コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「君、こういうサークルなんだけど入るかい?」「……え?」
気付けば、目の前に男性が立っていた。
痩せ型の体形の彼は、私にプリントを差し出していて。
「あ、あの。つかぬ事をお聞きしますが、ここはどこですか?」
突拍子もない出来事の連続に、自分で頭の中の記憶を探るという事を忘れて訊いてしまった。
今、気付いた。
「え? ここ大学だけど、どうしたの?」
「……???」
私がはてなを浮かべていると、男性も首を傾げて、あら不思議。同じポーズ。
「まあ、いきなり話しかけた俺が悪い。困惑しちゃったよね? とりあえず、このプリントだけでも」
「え、ええ……」
大学、そうだ。大学に入ったんだ。
今の私には、いつの間にか蓄えた知識と記憶がある。
(ふーむ、サークル……か。入ってみるかな)
私に手を振り、見送ってくれる男性に、愛想を含めた苦笑いを浮かべ、帰路につこうとした。
その時だ。
また、感覚が遮断され、いつの間にか場面が切り替わっていた。
「いやー、わがまま聞いてくれてあんがとね、ひいちゃん」
「……えっ、えっ?」
気付けば、周りは海で、私は砂浜に体育座りしてる。
遠くの夕暮れが綺麗で、海も黄昏に染まっているけれど、問題な事に、私の隣に男性が。
しかも、話しかけてきてるし、顔を見れば、サークルに誘った男の人。
なんでこの人、ちゃん呼びしてきてるんだ? なぜ、なぜ……。
……いや、思いだした。
「まさか、俺達、付き合うなんてね。自分でもびっくり」
この人はがくとさん。
私を、サークルに誘って、そのサークルにいたヤリチンの被害に合わせた張本人。
もちろん、がくとさんも責任を感じて、必死に私を守ってくれた。
でも、必死になりすぎて、男の人が話しかけてきただけで、相手からガードしたり。
いっとき、この人が先輩だから、ボディーガード先輩なんて呼んでたっけ。
「ひいちゃん、こんな俺を好きになってくれてありがとうね」
そう、私はこの人に告白した。
自分でも馬鹿らしいけど、こんな私に必死になってくれるのが、ただ嬉しくて。
彼の事が、可愛く思えて、気付けば惹かれてた。
「ふふ、ふふふ」
「んー? 何がおかしいの? ひいちゃん」
「いえ、なーんでもないですよ。ボディーガード先輩♡」
「あーっ! また、その呼び方した! 俺、そう呼ばれるの嫌いって言ったじゃーん!」
「ふふふ、あはははははは!」
楽しい、楽しいな。
そうやって、ひとしきり笑って。
彼の方を見ると彼がいなくなってた。
「……???」
気付くと周りは、スーツ服に身を包んだ人がどたばたとしていて、私も女性用のスーツを着てた。
「……あれ?」
なんで。そう思うが、その思考を阻害するように、周囲は慌しくしていて、考えようにも人が話しかけてきた。
「高木さん! これっ、取引先の!!」
……取引先?
ぼんと置かれた書類には、細かい文章が並んでいて、見ているだけでいやになりそう。
書類の先には、ノートパソコン。隣には、分厚くなったファイルがズラリ並んでいて。
周りの人を見れば、バタバタ移動する者や、血走った目でパソコンに向かい合う者。
はたまた、少し離れた所に設置されてるプリンターが変な音を出し始めて、近くにいた男性が「あれ!? まさか壊れた!?」なんて言う始末。
これは仕事場、だよね? 私の記憶にも就職した思い出あるし。
(え〜〜〜、やだー。とりあえず、自分の仕事やらなくちゃいけないや〜ん)
残業にもなって、疲れ切って終わらせたのに「飲み会行こうぜ〜!!」なんて言ってるハゲの上司をぶん殴りたいが、私は業務中に大事な事を思い出したのだ。
「どうだーい? 高木くんもいかないかーい?」
……、うん殴りたい。
でも勘弁してやろう。私のこれからの用事の方が大事。見逃してやる。
会社をでて、いつもの帰り道とは違う道を辿り、小走り程度に早く歩いていく。
ヤバい、待ち合わせに遅れる。
ある噴水広場に着くと、あの時の彼がいて。
コートを身に纏い、片手をポケットに突っ込んで、スマホをいじる彼は、どこか様になっていた。
こそこそと、足音を立てないよう忍者歩きして近付く私。
彼の元に辿りついては、ニヤニヤしながら彼の肩を、とんとん叩いた。
「せーんぱい! お久しーです!」
「おっ……! ひいちゃん久しぶり! で、なにその挨拶?」
「へへへ、私流のご挨拶ですよー」
「まったくもー」
ひとしきり、二人で笑って、街に繰り出す。
お買い物して、ちょっとお高めのアクセサリー買ってもらったり、二人で本屋に立ち寄ったり。
たまに好きな本の議論になって、疲れては、オシャレなレストランにいって。
お腹いっぱいになって、最後に飲んだ赤ワインで頭の中も、曖昧な気持ち良さでいっぱいに。
「せんぱ〜い、そろそろ結婚しましょーよー」
べろべろに酔った私は、心の片隅に置いといた物を意図もたやすく言葉にしてしまう。
しっかりとした場面に言おうと思ってたのに、勿体ない。
まったく自分てやつは、つくづく。
「うーん、でも、ひいちゃんの仕事落ち着いたにしよーね?」
「うわ〜ん、うわ〜ん! せんぱいがいじめりゅ〜!!」
「こらこら」
がくとさんの腕にしがみついている私に、イヤそうな素振りを見せない、苦笑いな仕方ない、というような表情。
あー、居心地がいい。
これがずっと続けばいいのに。
「……ぬっ! あそこにラブホが! 隊長、初めてを今日やっちゃいますか!!!」
「な、なにその軍隊みたいな」
まあ、いいよ。
赤い頬をさらに紅くして、私の言うがままに付き合うがくとさん。
大学の時は、ヤリチンに連れて行かれそうになったラブホだけど、ようやく本来の使い方が分かった気がする。
がくとさん、好き。