-fulane-様からのリクエストです。ありがとうございます!!
モブ出てきます。西のヒーロー3人にいつも任務で庇われる事を後ろめたく思ってる💡さんのお話。ちょっとだけ過呼吸の描写あります。今までで一番長いのでスクロールがんばれ!!
inm視点
何も考えずにスマホを触っていると、SNSでちょっとだけオレが話題になっている。オレ、何したっけ。あれかな、道でお婆ちゃん助けてあげたとか、小さい子が手を離して飛んでいった風船を取ってあげたとか。ヒーローとはいえ、敵を倒す以外にもちょっとしたことが話題になるって嬉しいな……
「………………は?」
知らない。何この情報?SNSで共有されているニュースの見出しには『伊波ライ、ヒーロー失格か』と書かれていた。そのような見出しを掲げられることをした記憶はまるでない。タイトルだけで頭が痛くなってしまったオレは、そのままスマホを机に置いて任務へ出掛けた。
「ありがとうヒーロー!!」
任務で助けた子どもとその親と見られる人の対応はいつも通りだった。オレに差別してくる訳でもなく、むしろ優遇してくれている。
「ヒーローさん、お疲れでしょう?」
「いやぁ、そんなそんな。皆さんの笑顔に救われてます」
「これ、私たちの村の特産品なんです。一杯だけでも」
そういって差し出してくれたお茶は、とても魅力的に見えた。敵を倒すのに大量の体力を使ったから、喉がカラッカラで……いやいや、オレはヒーロー。1ミリの隙も見せてはいけない。
「ありがとうございます。お気持ちだけ受け取りますね」
「そうと言わず、是非。本当に美味しいんですよ」
「ヒーローのお兄ちゃん、飲んでくれないの…?」
大丈夫ですと断ろうと思ったら、この子どもの上目遣い。お言葉に甘えて……と手にとって飲んだ。久しぶりに本格的なお茶を飲んだ。おいしい。
「ん!とっても美味しいです!!」
「ほんと!!やったあ!!」
「よかったね。お前が淹れたんだもんね」
どうやら子どもの方がお茶を淹れたらしい。村の文化って理解し難くて、どこか不思議だと思う。カゲツの忍者村も、まだまだ知らないことばかりだし。
「良かったらこのままゆっくりしていただいて」
正直このままココで休憩したかった。今日はこれ以外に用事はないし、拠点に戻るとあのスマホのことをまた考えなきゃいけないから。
「じゃあ…」
「ライ、帰るよ」
「星導!?なんでココいるの」
「いいから、いくよ。」
星導に背中を押されるオレの腕を、子どもが引っ張った。それを見て星導はニッコリ笑い、子どもに話しかける。
「すみません、ライはこれからもう一つの任務があって」
「お兄ちゃん、いっちゃうの?」
「うん、ごめんなさいね」
星導に勝手に話をつけられ、村から遠ざけられる。お茶を出してくれた子どもとその親と見られる人は顔を合わせて呆然としていた。その親から舌打ちのようなものが聞こえたのは、気のせいだろうか。
「ちょ、星導?オレ、まだ村の人たちと話し終わってないよ?」
「そんなことはいいの」
「良くないよ、オレ今日は任務ないし」
「ライ、お茶飲んだ?」
へ、と情けない声が出る。まさか。
「…助けた子ども、ほんとに人間だった?」
う、うそ。そんなバカな。後ろを振り向くと、そこに村なんてなかった。さっき助けてあげた子もお茶を出してくれた施設も、そんなものは何処にもない。なんで?さっきまであったのに。そんなはずはない。探しに行かなきゃ。そう思って駆け出そうとしたオレを星導は掴んで離さない。
「嘘だ。嘘だ嘘だ、信じられない」
「落ち着いて。慌てる理由も分かる」
「抜刀」
「!?」
村があった方向を見ていると、後ろから聞き慣れた声が聞こえた。振り返ると…やっぱり、小柳だ。
「危なかったですね〜小柳くん。ナイスです」
「うるせぇ。早く帰るぞ、ココ危険すぎ」
「ちょ、何の話してるの?オレ何も見えないんだけど」
2人の話を聞いている限り、どうやら妖魔、そういう系の怪異による現象らしい。オレが経験したのは紛れもない事実なんだけど、それはパラレルワールドみたいなところで起こった出来事で…って、何やら難しいことを教えてもらった。色々伝えてもらったが、妖魔が見えないオレには理解が到底出来なかった。さっきロウが抜刀したのもオレには見えていない怪魔を斬ったそう。助けられてもらっちゃった。帰る道中、足を引きずられているような感覚に陥ったが秘密にした。これ以上心配をかけたくなかったから。
「いなみそ?」
拠点で休んでいると、カゲツがオレの様子を見に来た。
「何かついてんで」
「え?どこ?取って」
「そうじゃなくて。しっかり憑いてる。狼にとってもらい」
「うぇ、マジ?」
「うん、はよせんと。どんどん強くなってきてる。な、おおかみ?」
「なんでバレてんだよ」
「ええから。早く治してあげて」
「うい」
やっぱり次元が違うな、と思った。ロウが居たことも全く気付かなかったし、取り憑かれていることもさっぱり。オレはただの人間なのに、彼らは人間を超越したスキルを持つヒーローだから。また、助けてもらっちゃった。
「はい。終了」
「足どうなった?」
「わ、軽い。ありがとう、カゲツもロウも」
「ん。俺任務行ってくる」
もう一つ任務があったらしいロウはすぐ拠点を出ていった。カゲツはそのような任務はないらしく、オレと一緒にゆっくりしてくれている。暫く寝転がっていると、星導が帰ってきた。
「どうやった?」
「どうやら新手の怪異みたいですよ」
「やっぱり。敵も進化していくもんやな」
「ですね。俺等も対応強化しないと」
オレがゆっくりしている間、オレに起きた出来事を調査してくれていたらしい。また、サポート貰っちゃった。
「あのー、すみませーん」
拠点の外から大きな声が聞こえる。立ち上がろうとするオレをカゲツが止めた。
「ダメ。隠れて」
「え?」
「僕とタコでなんとかするから」
「でも」
「絶対出てきちゃダメ。ソファの裏とかで良いから隠れてて。耳も塞いだ方が良いと思う」
あまりにも真剣な眼差しで言われたものだから、オレは困惑しつつも了解の一言しか発せなかった。静かにソファの裏に回り込み、耳を塞ぐ。
「だから、ライは居ませんって」
耳を塞いでも聞こえてくる星導とカゲツの声は、怒っているように聞こえた。
「そんなのウソでしょ。そもそもライはそんなことせんし」
「とにかく帰ってください。どうやってココまで来られたんですか?ヒーローのプライベートはお断りですよ?」
「そやぞ。警察呼ぶけど?」
ふと今日の朝のニュースを思い出した。あの、ヒーロー失格の、ニュース。あ、あれ。もしかして。震えた手でスマホをポケットから取り出し、SNSを開く。
「伊波ってヒーロー、いらなくね?」
「またあいつやらかしたの?」
「正味西の中で一番弱いよな」
「正直要らん」
や、そんな、なんで。オレ、何かしたっけ?まさか、オレ、また迷惑かけちゃってる?また、あの3人に?そんなの、
「っハァッ………はあっ………」
あれ、呼吸って、どうや、あれ?上手く、吸え、
hsrb視点
急に拠点に来たのは若い青年からお婆さんまで、大人数。ライの所在を確認したい、とのこと。ライはどこだ。あいつを許すな。あなたにとってもライは邪魔でしょう?
「心外ですねぇ。そんな事言われるなんて」
隣のカゲツを横目で見ると、彼は涙を浮かべそうになっていた。それは仲間を侮辱されたことによる怒りだろうか、悔しさだろうか。
「ライ、今誹謗中傷えぐいねん。本人は気づいとるか分からんけど。よくもまあこんなデマ情報で騒げるよな」
今日の朝、カゲツがポツリと溢した台詞を思い出す。あぁ、そういうことか。この人たちは、誰かが呟いたウソの情報を完全に信じ切っている、かわいそうな人たちだ。
「とにかく帰ってください。どうやってココまで来られたんですか?ヒーローのプライベートはお断りですよ?」
「そやぞ。警察呼ぶけど?」
それでも帰らず、でも、でも、と反論してくる市民たちに腹が立ったのか、ついにカゲツが怒鳴った。
「ライはな、立派な人間やねん!!お前らと同じ、人間!!!やけど、そんなデマ情報に流されんで、今日も人助けをしとる。僕らが足を引っ張ってないって言っとんのに、一番ずっとライと一緒にいる僕らが主張しとんのに、なんで信じてくれんの?ネットの情報が全てなん?今日ココに違法侵入して凸りに来たのも、僕らの話を納得してくれんのも、全部ライのデマ情報を信じ切ってるからなん?なあ!!」
「カゲツ、落ち着いて」
あ、とカゲツが我に返る。目の前には唖然としている市民がたくさん。すみません、と一言謝って、カゲツは扉を閉めようとした。
「あ、でも、これだけ言わせてください。ライはそんなことするような人じゃないです。皆さんと同じ人間だから、ちょっとヘマくらいはします。やけど、僕の大事な大事な仲間です。二度と侮辱しないでください」
聞き惚れる…というか、上手い表現が見つからないが、市民は先程の態度とは正反対になっていた。普段あまり怒らないカゲツだったから、説得力が増したのかも。俺も市民たちにご挨拶をして、扉を閉めた。
「やりすぎた」
「そうですか?かっこよかったですけど」
「なんや、バカにしてる??」
「ううん、本心」
朝不満そうにスマホを見ていたカゲツの姿とは一転、今は言いたいことも言えてスッキリしているように見える。満足しているのも束の間、ライの様子がおかしいことに気がついた。
「タコ」
「はい、俺が行きますね」
「おねがい」
そばに行くと、ライは蹲って過呼吸になっていた。近くに落ちているスマホの画面にはたくさんの誹謗中傷が浮かんでいる。
「ライ、俺の声聞こえる?」
ひゅっと短い呼吸に苦しんでいる様子は、こちらも苦しくなるほどだった。不安にさせないよう、なるべく低いトーンで話す。
「聞こえてるなら俺の手握って」
微かに握られた指の感覚を感じ取って、ライの視線を一点に集中させる。
「俺見て。俺に合わせて息吸って……吐いて」
「はぁっ…………っっハァ……」
「うん、上手。俺が居るから安心して?」
「っ……ひゅっ………っは………」
ライの呼吸が安定してきたと思えば、彼の目からは涙が溢れている。驚いたが、動揺を見せてはならない。不安から始まる過呼吸の症状は、いかに安心させるかで全てが決まるから。
「吸って…………吐いて………」
「はあっ……………っ………」
「よし。良く出来ました」
「ほしるべぇ……………っ」
「わ」
どうしたんですか、と聞こうと思ったが、その理由は知っている。まるで幼児のように俺の太ももに突っ伏して泣いているライは、誰よりも人間味の強いヒーローだと感じられた。ふと周りを見渡すと、小柳くんは帰ってきており、カゲツと一緒に俺たちを見ている。その様子に気づいたのか、ライは2人を呼ぶ。気持ちをしっかり伝える決心ができたようだ。
「オレ、みんなと違って普通の人間で」
「そしたらなんか、いつの間にかオレの存在疎まれてて」
「そういえば最近、3人に助けて貰ってばっかで」
「オレ、ヒーロー向いてないのかなぁって…」
止まらない涙を永遠に拭いながらライは説明する。それを見守る3人の図は、どこか不思議で違和感を覚えた。
「ライは、俺たちのことヒーローだと思ってます?」
頭にはてなを浮かばせながら頷くライ。当たり前じゃん、と言わんばかりの顔である。俺の意思を継いだかのようにカゲツと小柳くんが口を開いた。
「じゃあライを庇って何が悪いん?」
「ヒーローは助けてなんぼの世界じゃね?」
「僕はヒーローがヒーロー助けちゃいけないなんて決まり無いと思いまーす」
「俺もそう思いますね〜、小柳くんは?」
「もち、俺も。ライ、お前は?」
一瞬戸惑ったような顔をしたが、流石ライ。拭いきれていない涙を添えながら、思いっきりの笑顔で答えた。
「うん!オレもそう思う!」
「じゃあそういうことで。いくらでも僕ら頼ってな?」
「えぇそれはなんか、申し訳ない…」
「じゃあアイスでも奢って」
「それは話が違うじゃん!!」
「伊波くんはアイスを買ってくれませんでしたってネットに書き込んどくわ」
「それギリ触れづらいから辞めろ!!!」
拠点には4人分の幸せな笑顔が溢れた。
コメント
4件
こうゆう時に少し強めに言い返すカゲツ解釈一致がすぎる、、🫶🫶🥹
意図してないと思いますが少しタコニック要素多めでにっこり🫶🫶😭これぞ💡の愛され(?)で凄く好きです…🫵💞