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ふう…
ため息と共にパソコンを閉じた。
先日、同じグループのメンバーのYouTube登録者が10万人を超えた。
それはもちろん嬉しいし、誇らしくもある。
他のメンバーも順調に登録者数を伸ばしており、近いうちに10万人に到達するだろう。
自分も着々と登録者数を伸ばしており、1人で頑張っていた頃に比べたら目まぐるしいほどの伸びだ。ありがたいと思っている。
しかし他のメンバーと比べるといまいち劣っているのは明らかだ。
自分は他のメンバーとは少し毛色が違っていた。
それはメンバーたちも承知していて、そのうえで迎え入れてくれている。
メンバー達に慕われていることを疑っている訳では無い。頼りにされているとも感じている。
最年長なこともあるし、頼られるのが嫌ではない。むしろ頼って欲しい。
でも
「俺、いつまであいつらといられるんやろうな。」
他のメンバーは自分を追い抜いて行く。
いつか、自分は必要とされなくなるのではないか、そうなったらどうしたらいいだろう。
そんな暗い考えが、時々、本当に時々浮かんでくる。
「あー、やめやめ。柄じゃない。」
頭を振って何とか暗い考えを追い出し、気分転換にとコンビニへと向かった。
カタン、と小さな音が聞こえた気がした。
「ん…?」
音のした方を向くと、何かが光った。ビルの隙間に小型の額縁が立てかけてあることに気が着いた。街灯の光が反射してひかっていたらしい。
額縁には1枚の風景画がはいっていた。草原の真ん中に湖。そして、湖のなかには腰まで水に浸かった1人の少女が描かれていた。
少女はどことなく悲しげで、自らの手に掬った水を眺めていた。
何故か、目が離せなくなった。
気が付くと、悠佑はその絵を持ち帰っていた。
帰宅すると、悠佑はその絵をリビングの壁に掛けた。
「今まで絵画なんて興味なかったのにな。」
なのに。どうしようもないくらい惹かれていた。
どのくらい眺めていただろう。
ふと、絵の中の少女が顔を上げた。
悠佑の目と、少女の目が合う。
悠佑の足が、額に向かって1歩前へでた。
「んー…」
ないこは困惑していた。
今日はメンバーとの打ち合わせがあるのだが、悠佑が来ない。
今までも配信で遅くなったり、滅多にないが寝坊して遅れることはあった。だがそんな時は必ず連絡してくる。昨日用があって電話した時はなにも言っていなかったし、今日は配信日でもなかったはずだ。
「アニキ、連絡つかないん?」
ifが心配そうに聞いてきた。
「うん…。電話にも出ないんよ。」
「どうしたんだろ。また、頑張りすぎて倒れてたりして。」
「ちょっと、りうちゃん縁起でもないこと言わないでよ。」
「うーん、有り得なくもないからな。ちょっと様子見てきた方がいいかな。」
「じゃあ、りうらも行く。」
「あ、じゃあ俺も…。」
「いや、あんまり大勢で行ってもな。とりあえず俺とりうらで行ってくるわ。」
「わかった。なんかあったら連絡して。」
「わかった。」
悠佑の家のチャイムを押すが、反応はなかった。
念の為と持ってきた合鍵をさしこむ。
「あれ、開いてる…?」
家の鍵はかかっておらず、すんなりとドアが開いた。「…アニキー…?」
玄関で声をかけるが、やはり反応はない。
変だ。
2人は慌てて上がり込み、手分けして家の中を見ることにした。
悠佑の部屋のドアを開けるif。悠佑の姿はない。部屋が荒らされている様子はなく、少しだけほっとした。
パソコンは閉じられている。キーボードの横には飲みかけのコーヒーが入ったマグカップ。まるで今まで誰かがいたような光景だった。
しかしコーヒーは冷めきっており、椅子に人の温もりはない。なんとなく湧き上がる不安を抱えながら、ifは悠佑の部屋をでた。
「アニキー」
何故か小声で悠佑を呼びながら、りうらは片っ端からドアを開けて行った。トイレ、浴室、納戸。どこにも悠佑の姿はない。
「ん?」
リビングまで来て、首を傾げる。
ママにきと言われるだけあって、悠佑の家は掃除が行き届いている。キッチンシンクにも洗い物はひとつもない。なのに、リビングのテーブルの上にコンビニの袋が無造作に置かれていたのが気になった。
なかにはメロンパン。レシートを見ると、昨晩購入したもののようだった。
辺りを見回すりうら。
と。
何かが気になった。
あれ、今…
「りうら?」
ifに声をかけられ、りうらの感じた違和感は霧散した。
「まろ、なにかわかった?」
「いや、特には…。そう聞くってことは、こっちも何もなし、か。」
ifが舌打ちしながら頭を掻きむしっている。
「とりあえずこれ以上の収穫は無さそうだし、一旦帰るか。」
「そうだね。ひょっとしたら行き違っただけかもしれないし。」
しかし、5日たっても悠佑の行方は分からなかった。