続きです。
⚠️今回、旧国しか出てきません。演出上、
ソ連×日帝みたいになってしまった場面があります。以上、苦手な方はブラウザバックお願いします。⚠️⚠️かっこいい日帝はいません!
今回は(少なくとも)この世ではないところが舞台となっております。
何卒……
………おそらく死後の世界とはこういうものを言うのだろう、とソ連は考えた。
開け放した窓から、緩やかに風が吹き込んでくる。窓の外は晴れていた。穏やかな日光が一面に降り注ぎ、真っ白な雲が、透き通るような青空に浮かんでいる。目の前は草原だった。青々とした短い草が敷き詰められたように生えており、所々には赤や黄、桃色などの色鮮やかな小花が群生していた。
再び、その草原を波立たせるように渡って来た風が窓から吹いてきた。ソ連の頬を優しく撫でていったそれは、机上に置いた本のページをも数枚めくった後、部屋の中に吹き込んだ。甘美な香りまでしてくるように思える。
今、ソ連は、窓に面した机で本を読んでいた。優しい日の光が一文字一文字を照らしている。部屋の中には、紙のページのめくられる音しかなかった。静かで、穏やかな空間だった。まるで世界中の“静”を集めてきてこの部屋の中に詰め込んだような。もう、ずっとこうやって本を読んでいた気がするし、ついさっき読み始めたような気もする───不思議な感覚のするひとときだった。
「………」
フゥ、とため息を吐いたソ連は本を閉じ、伸びをした。それから部屋の中を振り返り、部屋の奥にいる彼に話しかけようとした、その時だった。
「まーたお前は腐った納屋で本読んでんのかぁ?なぁ、ソ連?」
突如として、静寂は威勢のいい声によって破られた。あまりにも聞き馴染んだその声を窓の外に聞いたソ連は、条件反射のように顔を顰め、「げ」と呟いた。おもむろに机の上に身を乗り出すようにして窓枠に手をかけると、外を見回す。声の主は、すぐ窓の外に立っていた。予想通りの相手だった。ソ連は、呆れたような声で彼の名を呼んだ。
「ナチス……」
「よぉ、久しぶり」
右手を挙げた彼は、人懐っこそうな笑顔をソ連に向けた。ソ連が呆れたように笑う。
「またお前来たのかよ……」
それに対し、ナチスは頬を膨らませるようにして、
「だって暇だったから」
と、簡潔かつ明瞭に答えた。そのあまりの潔さにソ連は苦笑した。
「イタ王とかいるだろうが。んでいつも俺んとこ来るんだよ」
「はぁ?いつも行ってねぇだろうが!テメェが外に出なさすぎなんだよ。あとイタ王はピザ作りに熱中してたから声かけなかった」
「声かけてやれよ……あと俺は別に外出する用なんて無ぇから外出しないだけだし」
「出ろよ!この出不精めが」
「は?毎朝空気吸いに外くらい出てるし!」
「テメェ馬鹿かよ⁉︎ 俺が言ってんのは他人と交流持てってことだよ!」
その言葉を聞いた途端、ソ連がキョトンと首を傾げた。
「他人との交流ならもうしてるぞ?」
「は?」
一瞬、ナチスは眉を顰めた。
「いや……意味わかって言ってるのか?……俺以外で、だぞ」
「いや、それは……お前以外とだよ?」
「は?」
ナチスが、何を言っているか分からない、と言うような顔をしてソ連を見た。ソ連は身を引いて部屋の中を見せた。
「ほら」
得意げなソ連を傍に押しやるようにして部屋の中をのぞいたナチスは、驚きのあまり叫んだ。
「はぁあああ⁉︎ に、日帝⁉︎ 」
「よ、ナチ」
お決まりの大きな猫耳と、ふさふさのカギ尻尾。緑色がかった軍服に身を包んだ彼が、部屋の奥に置かれたソファの上から手を振った。猫らしくクッションに身を沈めるようにしてくつろいでいる。ナチスは顔を引き攣らせた。
「な、なんでお前がこんなとこに……」
「ソ連とこの本を読みにきてたんだ。こいつ、意外と面白い本持ってて」
言いながら日帝がニコッと笑った。
「黙ってたら驚くかと思って、黙ってた」
「いや驚いたもクソも無ぇよ……んでこんなとこいんだよ」
「おいちょっと待て、こんなとこってなんだこんなとこって」
ソ連がつっかかる。
「一応これでも今の俺の家なんだが?」
その言葉にナチスが喰ってかかった。
「“こんなとこ”だろーがよ!こんな辺鄙なところを居住の地にしやがって!もっと俺とか日帝とかが住んでる近くにすりゃ良かっただろーが‼︎ 」
「へっ、さびしんぼかよ」
「違ぇよ!こんなとこまで会いに来るのがめんどくせぇんだよ!テメェが出てこないせいでわざわざ俺が歩いて来てやってるんだろうが!」
「……!」
一瞬驚いたような顔をしたあと、ソ連がにやっと笑った。
「へー……嬉しいこと言ってくれんじゃん」
ナチスが若干、胸を張るようにして答える。
「ま、昔ながらの腐れ縁、てやつ?時々お前んとこ顔出して話すのも悪くねぇな、って最近思うようになってさ」
「なんか今日は素直だな、ナチス」
窓辺までやって来た日帝が、ソ連の隣で机に肘をついた。その耳がぴこぴこと動いている。窓からの陽光に照らされ、日帝は心地良さそうに目を細めた。こうして見るとただの日向ぼっこしている(可愛らしい)猫となんら変わりはない。その猫耳を無性にもふもふしたい衝動に駆られながらもそれをなんとか抑え、ナチスは日帝を睨みつけた。
「俺が素直じゃないみたいな言い方するな」
「え?素直じゃないだろ?いわゆる……えっと、つん……つんだれ?だる?」
「ツンデレだろ」
ソ連が横からそう言うと、日帝は顔を輝かせた。
「そう!それだ、ソ連。ナチス、お前はいわゆるツンデレってやつだと思うぞ、俺は」
ナチスは不満そうに口を尖らせた。
「ツンデレ?俺が?んなわけないだろ」
「いやツンデレだろ!この間、たまたまツンデレという言葉の意味を知ったんだ。ナチス、お前はまさにツンデレだ。えーと、確か俺が聞いたところによると………ッッミギャアァッ‼︎‼︎」
いきなり日帝が叫んだ。ナチスがギョッとして日帝の方を見ると、ソ連が彼のたっぷりとしたカギ尻尾を掴んで撫でまくっているのが目についた。
「おいソ連!お前何やって……」
「へ?」
驚いたようにナチスを見たソ連は、その時初めて自分が日帝の尻尾を掴んでいることに気がついた。慌てて尻尾から手を離すと平謝りする。
「い、いや日帝っ、すまんっ!尻尾を目の前でゆらゆらされて……それで、つ、つい……」
一方、机に完全に突っ伏した日帝は、その背中をビクビクと痙攣させながら泣き声のようなものをあげていた。
「い゛………いだい……お腹ぐるぐるすりゅ……っき、きもぢわる、い」
「あーあーもう、ソ連何やってんだよ……猫のしっぽは無闇に触っちゃいけねぇって知らなかったのか?」
「いやほんとに申し訳ないって」
ソ連が頭をかきながら言う。しかし日帝はナチスの言葉の方が気に食わなかったようだ。
「黙りぇ……俺ぁ……猫、じゃない……」
「………ブハッ」
ナチスが吹いた。
「いやどう考えても猫だろ」
「猫じゃないぃ……うぅ……背中いだいし脚ガクガクしゅる……っ吐きそう……」
「まじで大丈夫か?」
「しっぽ……触られたの久しぶりで……」
「え⁉︎ そんなに強く握ってないぞ、俺⁉︎ 」
「ソ連て馬鹿力だからなぁ……」
ナチスが呆れたように言う。日帝がえずいた。
「おぇっ………」
「ちょ、ほんと大丈夫⁉︎ 」
「背中いだいぃ……ソ連許さん……」
「許してくれよ……今度、高級和食でも奢ってやるから」
その言葉を聞いた途端、日帝がパ、と顔を上げた。しかめ面のまま一言。
「許す」
「…………なんなんコイツ」
ソ連が本当に困惑したような視線を日帝に向けたのがあまりにもおかしくて、ナチスは笑い転げた。
「あはははははははは!あー、面白い」
「そんなに笑うこたねぇだろ……あ」
ふとソ連が気付いたようにナチスを見た。
「お前、そんなとこ立ってないで入って来いよ。玄関空いてるから」
「え、良いのか?」
ナチスが涙を拭いながら聞く。ソ連は頷いた。
「そうか。じゃ、ありがたくお邪魔させてもらう」
ナチスがそう言い残して表に回った。それを目で追っていたソ連は、何かに勘づいたように日帝を見た。
「そういや日帝、お前さ、第二次大戦中のなんかの会議の時、アメリカにしっぽ掴まれてなかったか?」
「あ゛ー、掴まれたな」
ブル、と身震いして日帝はソ連を見た。
「思い出させるなよ……」
「なんで」
「お前がさっき握ったより強く握りやがったんだよアイツ!」
日帝が叫んだ。ソ連が身をビクつかせる。
「そ、そんなに……?」
「そんなにだよ!強く掴んで引っ張るわ撫で回すわで……ほんとにもう、あの時は最悪だった」
両腕で自分の身体を抱きしめるようにして、日帝は顔を青ざめさせた。
「その日はもう……仕事に集中できないどころか腹は下すし、嘔吐は止まらないし……一時間に三回の割合で厠に行ってた。その後一週間はまともに歩けなくて杖ついてたし……」
「……大変だな」
ソ連の顔が今度は青ざめた。
「あの時は……とにかく、米国に、いや……誰にでも弱みなんて見せたくなかったから、なんでもない風に振る舞ってたけど。実際はものすごく大変だったんだからな」
日帝に睨みつけられ、ソ連は小さくなった。
「本当に……すまない」
「いや、もう大丈夫だ。飯奢ってくれるんだろ?今度」
「………本気だったのかよ」
「当たり前だろう」
日帝が再び机に肘をつく。そのまま、ソ連の顔を見上げると日帝は目を細めて笑った。
「この部屋……というかソ連の家、本当に居心地が良いな」
「そう?」
「うん。和む」
「………なんかさ、日帝、あの時から比べたら随分丸くなったよな……良い意味で」
「そうか?」
日帝が耳をピクピクさせた。日帝にしたら無意識のうちの行為なのだろうが、あまりの可愛らしさに、(本人に言ったら間違いなくブチギレられるので、口が裂けても言えない)思わず撫でたい衝動に駆られる。
「……なぁ日帝、耳なら……触っても平気か?」
「え?耳?……んー……まぁ良いか」
「ありがとう」
「恥ずかしいからあまり触らないでくれよ……」
「?」
何が恥ずかしいのかは聞かずにボフッと日帝の頭に手を置いたソ連は、そのまま手をスライドさせるようにして耳を撫でた。途端に日帝の喉が「クルクルクル……」となった。
「フフッ……本当に猫じゃん」
「……だから恥ずかしいって言ったのに……」
「いやー、癒される」
「黙れ………」
不機嫌極まりない、と言った雰囲気でソ連を睨みつけた日帝だったが、ふと頼りなげに視線を彷徨わせた。彼のその様子に気づき、「……日帝?」と聞いたソ連には答えず、日帝は遠くを見つめると、静かにつぶやくように言った。
「……俺さ、本当は……自分が死んだかどうかもわかってないんだ」
「は?」
「納得してない、って言ったら適切かな」
「……どういうことだよ」
ソ連が眉を顰めた。一方、日帝は呑気に欠伸を噛み殺した後、(猫さながら)ぐっと伸びをした。ソ連とは目を合わせずに、穏やかな声で続ける。
「そのままの意味だよ。……俺、日帝は───大日本帝国は、消滅したのか、それとも“この世界”で生き、存在し続けているのか」
「………」
「でもおそらくこの世界はさ、もう、存在しないやつらの集まり……なんだろうな」
日帝は寂しそうに微笑んだ。
ソ連が静かに言った。
「そうだろうな……そうなんだろうな。俺たちはここにいるのに、アメリカやイギリスはいない。……ロシアやウクライナはここにいないのに、俺だけここにいる。まぁ、でもそれで良いじゃねぇか」
ソ連は、誠実そうな瞳でこちらを見上げている日帝に笑いかけた。
「今は、争わなくて……殺し合わなくて良いんだ。それでも楽しくやってけてる。そういうことなんだろう、ここにいるってことは。だったら……俺は、このままで……良い」
「ソ連……」
日帝が思わず、どこか泣きそうな声でソ連の名を呼んだ、その時だった。
何か、乾いた木が割れるようなメリメリッという音がした後、バァン!という炸裂音が響き渡った。日帝とソ連は文字通り飛び上がり、玄関につながる廊下の方を顧みた。そこにあった光景を見た二人は、そろって口をぽかんと開けた。馬鹿面を晒した二人の前には、その例の玄関が、ドアの長方形の形を綺麗に残したまま大口を開けて外の風景を晒していた。そしてその景色をバックに、片足を突き上げたまま突っ立っているナチス。
「お、開いた」
お気楽そうな声でナチスが言った。ナチスのあの細い身体に、どこにそんな力があったのやら……と元同盟国に呆れる日帝を他所に、固まっていたソ連が数秒ほどしてから爆発した。
「おっ………まえ……お前ぇっ!何やってんだよドア壊すんじゃねぇよ‼︎‼︎ 」
室内が瞬く間に賑やかになった。
コメント
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最後ら辺のナチの若干空気読めてないところほんっと大好きです🥹ほっそい身体でドアぶち破るところ笑いすぎて腹壊れそうになりました😇