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無言で見つめ合う両者の間に投げ掛けられた声は善悪の物である。
「途中下車とか…… 何やっているのでござるかコユキ殿! むむっ? どうしたの、何か揉めてるのでござるか?」
四月目前とは言え、北海道はまだまだ冬真っ只中である。
だと言うのに現れたスキンヘッドの大男は上半身裸で下は紫の作務衣に白足袋(たび)草履といった狂っているとしか思えない出で立ちであった。
更に両手には黒と白の念珠をしっかりと握り込んだ、どこぞやのキンニ君並みのムキムキマッチョの狂人の登場である。
多少やんちゃな位の高校生達には刺激が強すぎたのであろう、慌てて線路に飛び降りると後ろも振り返らずに大自然の中を駆け去って行ったのである。
「逃げたって事はやましいのは自分達って認めたって事ね、良かったわね、アンド、いいえオンドレ」
「は、はい姐(あね)さん、と、ところで、こちらの暑がりの方ってお知り合いですか?」
オンドレと呼ばれた虎大(こだい)と彼の後ろに隠れている竜也(たつや)から見てもムキムキ善悪は極端に寒さに強い狂人に見えている様だった。
コユキはニヤニヤしながら言う。
「アタシの相方の聖戦士、善悪よ、心配しなくても良いわよ、こう見えて狂っている訳じゃ無いからね、多少おかしいのは認めるけど」
「酷い言い方でござるな、突然降りたから心配して走って戻ったっていうのにさ、しかも美ボディ化までしたのに、がっかりでござるよ」
言い終えると善悪は両手に握り込んでいた念珠を広げ、重ねて首へと戻すのであった。
当然ムキムキだった体はいつも通りの丸々とした肥満体型に戻る。
この一瞬の変化に再び目を見開いて驚きを現す虎大と竜也である。
まあ、普通の人間にはこんな真似できないから仕方ないね。
未だにコユキの影から出てこない兄弟の顔つきを見た善悪は得心がいった感じで言った。
「なるほどね、虎大君と竜也君、いわゆるオンドレ君とバックル君でござるな、そりゃ飛び降りても仕方が無いのでござるよ、探し始めてそろそろ一年だもんねー、でござるかぁ」
「そうなのよ、ドアが閉まる直前にこの子達の声が聞こえたからさ、反射的に飛び降りちゃったって訳よ! 緊急事態だったからさ、んでも心配させちゃったわよね、メンゴメンゴ(昭和)! ところで他の皆は? 中富良野の駅で待ってるの?」
いつも通りの体脂肪を取り戻した善悪は震えながら答えた、脂肪は冷えるのだ。
「ううん、はぐれても困るからってこっちに歩いて向かっているのでござるよ、おお寒っ! 慌てて先行して走って来たでござるが上着まで脱いで来ることは無かったでござるよ、ぶるるっ、んまあ三キロも無かったしそろそろ――――」
「おい善悪、上着拾って来てやったぞい、ほれ、ドテラも」
丁度到着したトシ子が放ってよこした作務衣のトップスとペラペラのドテラを受け取り、慌てて身に付ける善悪である。
そうしている内に四人のレグバも到着したようだ。
コユキが虎大に向けて言う。
「オンドレ、こっちが家(うち)のお婆ちゃんよ、これから一緒に暮らす事になると思うからさっ、後ろの四人とは短い付き合いになるだろうけど一人以外は帰り一緒に行動するからね、挨拶しときなさいよ、ほら竜也もね」
「皆さん、よろしくお願いします、竜也です、どうぞバックルとお呼びください」
「お世話になりやす、虎大といいやす、理由は皆目分かりやせんが、姐さんからはオンドレと呼ばれておりやす、お見知りおきを…… ってさっきから気になって居たんですが、姐さんと善悪のおやっさんは一緒に帰らないんですかい? 他にお二人で回る所とかあるんでしたら俺達お供しやすぜ」
コユキは歯切れ悪く誤魔化すのであった。
「うん…… これからね、ちょっと大物の悪魔に会いに行くんだけど…… そこでちょっと、ね…… 兎に角、アンタ等はお婆ちゃんやアスタ、バアルと一緒に幸福寺に帰ってお父さんとお母さんに会うのよ! 良い、分かったわね? アンタ達も頼むわよ、って、あれれ? お婆ちゃん、アスタとバアルは?」
話していて気が付いたのだが、アスタロトとバアルの姿が無かった。