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最終章 夕日に染まる教室で
放課後の教室は、すでに人影もなく静まり返っていた。窓から差し込む夕日は、オレンジ色に机や床を染め上げる。
「なぁ、○○。ちょっといいか」
亮くんが、不意に真剣な顔で呼び止めた。
胸がどきん、と跳ねる。いつもより近くに感じる彼の気配に、自然と手のひらが汗ばむ。
「……前から、言いたいことがあった」
夕日に照らされた横顔は、いつもの余裕ある笑顔じゃなくて、少し不器用で、でも真剣そのものだった。
「俺、○○のことが好きだ。……誰にも渡したくないくらい、大切に思ってる」
空気が止まったように感じた。心臓の音ばかりが響いて、返事をしようと口を開くけど──声が出ない。
「……っ」
唇が震えて、うまく言葉にならない。どうしても声じゃ伝えられそうになくて、私はカバンから折り畳んだ便箋を取り出した。
「これ……読んで」
震える手で差し出すと、亮くんは一瞬驚いた顔をして、それから優しく受け取る。
そして、彼もまた制服のポケットから、同じように手紙を取り出した。
「……俺も、用意してた。お前に渡そうと思って」
不器用に笑う亮くん。その顔を見て、胸がじんと熱くなる。
二人は黙って、それぞれの手紙を交換した。
夕日の中、机に肘をついて便箋を開く。
○○へ
俺は人に気持ちを伝えるのがあまり得意じゃない。
でも、お前と出会ってから、毎日が少しずつ楽しくなっていった。
ふとしたときに見せる笑顔とか、真剣に頑張ってる姿とか、全部が俺の中で大切になっていった。
体育祭で「大切な人」って書かれて、お前しか思い浮かばなかった。
その瞬間に、もう隠す必要なんてないって思った。
これから先、もしも迷うときがあっても、俺は必ず○○の味方でいたい。
○○の笑顔をずっと隣で見ていたい。守りたい。そう思う。
好きだ。心から。
吉沢亮
読むにつれて胸がいっぱいになって、視界が滲む。
ページを閉じて亮を見上げると、彼も私の手紙を読んで、少し赤くなった顔でこちらを見ていた。
亮くんへ
私はずっと、あなたのことを見ていました。
優しく笑うところも、時々意地悪そうにからかうところも、全部大好きで。
でも「好き」って言葉にすると、壊れてしまいそうで、言えなかった。
本当は文化祭のときも体育祭のときも、ずっとドキドキしていました。
あなたが私を見てくれるたびに、心が跳ねて、胸が苦しくなるくらい。
これから先も、不安になることがあるかもしれない。
だけど……それでも、あなたと一緒にいたい。
亮くんのことが大好きです。
○○
「……俺と一緒だな」
亮くんが、少し照れたように笑ってつぶやく。
胸が熱くて、自然と涙がこぼれそうになる。
「やっと言えたな」
「……うん。やっと、言えた」
言葉は短いのに、心の中はいっぱいに満たされていた。
二人の間に沈黙が落ちる。でもその沈黙さえ、心地よくて。
亮くんがゆっくりと手を伸ばし、そっと私の手を握った。
窓から差し込む夕日の光が、二人を包み込む。
「……○○」
名前を呼ばれるだけで胸が熱くなる。
次の瞬間、亮くんはためらうことなく顔を近づけて──私の唇に、やさしく触れた。
触れた瞬間、世界が止まったみたいに感じた。
甘くて、切なくて、でもすごく幸せで。
唇が離れると、自然に二人の額が重なった。
お互いの息づかいを感じながら、くすっと笑い合う。
「なんか……夢みたい」
「夢じゃないよ。俺たちの、青春だ」
夕日に染まった教室に、二人の笑い声が静かに溶けていった。
──青春の、一番輝く瞬間だった。