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「ね、ピッタリでしょう?そう思いませんか!」
衣装合わせを兼ねた婚前写真を、麻里子は嬉しそうに陽子に見せた。
「実はネックレスが気に入りすぎて、お色直しのドレスも変えたんですよ!これに似合うものをって。こっちもいいでしょう?」
言いながら、まるで金鶴のようなゴールドのドレスを見せてくる。
「まあ、何て言うか。めでたい感じね」
横に写っているワインレッドのタキシードの結城と見比べながら、陽子は笑った。
「でも、いいの?麻里子さん。私、さっき言った通り、離婚が決まったのよ」
そう。
離婚する自分がつけたネックレスなど、これからの新しい門出には相応しくないんじゃないかと、陽子は昼休みを利用して、麻里子を近所のファミレスに呼び出したのだった。
「何か、問題あります?」
写真から顔を上げた麻里子が、陽子をまっすぐに見つめる。
「だって、縁起悪いじゃない?はっきり言って」
自嘲気味に笑う。
「不幸になった女がつけたネックレスなんて」
言うと、麻里子の顔が真顔になった。
「陽子さん」
「なに?」
「結婚だけが幸せなわけじゃないし、離婚が不幸なわけじゃないですよ」
麻里子の大きくて、まっすぐな目を見つめ返す。
「陽子さんは、不幸なんかじゃないです」
その言葉に胸がジンと熱くなる。
「既婚者でも、バツイチでも。大地でも、金池でも。綺麗で優しい陽子さんは、私の憧れの先輩です」
宮内が―――。
モテるくせに今まで他の女に手を出してこなかった彼が―――。
ひと時とはいえ、この子に絆された理由が、わかったような気がした。
「じゃあ、使ってくれるの?」
「はい、もちろん!」
少しふっくらした麻里子の顔に笑みが戻った。
「わかった。じゃあ2万円でいいわ」
「高っ!ここのランチ代で勘弁してください」
言いながらメニュー表を掲げてくる。
受け取りながら、陽子は笑った。
こんなに笑ったのは、久しぶりな気がする。
もうすぐ冬が来る。
そしてその後、必ず春は来る。
桜が散る前に陽子は夫と正式に離婚をし、郁と一緒に松が岬市の実家に引っ越す。
ネームプレートをTOYODA自動車の総務部のデスクに置いて。
宮内への思いと共に。
大きく南側に取られた窓から外を見た。
茶色く濁った広葉樹が一枚、雨上がりの雫を、差した陽に光らせながら、風にさらわれていった。
【Ⅳ】 総務部 ~陽子の場合~ 完