少しクセのある圭太の文字。
《これからは、父さんも母さんも自分の好きなように生きてね。どこにいても僕は父さんと母さんの子どもだから。僕のことは心配しなくていいよ》
「……だってさ」
「なに、一人前にませたこと言ってるんだろう、圭太ったら」
「確かに。いつのまにか大人になったんだな。当たり前と言えば当たり前だけどさ」
◇◇◇◇◇
圭太が大学に合格したときに、実はお父さんとは離婚してるから法律上は他人なのよと説明してある。
「そんなことは別にどうでもいいよ」
わりと重大な告白をしたのに、興味がなさそうな圭太の返事だった。
「そっか、お父さんとお母さんだということは変わらないもんね」
「顔に“妻”“夫”みたいな表示がしてあるわけでもないし。もしも、してあったとしても生活するのに必要じゃないから。僕にとっては父さんは父さんで母さんは母さんなんだし」
なんて言ってたっけと、その時のことを思い出した。
◇◇◇◇◇
あれから四年。
圭太なりに考えるところがあったということか。
「なぁ、あれかな?圭太は俺と杏奈が、圭太のために無理して一緒に暮らしてると思ってたのかな?」
「もしかしてそうかもしれないね。だから自分が家を出ていけば、もう一緒に暮らす必要もないから好きにしていいよってことかもね」
しばらくの沈黙。
「……で、どうする?」
雅史が改まって私の正面に座った。
「どうって?」
「養育費はもういらないけど、慰謝料も払えるくらいは貯金できただろ?杏奈は晴れて家を出ていくことができるんだよ?」
「んー、どうしようかな。あなたはどうしたい?私に出ていって欲しい?」
私も正面からしっかりと雅史を見て話す。
「いや、できるならこのまま一緒に暮らしたい」
私は思わず雅史の目を見つめた。
その目線からは、冗談ではないということがわかる。
あんなに苦しい時期があったのに、時間はゆるゆるとその思いを薄めてくれたようだ。
「なんだ、気が合うね!私もそう思ってたとこ」
「………ぷっ!」
「あはは!」
同じことを考えていた、そのことがプロポーズの時よりうれしかった。
ただよう優しいコーヒーの香りが、これから先の雅史との穏やかな時間の流れを暗示しているようだった。
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