」

「後でお前ん家いっていいか?」

「ん? 別にいいけどなんで?」

「いや……なんとなく……な」

「んーまぁ……何時頃になりそ?」

「あー1時間後とか……かなぁ……」

「………… わかった」

「なんや?今の間ww 裏で誰かと連絡してたりする?」

「あーいや、ちょっと確認があってねww」

 ニキの所から小さくバイブ音が聞こえるから、LINEか何かをしてるのはわかる。俺が行くことと何か関係してるんだろうかと勘ぐってしまう。そこで俺は、頭に浮かんだことをそのまま言葉にしてみることにした。

「お前……彼女でもできたんか?」

「なんでそう思うの?ww」

「いや…俺が行くこと彼女にええか確認したんかなと…」

「あー……まぁ、恋人は……いるよw」

「マジか! 知らんかった!! いつから?」

「ふふふw 俺さ、ちょっと前まで片思いしてたんだけど」

「おう」

「振られちゃってw 凹んでた時に猛アタックされたww」

「マジか! ラブラブやん!」

「そう……だねw めっちゃ愛されてるww」

「ちょっ……ニキニキそういう話は……」

「なんでお前が焦るんや?ww ええやん!恋バナ!」

「いや……そうなんだけど……」

 歯切れの悪い返事をするりぃちょに、少し疑問は残ったが、俺は相棒に恋びとが出来たというその事実をただ祝福した。イヤホン越しに聞こえる声だけでもわかるほど、幸せそうなニキに、俺もなんだか幸せな気分になった。

 相手がどんなやつなのか気にはなるが、それはあってから聞けばいい。そう思ってその場では問いつめることをやめた。そして、ニキの家に行くため準備をすると言い、俺はdiscordを切った。

 ピンポーン

「はーい」

「お!出迎え早いなww」

「時間読めるからねww 出た時間分かればww」

「せやなw 近いしなww」

 俺はすごく久しぶりにニキの家へと足を踏み入れた。そこでまた違和感を感じた。以前のニキの家は、お世辞にも綺麗とは言えない状態だったからだ。片付けや掃除に無頓着で、ダンボールはそのまま置いてあるし、PCとベッドの間もわりと散らかっていて少しものを避けながら入っていく様な状態だった。なのにも関わらず、今はダンボールがひとつも無くて、シンクに洗い物もほとんど無く、PCの前も片付いていて俺らのグッズも綺麗に並べてあった。

「お前……部屋綺麗やない?」

「あーww アイツが掃除しろってたまに来るからさww」

「ん?アイツ? 彼女のことか?」

「んーww ……恋人ねw」

 妙に含みのある言葉に、俺は首を傾げた。わざわざ恋人と言い換える必要は何故なのかと……。そしてその疑問の答えは、壁にかけてあった見覚えのあるジャージが教えてくれた。それは、りぃちょがよく着ているものとまったく同じもので、しかもどうみてもニキのサイズではなかった。これの持ち主がおそらく恋人なんだろう。ということは……ニキは男と付き合っているということになる。

「おい……」

「ん?」

「あれ……誰のや?」

「あっ……片付け忘れてたかww」

「いや、だから……」

「あれ、見覚えない?」

「いや………あるけど……」

「あれの持ち主が俺の恋人…どん底の俺を引き上げてくれた……大切な人」

 そう言ってジャージを見つめるニキの顔は、俺の知らない顔だった。なんだかすごく優しくて、少しだけ頬を染めている表情は、同じ男なのに色気すら感じるものだった。

「お前……もしかして抱かれる側か?」

「ふはっww ストレートすぎない?ww」

「いや……まぁそうか……」

「ふふふww まぁそうだよww 不本意ながら抱かれる側だよww 年下に抱かれるようになるとは思ってなかったよ」

「え?」

 俺は再び固まった。ニキの相手が男で、年下で更に抱かれる側……。頭の中での処理が追いつかなかった。更に、なぜだか腹の奥からフツフツと黒い感情が上がってくるのを感じた。初めて感じる感情。ニキが他の……しかも男のものになっている、それが気に入らない。この感情をなんて呼ぶのか…俺には分からない。でも、なんだろう俺以外の男に笑いかけて欲しくない……そう思った。

「ニキ……相手、誰や?」

「ん?アレ見てわからない?」

「え?あのジャージ?いや、同じのをりぃちょが持ってるなと…………は?まさか相手、りぃちょか?」

 俺が思わず大声でそう言うと、ニキはニコッと笑って小さく頷いた。その顔は本当に幸せそうで、軽く頬を赤く染めているのも全部気に入らなかった。誰よりもそばにいたはずなのに、なんでりぃちょを選んだんだというよく分からない感情が押し寄せて止まらない。こんな感覚は生まれて初めてだった。

「……なんで?」

「ん?なにが?」

「なんでりぃちょなんや?」

「さっきdiscordではなしたでしょ?猛アピ喰らったw」

「っ……」

 俺は無意識のうちに、ニキの腕を掴んでベッドに押し倒していた。俺に組み敷かれる形になったニキは、驚いて目を見開いてこちらを見ている。その表情すら可愛く見えてきて、俺自身自分の感情を持て余すほどに動揺していた。

「どうしたの?」

「……なんで……なんで……」

「ボビー?」

 どう言葉にしたらいいのか分からなくて、そのままニキの手首を掴んだままうわ言のように、言葉にならない言葉を呟き続けた。その時、玄関が開く音がして次にドタバタと廊下を騒がしく歩く足音が聞こえたかと思うと、勢いよく部屋の扉が開かれた。

「くっそ……なにやってんだよ! 離れろ!」

 息を切らせて駆け寄ってきたりぃちょに、力任せに剥がされて押しのけられた。近くの壁で軽く背中を打って、小さく呻いた俺は、顔を歪めながらニキたちの方を見つめた。

「ニキニキ!! 大丈夫?怪我してない?」

「大丈夫だよww ボビーが俺を傷つけるわけないだろ?」

「でも……っ せんせーは今更どういうつもり?」

「今更ってなんや?」

 りぃちょの言ってる意味がわからない。鋭い目で睨まれている理由もイマイチ分からない。分からないことだらけだった。

「ニキニキが一番大事っていってたくせに、他に女作って……ニキニキ傷つけて、別れたらニキニキのとこに来るって、どんだけ都合いいの? 」

「なんの事や?」

「りぃちょ……」

 目に涙をためて睨んでくるりぃちょが紡ぐ言葉の意味が分からない。ニキが一番大事なのは本当だし、それは今も昔も変わらない。俺に彼女が出来て、ニキが傷ついた?しかも別れたからってニキのところに来るのがなぜ都合がいいってことになる?俺の頭の中は疑問符がいっぱいになっていった。 ただ、理解は出来ないのにどこか腑に落ちるような気がして、それも意味がわからなくて気持ち悪かった。

「はぁ……まだ気づいてなかったんだ……」

「はぁ?だからなんの事や!」

「せんせー、ニキニキのこと好きだったよね?恋愛的な意味で……それなのに……それなのに彼女作って……」

「は?そんなわけ……」

「ないって言える?何よりもニキニキ優先。ニキニキの相棒は俺だとあちこちで言って…。ニキニキのこととなると何を押しても駆けつけてたじゃん」

「それは……え?俺、好き……やったんか?」

「気づいてなかったんだ……タチ悪いね」

「例えそうだったとして、なんでタチ悪いになる?」

 そうだったのかもしれない……。だが、それのどこが悪かったのか、俺には分からずりぃちょに噛み付く。そんな俺らを見ているニキは、どうしたらいいのか分からず悲しい顔をしていた。りぃちょは俺とニキを交互に見てから、大きなため息をついた。

「ニキニキを大事にして1番にして、それでニキニキがせんせーの事好きになって…そしたら彼女作って……」

「え?ニキ、お前……」

「それを見たニキニキがボロボロになって傷ついて……」

「っ……」

「泣いて苦しんでる時、せんせーは彼女と仲良ししてたんでしょ?」

「それは……そもそも自覚なかったわけやし……」

「それでもニキニキは傷ついた」

「それは……」

 口どもって何も言えなくなった俺を見て、ニキがゆっくりと言葉を発し始めた。

「あの日…ボビーと彼女を見た時、足元から崩れるかと思ったんだ。それでも撮影はあったから頑張ったんだ」

 ゆっくりと……でも、こちらを見つめる目には確かな力と光を秘めながらニキは言葉を続けた。

「撮影後、俺動けなくなってね。そのときりぃちょが走ってきてくれたんだ。 その時に気持ちも告げられて……」

 そっと瞼を伏せながら照れたように笑うニキは、やはり俺の知っているニキとは別人のような顔をしていた。

「俺も悩んだんだ。でも、必死で元気づけてくれて、好きだって素直に伝えてくれるりぃちょにちょっとずつ絆されていって……ちゃんと気持ちが追いついたから付き合うことにしたんだ」

 言ってなくてごめんね。そう言って笑うニキは、驚くほど穏やかな顔をしていた。そしてそれを見ると同時に、俺の中で何かがガラガラと音を立てて崩れていくのを感じた。それが何なのか……俺にもやっとわかったような気がした。

「そう……か。お前は今、幸せ……なんやな?」

「幸せだよ!でもボビーの相棒もやめないよw」

「そう……か。ありがとな……すまんけど帰るわ」

「あっ……」

「ニキニキ……」

 まだ何か言いたげなニキを、りぃちょが抑えた。多分それが正解だろう。今これ以上、ニキからの言葉を聞く勇気は俺にはもう残っていなかった。

 そのまま、俺は真っ直ぐに家に向かった。

 ガチャっ……キュッ……ザーーーー

 俺は家に着くと、服を脱いでそのまま風呂場に入り、湯をためていない湯船にしゃがみこみ頭からシャワーを浴びた。こうしていれば、涙も鳴き声も全部シャワーが隠してくれるから……。認識する前に勝手に終わらせてしまっていた切なすぎる恋心と、それを認識したと同時にそれらを手放さなければならなくなった苦しみに、涙が溢れて止まらなかった。

 今ならば全て理解出来る。ニキが男と付き合っていて抱かれていると知った時に感じたあの黒い感情も、幸せそうなニキが気に入らなかった理由も。相手がりぃちょだとわかって余計にその事実が気に入らなくてどうしようもなくなった理由も……。全部全部、勝手な独占欲から来るものだった。ニキは俺のものだという勝手な思い込み。ニキが頼るのも、1番に思うのも俺だと思っていた。俺にとってニキがそうであるように……そうあるべきだと思い込んでいた。

「俺……アホやな……自分の気持ちすら気づかんなんて」

 自嘲気味にそう言って、天井を見上げた。今更気づいても遅い……遅すぎる。彼はもう俺のものではなくなっているし、そうさせたのは自分なんだから。もっと早く気づけていればとも思うけど、もう今更だった。今はとりあえず、この苦しみを涙とともに出し切ってしまうしかない。そうしないと彼のそばにいることすら出来なくなる。それは流石に嫌だ。せめて……せめて友達としての一番に……。

「俺、こんなに未練たらしい男やったんやなて…情けな」

 数日後……

「僕はニキ、イケメンだよ☆」

「こんにちはしろです!」

「最近、リスナーさんが優しい、りぃちょです」

「地元大好き離れたくない! 18号です」

「……はぁい、キャメロンでーす」

「何その間www」

「さーすがおっさんww」

「おっさんじゃねぇよww」

 いつも通り撮影している俺たちがいた。気づいてしまったけど叶えられない恋心を、心の奥深くに閉じ込めて……。俺はニキをずっと相棒として支えていこうと思う。それが今の俺に出来る最大限の愛情表現だから。もう、後悔だけはしたくない。そう心に誓った。

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目から汗が、!

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