テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#能力者
紅優
292,236
23,738
230
#krpt
龍彩
114
八月。
朝から蝉がうるさいくらい鳴いていた。
カーテンの隙間から差し込む光が眩しくて、思わず顔をしかめる。
「今日は暑くなりそうだな〜。」
制服じゃない服を着るのも、夏休みだからだ。
スマホを見る。
《今日、小学校集合ね!》
《タイムカプセル掘り起こす日だから忘れないで!》
グループLI〇Eには、朝から通知が並んでいた。
日差しがジリジリと指す中、
久しぶりに歩く通学路。
小学校の頃は毎日のように通っていたのに。
高校生になった今では、この道も、一年に数える程しか来なくなった。
「うわー!変わってない!」
「いや、お前の方が変わってないだろ!」
「先生まだいるかな?」
笑い声が懐かしい校庭いっぱいに響く。
「あっ先生〜っ!」
先生「みんな久しぶり。」
「覚えてる?」
「六年生の最後の日に埋めたタイムカプセル。」
「今日はそれを掘り返します。」
スコップが土にささる。
「ここじゃない?」
「もっと右!」
「あった!!」
みんなで笑う。
私達は既に、泥だらけになっていた。
木箱には
『二〇××年度 六年三組』
と、少しかすれた文字が残っていた。
みんな写真や手紙、それぞれが入れた思い出の品を取り出して、懐かしさに浸ったり、笑い合ったりしていた。
「…あった、!」
私も自分の名前が書かれた封筒を見つけた。
…その時だった。
私が書いたであろう封筒のすぐ側に、小さい木箱が添えられていた。
誰の…?
木箱を開けるとそこには何枚も手紙が入っていた。
白い封筒。
少し日に焼けている。
宛名を見るとそこには、
『貴方へ。』
と書かれていた。
「…?」
「どーしたー?et〜」
差出人の名前はない。
「いや…これ、誰の?」
そう聞いても、
誰も反応しなかった。
みんなで思い出話に花を咲かせているうちに、
気づけば校庭は茜色に染まり、
夕日が私たちの影を静かに伸ばしていた。
「また会おうな〜!」
「おう!」
「またね!!」
そう、別れの挨拶を交わす。
今日という一日が終わろうとしていた。
「結局…この木箱、誰のだったんだろ。」
自分の手の中にある木箱を見て、そうつぶやいた。
「まぁ、家に帰って読んでみるか!」
そう思って、私も懐かしい小学校をあとにした。
家に帰ると、私はリビングのソファに鞄を置いた。
「ただいま。」
返事はない。
お母さんはまだ仕事だ。
静かな家に、時計の針だけが規則正しく時を刻んでいる。
制服から部屋着に着替え、水を一口飲む。
机の上には、小学校から持ち帰ってきたタイムカプセルの箱。
みんなはきっと、自分宛ての手紙を読んで笑っている頃だろう。
私は自分の手紙には目もくれず、誰のかわからない、あの木箱を手に取った。
中に入っていた手紙を見る。
『貴方へ。』
名前のない宛名。
たった三文字なのに、不思議なくらい目が離せない。
…誰が書いたんだろう。
いたずら?
それとも、入れ間違い?
少しだけ迷ってから、私は封筒の口をゆっくりと開いた。
古い紙の匂いが、ふわりと鼻をくすぐる。
折りたたまれた便箋を開く。
そこにはーー。
“今日も神社にいたね。
貴方はラムネを落として、
「またやっちゃった」って笑ってた。
私も、つられて笑っちゃった。”
ただ、それだけ。
日常を切り抜いたような文章が綴られていた。
「…ラムネ?神社、?」
「…あ、」
そんなことがあったような気もする。
「懐かし…笑」
「でも…誰が、?」
封筒を裏返す。
名前はない。
「誰かのいたずらかな。」
そう思って箱へ戻そうとする。
…
でも。
“今日も神社にいたね。”
その一文だけが、頭から離れない。
時計を見る。
まだ夕方。
窓の外を見ると、神社の鳥居が少しだけ見える。
「…行ってみようかな」
神社に着くと、風鈴の音が聞こえた。
ここは昔からいくつもの風鈴が飾られているらしい。
辺りを見渡しても、もちろん誰もいない。
でも…
ベンチの横にラムネの瓶が一本落ちていた。
「…。」
なんとなく、拾ってしまった。
その時。
神主さんであろう人に声をかけられた。
「懐かしいね。」
「え?」
「昔は毎日のように…色んな子達が遊んでたから。」
夜。
家に帰った私は、ベッドに寝転がった。
でも。
木箱が目に入る。
「…あと一通だけ。」
“今日、貴方が転んだ子に手を差し伸べてた。
「大丈夫?」って。
あの一言だけで、その子は泣き止んでたよ。
貴方は気づいてないだろうけどね。”
「えっ、そんなことあったっけ?」
でも、“気づいてないだろうけどね。”
その一文がひっかかる。
「ずっと…見てくれてたのかな?」
別に、その子に会いたいわけじゃない。
ただ、誰なのか気になってしまう。
「う〜ん…」
気づけば私は、そのまま眠りについてしまった。
目が覚めると、朝になっていた。
手には昨日読んでいた手紙。
好奇心、といったところだろうか。
朝起きてすぐ、三通目の手紙に手をのばしていた。
“夏祭り。
橙色の浴衣、すごく似合ってた。
話しかけようと思って、
何度も近くまで行った。
…結局、勇気が出なかった。”
「夏祭り…?近くに…いた、?」
昔の写真を見る。
夏祭りの写真。
そこに、誰か写っていないか探してしまう。
でも、
どんな子かわからない。
全く…記憶にない。
四通目を読む。
“貴方は空を見るのが好きなんだね。
私も、貴方が見上げる空を見るのが好きになった。”
読む手がとまった。
窓の外を見る。
限りなく広がる青い空。
「…なんでこんなに綺麗なの?」
手紙も、空も、どちらも綺麗だった。
私は書いた子のことを知らないはずなのに。
どうしてこんなに胸が苦しいのだろう。
蝉の声だけが、やけに大きく聞こえた。
あの日から、三日が過ぎた。
中々…次の手紙に手をのばせなかった。
「et〜おばあちゃん来たわよ〜!」
お母さんに呼ばれる。
「あっ、いらっしゃい、!」
「おばあちゃん!!」
「お出迎えありがとうねぇ。」
「昔から…よくお友達とこうしてお出迎えしてくれてたわねぇ。」
「…昔から、?」
「えぇ。ピンク髪の女の子とよく遊んでいたじゃない。」
「…ピンク髪、?」
何か…何かひっかかる。
その時、『あの手紙』を思い出した。
まさか…、?
「さ、さ!おばあちゃんあがって、!」
「暑いでしょ、?」
お母さんが話を切るようにおばあちゃんを家の中へ招き入れた。
“今日、君が笑った。
その瞬間、
夏が少しだけ明るくなった気がした。”
「そんな風に思ってくれてる子がいたんだ…」
涙はでない。
けど、胸が温かい。
気づけば私は、手紙を読んでいた。
“空を見上げる度に、
貴方のことを思ってしまう。
もう癖みたい。”
“貴方は、名前を覚えてるかな。
私は、初めて貴方に名前を呼んでもらえた日を、
ずっと覚えてる。”
息が止まる。
「私 ッ 、私 …」
「名前…わからない、。」
友達に連絡する。
《ねぇッ、私がさ昔仲良くしてた子の名前とか…特徴とか…覚えてない、!?》
だけど。
これといった手がかりは見つからなかった。
「お母さん、!おばあちゃん、!」
「その…ピンク髪の女の子の名前って覚えてない、!?」
「…」
お母さんもおばあちゃんも答えなかった。
きっと二人も覚えてないのだろう。
それからも、手紙を読み続けた。
“貴方は誰にでも優しい。
だからきっと、
私だけ特別じゃない。
それでも嬉しかった。”
涙が一滴落ちる。
「ごめん…。」
何に謝っているのか、わからない。
でも、
謝りたくなる。
“今日、卒業アルバムの写真を撮ったね。
「また会おうね。」
みんな笑って言ってた。
私も笑った。
……言えなかったけど。”
「卒業アルバム、!」
必死にクラス写真を見る。
それでも…
わからない。
気づけば私は走り出していた。
貴方の書いた手紙が詰まった木箱を片手に。
「いってきます ッ 、!!」
「先生、!」
「あら…et彡、?」
「どうしたの…?」
「あのッ 、あのッ …」
「六年三組に…ピンク髪の女の子っていましたか?」
「…いたわ。」
「けど…、」
先生の口が動く。
「…あの子、桃井na彡は」
「卒業してすぐに亡くなったの。」
その一言が耳に届いた瞬間。
何かが、頭の奥で音を立てて崩れた。
世界の音が消える。
違う。
違う。
そんなはずない。
あの子は──
ーー誰?
その問いが浮かんだ瞬間だった。
夏祭りの笑い声。
ラムネの瓶が転がる音。
校庭を吹き抜ける風。
泣きじゃくる誰か。
白い花。
黒い服。
焼香の煙。
「なんで……。」
次々と記憶が溢れ出す。
止められない。
止まらない。
「やだ……。」
私は耳を塞いだ。
目を閉じた。
それでも。
あの日の景色は容赦なく蘇る。
棺の前で泣き崩れる私。
「嫌だ……!」
「起きてよ!」
何度呼んでも返事はなくて。
大人たちは静かに涙を流していて。
私はただ、
「嘘だ。」
その言葉だけを繰り返していた。
思い出した。
違う。
忘れていたんじゃない。
忘れようとしていただけだった。
会いたかった。
会いたかったんじゃない。
もう二度と、会えないことを、私は知っていた。
だから。
だから全部、心の奥に閉じ込めたんだ。
膝から力が抜ける。
息ができない。
涙が止まらない。
「どうして……。」
どうして忘れちゃったの。
どうして名前まで。
どうして。
あんなに大好きだったのに。
泣き崩れている私の足元に、
一通の手紙が落ちる。
“貴方の未来は、
きっと今よりもっと素敵になる。
だからお願い。
これから先も、たくさん笑って。”
「無理だよ ッ’ … na彡 ッ” 、!! 」
「na … ッ 、!na … ッ 、!」
気づけば私は
神社のベンチで一人、泣いていた。
貴方からの手紙を読む。
“貴方は知らないよね。
私は、
貴方を見ているだけで十分だって、ずっと思おうとしてた。
…..でも、本当は違った。
一度だけでいい。
貴方と、
二人だけの、
私が貴方の隣にいる
夏の思い出を
作ってみたかった。”
「私も … 私もだよ ッ 、」
涙が止まらない。
震える手で、最後の一通を手に取った。
“貴方へ。
この手紙を読んでいる頃の貴方には、きっと私はもう会えない。
それでも、
この気持ちは残しておきたかった。
貴方が笑うたび、私も幸せだった。
貴方が泣く日は、
代わりに私が泣きたかった。
そんなこと、
一度も伝えられなかったけど。
貴方はきっと、
私のこと忘れちゃったよね。
それでも大丈夫。
貴方がこれからも笑ってくれるなら、それだけで十分だから。
…なんて、最後まで強がれたらよかった。
本当は。
一度だけでいい。
貴方に
「好きです」
って伝えたかった。”
私は静かに封筒を閉じた。
夏の風が髪を揺らす。
「ねぇ、遅いよ。」
「私…」
「今更好きになるなんて…遅すぎるよッ 、」
涙が零れる。
「でも…」
「貴方を知れて…良かった。」
「ありがとう。」
返事はない。
けれど、風がひときわ優しく吹く。
涙を拭って、小さく笑う。
私はもう一度、空を見上げた。
あの日と何も変わらない夏空は、嫌なほど澄んでいた。
コメント
15件
na彡、そっか…、 et彡が思い出すとこ…めっちゃ好きっ!!😭 ほんとに最高っっ しーちゃん天才だね😭😭 涙涙だよぉっ(T ^ T)
え、好きすぎる……🫶😭
やばい、大好きすぎた…😭 もう、感動系大好きなの!! na彡……😭et彡の気持ち伝わりすぎて…もう…!!3回は読んだ、もう、好きです🫶