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[サンプル]
💛
「涼ちゃん」
「ん?…あぁ、はいはい」
洗濯物を畳んでいると、後ろから声をかけられた。俺の名前を呼びかける若井の声に振り返ると、その手には爪切りが握られていて、 言葉を交わさなくともなんとなく意図が伝わった。
若井はテーブルに置かれているティッシュを一枚取り俺の真正面に腰を下ろした。ラグの上にティッシュを置いて、その上に白くてすらりとした細い脚をのせる動作を横目で見ながら残りの洗濯物をぱぱっと畳む。
「じゃ、よろしくお願いします」
「はい、任されました」
爪切りを手渡され、かしこまった様子の若井とお辞儀し合う。
いつ頃だったか。同棲を初めてから何ヶ月か経ったあたり、若井が「涼ちゃん、めんどくさいから足の爪切って〜」と頼んでくるようになった。
不定期に、なんども。
断る理由もないのでそのたびに承諾していたら、いつのまにか俺の方から「そろそろ伸びたんじゃない?切ってあげようか?」とつい声をかけてしまうほどになってしまっていたのだ。
「わぁ、伸びたねぇ。最後切ったのいつだっけ?」
「へたすれば1か月前…とか?笑」
「そ、そんなに…!?靴下の穴めっちゃあかない?」
「気になるとこそこ?笑 まぁたしかに、何個か空いちゃって捨てたかも」
「最近俺らの時間合うの少なかったしね…そりゃ伸びちゃうね」
今バンドとしての活動は休止している俺らは同棲しているものの、たまーに2人の生活リズムがズレて、ほぼ顔を合わせない時期ができる。
それでも、一緒に住みはじめたことにより前までどこか感じてた俺と若井の間に隔てる壁の存在はどんどん薄くなっていき、なんと恋人という関係性にまで発展した。
本当に、人生何があるか分からないものである。
「涼ちゃんと久々にゆっくりできるの、嬉しい」
それこそ今のように顔を赤く染めながら可愛らしいことをつぶやく若井の姿なんて、今までのただのメンバーという関係性だったら絶対見れていないだろう。
普段は俺をイジってケラケラ笑う悪ガキみたいな若井だけど、たまに悶絶級に可愛いことをかましてくるから油断出来ない。
「……もぉー、ひろぱちゃんったら可愛いんだから!今度新しい靴下いっぱい買ってあげる」
「うん…ふ、ふふ、いや、いいよいらない笑」
「えぇ、なんで?靴下なんかどんだけあってもよくない?」
「いらないよ笑」
俺が年上で若井が年下ってのもあるのか、若井の笑顔を見ると、少々過激だろうが『この子は一生俺が守る』という感情さえも湧いてくる。それくらい可愛いし愛おしい。この同棲生活で俺はすっかり若井に惚れ込んでしまったのだろうな。
「…ねー、若井そんなにうごかないでよ笑」
「ごめっ笑、ふふっ…」
何がツボだったのか分からないが、未だくすくすと肩を揺らして笑う若井。
かわいいけど、その度にぴくぴくと足が震えるので誤って切りすぎないよう気をつけながらもパチン、パチンと爪を切りそろえる。
その間はひたすら他愛もない話で盛り上がるのがお決まり。
近所の公園の遊具やベンチが最近塗装されていたこととか、 元貴と久々に会ったら髪色が変わっていたこと。 それから、散歩をしていたら野良猫の集会をたまたま見かけたこと。
「それでいうと」って接続詞をよく使ってしまうので、話が脱線…というか変わってしまうのは俺のくせだ。
でも、その度に若井はツッコミながらも話題についてきてくれる。そんなところも好きだなぁと思う。
今まで会えなかった分を帳消しにするくらい話し込んでしまい、気づけば爪のやすりがけまで終わってしまった。もう終わっちゃった、とすこし残念。
「はい。終わったよ」
「ありがとう、ね、涼ちゃん」
「ん?」
切った爪をティッシュごとくるみ、近くに置いてあるゴミ箱に捨てる。
そして若井の方を再度向くと、ぎゅっと勢いよく正面から抱きつかれた。ふわりと香ってくるシャンプーや若井自身の匂いに少しだけ脈打つ心臓に気付かないふりをして平静を装う。
「っ、どうしたの?」
「涼ちゃん、えっちしよ?」
「!」
頬をうっすら桃色に染めながら、どこか色っぽい視線を俺に向けてそういう若井。腕は俺の首に回され、さらに俺と若井の密着具合を高めていく。 小さく引き締まった丸いおしりは俺の股間に当たっていて、ごくりと唾を飲み込む。
まったく、こんなのいつ覚えたのか。
相変わらず夜のお誘いが上手い恋人である。このまま勢いに任せて覆いかぶさり全身余すとこなくおいしくいただきたいところだが、余裕のない男なんて思われたくない。
冷静。冷静に。
「……うん、しよっか」
「!ね、だっこして?」
「えぇっ、だっこぉ…?俺力ないよ〜…」
「いいじゃん、寝室までね!」
先ほどまでの色っぽい顔はいつものように俺をからかうときのにやにや満足気な笑顔へと変わる。
ほんと俺に対してだけ若井はわがままちゃんになるなぁ…。
まあでも、そんなところもとてつもなく可愛く感じるので結局俺と若井の相性はいいのだと思う。
「もう〜…落ちないように気をつけてね」
「え、それは涼ちゃんが守ってくれるでしょ?」
「いや、保証はできない!」
「なにそれ!保証してよ!」
……傍から見ればバカップルの痴話喧嘩のようなのだろう。若井は俺と同じ男なのになぜこうも彼女感が溢れるのか、不思議である。
「はい、ちゃんとつかまっててよ」
「うんっ」
あぁもう、かわいいな。
何してても可愛く見える。
ふぅ、と息を整えて若井のお尻の下で手を組んで、今の体勢のまま立ち上がる。勢いでやってみたものの、思ったより若井が重いのと俺の力がなかったのか、安定感はまるでない。
グラグラと不安定の体勢なので、さすがに若井も焦ったのかぎゅうぅっと腕と脚をつよく俺にしがみつかせてきて、ちょっといたい。
「わっ、涼ちゃん!落ちるっ!!」
「いだっ!いたいよ若井っ!だから言ったじゃん〜っ」
「はははっ!ねえ涼ちゃんもっとがんばってよ笑」
なぜかきゃっきゃっと楽しそうな若井に、この笑顔が見れるならやってよかったかもと思ってきた。つくづく自分はチョロい彼氏だと思う。
一旦体勢を整えると、先ほどの体勢が悪すぎただけだったのか、案外すぐに安定し出して移動できそうになった。寝室まではそんな遠くないのでこれならしっかり到達できそうだ。
「涼ちゃん、意外と力あるんじゃん。筋トレしてるから?」
「えーそうなのかな。…それでいうとさ、」
するり、と片手で若井のお尻を撫でる。
「若井も最近筋トレしてるようだけど、お尻はずっとちっちゃいよね」
「!?そりゃ、下半身は鍛えてないし…、って、ちょ、やだ、セクハラ!」
すりすりと撫でているだけだった手を、今度は軽く揉む動きに変えてみる。ぺしぺしと俺の肩を叩く若井が可愛くて、さらにもみもみと若井の尻の感触を楽しむ。
「セクハラって…彼氏なんだからいいでしょう?若井ってばひどいなー」
「ん…っ、は、りょ、うちゃん?」
こそばゆいと気持ちいいの真ん中くらいの感覚なのか、先程までの余裕綽々な雰囲気はだんだんと消え去り悩ましげに眉を寄せながら甘い息を漏らすようになった。
もじ、と身をよじろうとするけど俺が抱っこしてるんだからほとんど意味は無い。
「ん?なぁに?」
涼ちゃん、って若井がいったからそれに応じただけなのに。若井は一瞬目を見開いて、そのあと小さくため息を漏らした。
「…っ、はぁ、ほんと…。涼ちゃんっていつスイッチ入るかわかんないわ」
「?スイッチ?」
「なんでもない。それより涼ちゃん、けっこう溜まってるんじゃないの?」
「えっ」
急に若井に図星を突かれる。
若井とスるのがかなり久々というのもあるが、なにより性欲が溜まっている感覚がなかったので自慰をあまりしてなかったのだ。まあもともと性には淡白な方だからそれでもあまり支障は無かったのだが。
「図星?……じゃあ、今日はいっぱい俺で発散していいよ」
…なんて誘い文句だろうか。
ほんと、一筋縄には攻めさせてくれないらしい。こんなことを言われて耐えれる男なんていないと思う。
さっきまでは割と、こっち優勢だと思ったんだけどなぁ。
現に俺は頑張って演じていた『余裕のある恋人』というイメージが一瞬で吹き飛ぶであろうほどに早足で寝室へ向かい、なし崩しにベッドに若井を押し倒した。